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Fei-Fei Li氏のWorld Labs、次世代世界モデル「Atlas」発表 1枚の写真から3D空間を再構成、ロボット訓練にも

公開日
2026.09.02
Fei-Fei Li氏のWorld Labs、次世代世界モデル「Atlas」発表 1枚の写真から3D空間を再構成、ロボット訓練にも

空間知能AIを開発する米スタートアップWorld Labsは9月1日、次世代の世界モデル「Atlas」を発表した。テキスト、画像、動画、3Dを単一のモデルで扱う「オムニモデル」で、同社によるとゼロから事前学習した。1枚から数十枚の写真をもとに3D空間を再構成し、指定したカメラの動きで新しい映像を生成できる。ロボットのシミュレーション環境づくりにも使える。現在は限られたパートナー向けの早期アクセス段階で、今後は同社の3D生成サービス「Marble」の基盤になるという。

「監督の椅子に座る」

Atlasの中核は「空間コンテキスト」と呼ぶ仕組みだ。大規模言語モデル(LLM)が文章をコンテキストとして読み込んでから続きを生成するのと同様に、Atlasは入力された画像をコンテキストとして読み込む。ただし違いは、それぞれの画像が3D空間上の位置とカメラの向きにひも付けられている点にある。モデルはこのコンテキストを手がかりに、見えていない部分を推測しながら、3D的につじつまの合った映像を生成していく。

これにより、動画生成の制御方法が変わると同社は主張する。従来の動画生成AIは「カメラを右にパンして」といったテキストでカメラの動きを指示するしかなかった。Atlasはカメラの位置と角度を数値として直接受け取るため、「画素単位で正確」なカメラ制御ができるという。同社は発表文で「ユーザーは監督の椅子に座ることになる。場面を演出するのであって、スロットマシンのレバーを引くのではない」と表現している。

具体的な性能として、1枚から数枚の参照画像と手作業で設計したカメラ経路から、1440p解像度で1分間の動画を生成した例を公開した。1枚の写真からロボットの背面や、プールの脇にある芝生など、写真に写っていない部分を「世界知識」で補って描く。無関係な2枚の画像を3D空間に配置すると、その間をつなぐ廊下やドアをAtlasが創作して、連続した世界に仕立てることもできる。

「見せれば見せるほど、想像しなくなる」

3D再構成は、コンピュータービジョンの分野で数十年来の課題である「少数の画像からの新視点合成」に対する大きな前進だと同社は位置づける。発表文によると、2、3枚の写真があれば忠実な再構成ができ、100枚以上の写真を読み込ませれば実在する環境をより正確に再現できる。同社はこれを「見せれば見せるほど、想像しなくなる」と説明する。デモでは、地上で撮った2枚から25枚の写真だけで、スタンフォード大学のキャンパスを上空から俯瞰する映像を生成した。

出力は映像だけでなく、点群や3Dガウシアン・スプラット(3D空間を大量の微小な楕円体で表現する形式)といった明示的な3Dデータとしても取り出せる。ゲーム、デザイン、VFX、ロボティクスなど、3Dデータそのものを必要とする用途を想定している。

時間軸の扱いも特徴的だ。スマートフォン3〜5台で撮影した映像から、映画「マトリックス」のように時間を止めて視点を回り込ませる「バレットタイム」映像をつくれる。同社によると、デモ映像は専門の撮影スタッフではなく、数人のエンジニアがリュックに入る三脚とスマホで撮影したものだという。

ロボット訓練への布石

同社が特に力を入れて説明したのがロボティクス用途だ。スマホで撮影した動画から24フレームを使って倉庫のような大空間を再構成し、その中を仮想ロボットに走行させ、ロボットの搭載カメラが見るはずのRGB画像と深度データをAtlasが生成する。「世界と、その世界に対するロボットの視点が、同じモデルから出てくる」と同社は説明する。物体の操作についても、少数の撮影記録から物体の動きや相互作用を含むシミュレーションを構築し、物体の位置や照明、背景を変えて大量の訓練データを生成できるとしている。

この方向性は同社の最近の動きと一致する。World Labsは7月21日、ロボット向けシミュレーション技術を開発するSceniXを買収した。SceniXはコロンビア大学のYunzhu Li氏とChangxi Zheng氏が創業した会社で、現実空間をシミュレーションに取り込み、そこで学んだ動作を実機に戻す「Real-to-Sim-to-Real」を専門とする。Fei-Fei Li氏は買収時に、世界モデルの機能を「描画、シミュレーション、計画」の3つに分類したうえで、「3つに必要な知識は大部分が共通している」と述べていた。Atlasは、この3つを1つのモデルで担おうとする試みといえる。

ベンチマークと規模拡大

同社は2つの評価結果を公開した。カメラ制御つきの動画生成では、第三者の評価者がAtlasと既存の動画生成モデルの出力を比較し、どちらが意図したカメラの動きに忠実かを判定した。発表文によると、AtlasはMiniMax H3に対して75%、Gemini Omni Flashに対して81%、Seedance 2.5に対して94%の割合で選ばれた。カメラの軌道が複雑になるほど差が広がるという。ただし比較対象のモデルはカメラ情報を数値で受け取れないため、テキストで指示を与えており、同社自身も「より工夫したプロンプトで改善する可能性はある」と注記している。

3D再構成では、複数の公開ベンチマークで、3D再構成に特化したオープンソースの最新モデル群を上回ったとしている。

また同社は、モデルの規模と計算量を段階的に増やして訓練したところ、「計算量の水準が上がるたびに新しい能力が解放された」と説明し、今後もスケールとともに性能が向上するとの見通しを示した。LLMで起きたスケーリングが世界モデルでも成立するという主張だ。

Fei-Fei Li氏はX上で「これまでで最高のカメラ条件付き世界モデルであり、VFXからロボティクスまで多くのユースケースへの扉を開く」と述べた。

15カ月で企業価値5倍

World LabsはFei-Fei Li氏らが2023年に創業し、2024年9月に2億3000万ドルを調達して姿を現した。2025年11月に初の製品となる3D世界生成サービス「Marble」を一般公開し、2026年1月に開発者向けの「World API」を提供開始。2026年2月には10億ドルを追加調達した。このラウンドでは設計ソフト大手の米Autodeskが2億ドルを出資し、半導体大手の米NVIDIAと米AMDも参加した。TechCrunchによると、同社は評価額を公表していないが、Bloombergは約50億ドルの評価額で交渉していたと報じている。創業時の10億ドルから、およそ15カ月で5倍になった計算だ。

世界モデルの開発には米Google DeepMindや、Meta を離れたYann LeCun氏のAMI Labsなども取り組んでいる。動画生成AIとの境界があいまいになるなかで、World Labsは「3D空間として一貫していること」と「カメラを数値で制御できること」を差別化の軸に据えた形だ。

主な参考ソース

  • World Labs発表文「Atlas: A World Model for Spatial Intelligence」: https://www.worldlabs.ai/blog/atlas
  • World Labs公式X: https://x.com/theworldlabs/status/2094839756329041984
  • Fei-Fei Li氏のX投稿: https://x.com/drfeifei/status/2094840371675283673
  • SceniX買収の発表文: https://www.worldlabs.ai/blog/scenix
  • The AI Insider(SceniX買収時のLi氏コメント): https://theaiinsider.tech/2026/07/27/world-labs-acquires-robotics-company-scenix/
  • 2026年2月の資金調達発表: https://www.worldlabs.ai/blog/funding-2026
  • TechCrunch(Autodesk出資と評価額): https://techcrunch.com/2026/02/18/world-labs-lands-200m-from-autodesk-to-bring-world-models-into-3d-workflows/
  • Reuters(Bloomberg報道の引用): https://finance.yahoo.com/news/ai-pioneer-fei-fei-lis-202957884.html