AIスタートアップがGPUインフラの自前化へ チップもソフトも一点突破では足りず
AI半導体の米Cerebras社が8月12日に発表した2026年第2四半期決算は、この一年の変化を一枚で示していた。コア売上は前年同期比103%増の2億990万ドル。ただし内訳を見ると、ハードウェア売上は5410万ドルで23%減り、クラウドなどのサービス売上が1億2770万ドルで287%伸びた。チップは売れなくなり、チップを動かすサービスが伸びている。
同社は過去7か月で600メガワット超のデータセンター容量を確保した。稼働済みか2027年末までの納入契約済みの分で、案件のパイプラインはギガワット単位で語られる。決算説明会で共同創業者兼CEOのAndrew Feldman氏が読み上げた拠点は、アラバマ、ダラス、デンバー、ミネアポリス、サンタクララ、ストックトンに加え、フランス、フィンランド、ノルウェー、カナダ。7月には欧州で2027年末までに200メガワットを整備すると発表し、Feldman氏はこれを数十億ドル規模の拡張だと表現した。
モデルの性能差が縮み、チップの優位も長続きしない。この認識はすでに業界に共有されている。2026年に起きているのはその次の段階だ。収益を上げ始めたAIスタートアップが、出発点の違いを問わず揃ってGPUインフラそのものを押さえにいき、その上に最適化と運用のサービスを載せ始めた。
自社チップを失った会社が、NVIDIAの機材を運用する
転向がもっとも極端に出たのがAI半導体の米Groq社である。2025年12月、米NVIDIA社が約200億ドルの非独占ライセンス契約で同社のLPU技術を取得し、創業者兼CEOのJonathan Ross氏と社長のSunny Madra氏らを引き抜いた。3月のGTCで、NVIDIAはGroq技術を組み込んだLPXプラットフォームを発表している。
残されたGroqが選んだのは、自社チップの再開発ではなく、NVIDIA製システムを運用するデータセンター事業への転身だった。NVIDIA Cloud Partnerの認定を取得し、リファレンスアーキテクチャに沿って設計・運用する立場に回った。かつての挑戦者が顧客になった格好である。6月に6億5000万ドル、8月17日に3億5000万ドルを調達。評価額は35億ドルで、2025年9月の69億ドルから下がった。現在13拠点で54メガワット、2027年に200メガワット超を目指す。会長でDisruptive CEOのAlex Davis氏は「Groqを世界最高のAI推論クラウドに育てている」とコメントした。
推論チップの米SambaNova社も同じ道を通った。2025年に従業員の15%を削減して学習用ハードの販売から撤退し、現在はAPI提供、専用システム、そしてクラウド事業者が自社推論サービスを立ち上げるためのturnkey提供という三本立てになっている。
ソフトウェア起点も同じ場所へ
反対側から同じ地点に着いたのが、オープンソース研究発のAI推論基盤企業だ。
米Together AI社は7月1日に8億ドルを調達し、評価額は83億ドルとなった。注目すべきはエクイティ以外の部分で、今回の8億ドルの調達とは別に、新規投資家の資金支援を受け、500メガワット超の計算能力を確保する契約も結んだ。今後5年で容量とインフラを約50倍にする計画だ。共同創業者兼CEOのVipul Ved Prakash氏は発表文で、本番AIの経済性はモデルだけでは決まらず、カーネル、コンパイラ、推論システム、学習インフラ、ハードウェア利用率を含む全スタックで決まると書いている。年間ブッキングは前四半期に11億5000万ドルを突破した。
米Fireworks AI社は7月16日に15億500万ドルを調達し、評価額175億ドル。年換算売上は10億ドル超で前年比5倍、1日の処理量は40兆トークンに達する。当初は150億ドル評価を狙っていたが、投資家の需要が上回って上振れした。同社はAI訓練用GPUの提供も始めており、CoreWeave、Lambda、Nebiusといった既存のneocloudと同じ領域に足を踏み入れている。推論ソフトウェアの会社がGPU貸しに降りてきた形だ。
背景には粗利の問題もある。米調査会社Sacraの推計では、Fireworks AIの粗利率は約50%にとどまる。GPUの利用に多額の費用がかかるためで、サブスク型ソフトウェアの70%超には届かない。
NVIDIA自身がこの流れを設計
自前化を促しているのは需給だ。米投資会社Apollo Global Management社の6月のレポートは、オンデマンドGPU容量が実質的に完売し、旧世代チップですら賃料が2024年以来の水準まで上がっていると指摘した。米調査会社SemiAnalysisによれば、H100の1年リース価格は2025年10月の1時間1.70ドルから2026年3月に2.35ドルへ約40%上昇している。エージェント型のワークロードは従来のチャットボット型の100倍から1000倍のトークンを消費する。
NVIDIAも、こうした新興企業によるGPUインフラの確保を資金面で支援し始めた。7月2日には、GPUの利用収入を資金提供者と分け合う仕組みや信用保証を活用し、AIクラウド事業者がNVIDIA製GPUを購入しやすくする制度を発表した。支援対象にはBaseten、Fireworks AI、Together AIを挙げている。新興企業は将来の長期利用契約があっても、それを裏付けにGPUの購入資金を調達することが難しかったためだ。
もっとも、全員が同じ賭けをしているわけではない。米Baseten社は約20のクラウド事業者からインフラを借り、87クラスタ・18クラウドに分散させる戦略を維持している。6月に15億ドルを調達し評価額は最大130億ドル、年換算売上は3か月で2億ドルから6億ドルへ伸びた。どこか1社が逼迫しても空き容量に処理を回せる点を強みとする。
自前化にも代償はある。設備投資と負債が膨らみ、急速に価値の落ちるハードウェアを抱え込む。CoreWeaveがまさにその点で投資家の懸念を集めている。同じ「インフラへ」でも、Together AIやFireworks AIの拡張と、評価額を半減させたGroqの転身とでは意味が異なる。共通しているのは、モデルでもチップでもソフトウェアでも、一点だけを持っていても事業として立たなくなったという認識のほうだ。