Hugging FaceがNVIDIA傘下に入った理由
オープンソースAIの拠点Hugging Faceを、NVIDIAが約129億ドルで買収すると発表した(NVIDIAブログ、TechCrunch)。興味深いのは、話を持ちかけたのがチップ最大手のほうではなかったことだ。CEOのClem Delangue(クレマン・ドラング)氏が、夏に自らJensen Huang(ジェンセン・フアン)氏のもとを訪れた。しかも昨年は、同じNVIDIAからの大型出資を一度断っている。何が変わったのか。
Hugging Faceは、AIのモデルやデータセット、アプリを公開・共有するためのプラットフォームだ。Google Docsが書類の置き場、GitHubがプログラムのコードの置き場だとすれば、Hugging FaceはオープンなAIモデルの置き場と言える。開発者は約1,800万人、企業利用は約20万社規模とされる。自前で巨大なクローズドモデルを売る会社というより、世界中のオープンモデルが集まる拠点として知られる。
昨年、Hugging FaceはNVIDIAからの約5億ドルの出資案を拒んだ、と複数の報道は伝える(TechCrunch)。理由は単純だった。「支配的な投資家に、会社の舵を取られたくない」。評価額は当時約70億ドル規模とされ、独立を守る判断だった。
ところが今年の夏、流れは逆になる。Delangue氏はCNBCのインタビューでこう説明した。Delangue氏は、夏のあいだに「惑星が一直線に並んだ」と言う。考えを変えるいくつかの出来事が同時多発的に起こったという意味なのだろう。なのでHuang氏に会いに行き、「オープンソースAIを本気で大きくしたい」と伝えた。Huang氏は「やろう」と快諾。数週間後、約129億ドルの買収合意に至った、という。
Delangue氏が言う「惑星が並んだ」というのは、次のようなことらしい(同CNBC、The Register)。
ひとつは、業界の分かれ道が誰の目にもはっきりと見えるようになってきたことだ。クローズドなAPIに世界がAIを外注する道と、誰もがAIの利用者だけでなく「作り手・持ち主」になれる道。MicrosoftのSatya Nadella 氏や、PalantirのAlex Karp 氏らが、「自分の会社のAIは自分で作って、持つべきだ」と主張し始めた。Delangue氏自身も誰もがAIの「作り手・持ち主」になれる道を本気で推し進める必要がある、と考えるようになったと言う。特にAnthropicのようなクローズド企業が巨大化し、上場も控えるなか、オープン側がクローズドモデルの代替として選ばれるには、いまのHugging Faceの規模では足りない、という危機感を持つようになったというわけだ。
もうひとつは、夏に起きた安全保障の実体験だ。Hugging Face自身がサイバー攻撃に直面したとき、クローズドなAPIでは守れず、オープンモデルで防衛した、とDelangue 氏は振り返る。
クローズドモデルは、安全対策として危険な使い方を制限していることが多い。攻撃側がそのモデルを使っても、何をどう悪用したのかが外から見えにくい。一方、重みまで公開されたオープンモデルは、同じ種類の能力を防御側も手元で試し、攻撃の手口を推測したり、対策を作ったりしやすい。クローズドモデルだけでは、防御側が自分で守るための十分な道具を持てない。だからオープンモデルを広げる必要がある、という考え方だ。
さらに、相手との「思想の一致」も揃った。夏にHuang 氏らが名を連ねた、オープンウェイトを支持する共同書簡などが、「目指している方向が近い」ことをはっきり示した。Delangue氏は、だからNVIDIAに話を持っていった、と説明する。
Delangue氏は、誰もがAIを作り、持てる道を推進するには、「もっと計算資源が要る、支援が要る、協業が要る、見え方が要る」と繰り返し語っている。(TechCrunchが伝えるX投稿)。
「計算資源」は、世界中の利用者がオープンモデルを回すためのGPUがより多く必要になる。Hugging FaceがNVIDIAの傘下に入ることで、プラットフォームとしての計算資源の基盤を強化できるようになる。
「支援」は、1,800万人規模のビルダーを、数年で1億人へ伸ばすための後ろ盾だ。NVIDIAという大きな後ろ盾を得ることで、10年後もコミュニティへの支援を提供できるという見通しがより強固になる。
「協業」は、モデルやデータを出す側との連携、各国の主権AI(ソブリンAI)、防衛用途への展開など、プラットフォームの利用者や連携先を増やし続けるためのつながりも、NVIDIA傘下に入ることで確立しやすくなる。
「見え方」は、クローズド陣営が巨大化するなかで、NVIDIA傘下に入ることでオープンが「おまけ」ではなく本命の選択肢として社会に見えるようになる。
昨年の拒否と、今回のHugging Face側からのオファーは、心変わりというより「守りたいものの形」が変わった、ということなのだと思う。昨年守りたかったのは、大口出資者に左右されない独立性だった。今年の夏は、オープンソースAIという道そのものの「勢い」を守りたいと思ったのだろう。
Delangue氏のこの判断は、オープンモデルとクローズドモデルの勢力争いが大きな転換点を迎えていることの証拠なのかもしれない。