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Anthropic、顧客企業の技術者1万人を自社基準で育成

Anthropic、顧客企業の技術者1万人を自社基準で育成

米Anthropicは米国時間10月2日、企業へのAI導入を現場で率いる技術者の育成機関「Claude Frontier Academy」を開設したと発表した。1億ドルを投じ、2027年末までに「Frontier Deployed Engineer(FDE)」と呼ぶ技術者を1万人育てる。対象は顧客企業や提携先の社員で、Anthropic自身の技術者と同じ水準まで鍛える。第一期には、コンサル大手の米McKinsey & Companyや金融大手の米Morgan Stanleyなどが技術者を送り込んだ。

FDEは、データ分析ソフトの米Palantir Technologiesが広めた職種で、顧客の現場に入り込んでシステムを作り込む技術者を指す。本来FDEのFはForward(前線)を指すが、AnthropicはFrontier(最先端)に置き換えた。Anthropic自身もFDEを抱えており、求人票では最重要の顧客の社内に直接入り込み、AIの本格導入を推し進める役割と説明している。

発表文は、どの企業もAI導入を急ぐなか、実際の事業の中でAIを機能させられる人材が最も見つけにくくなったと指摘する。事業開発・パートナーシップ担当グローバル責任者のSteve Corfield氏は「適切な技能を持ち、Claudeを使いこなし、自社の業務の回り方を深く理解した少人数のチームが自ら動けば、会社全体を変えられる」と語る。そのうえで、顧客や提携先の社内でここまで深く人材育成に投資したAI企業はないと強調した。

こうした人材の奪い合いは数字にも表れている。米CNBCは、人材データ分析の米Draupのデータをもとに、米JPMorgan Chaseなどの大手銀行のAI関連求人が今年、前年比49%増の約14万件に達したと報じた。なかでも、複数のAIエージェントを連携させて一つの業務をこなさせる技能を求める求人は約18倍に増えた。Draupの最高経営責任者(CEO)、Vijay Swaminathan氏は、社員の休暇申請の承認をエージェントで自動化するだけでも、例外や特例が網の目のように絡み合うと説明する。どのエージェントに何を任せ、どこで人が確認するかを決めるのがFDEの仕事だという。

研修は医師の育て方を手本にした。研修医が現役の医師から学び、実際の症例で経験を積み、評価を経て独り立ちするように、参加者は実務家から学び、本番さながらの事例で練習し、評価に合格して初めて認定を得る。

参加は企業からの推薦制だ。各社は最も優秀な技術者を選び、帰任後に率いるClaudeのプロジェクトを決めたうえで送り出す。AIエージェントの開発経験は問わない。最初は4日間の集中講座で、3日間は対面で架空の企業向けにClaudeを使ったシステムを構築し、顧客の最初の依頼からセキュリティ審査、引き渡しまでを一通りこなす。4日目に新しい課題で実技試験を受け、合格者には「Claude Resident Engineer」のバッジが与えられる。続く12週間は自社でAnthropicの技術者の支援を受けながら実際のClaude導入を率い、最終試験に通れば「Claude Frontier Deployed Engineer」の認定を得る。最初の認定者は2027年初めに出る見通しで、現在はサンフランシスコ、ニューヨーク、ロンドンで第一期が進んでいる。

第一期にはMcKinseyとMorgan Stanleyのほか、コンサル大手の米Bain & Company、Accenture、英Deloitte、仏Capgemini、銀行大手の豪Commonwealth Bank of Australia、製薬大手のNovo Nordiskなどが参加している。

Anthropicは3月にも、提携先向けの「Claude Partner Network」に1億ドルを投じると発表していた。同ネットワークでは4万6000社の社員が計17万5000件を超えるClaudeの認定資格を取得し、Anthropicの応用AIチームが入社時に学ぶのと同じ内容を教える集中研修「Basecamp」の修了者も4000人近い。裾野は広がった。今回のアカデミーが育てるのは、導入を先頭で率いる人材だ。

仏CapgeminiのAIパートナー連携のグローバル責任者、Geoffroy Pajot氏は「顧客から聞こえてくるのは、資格の数や研修の量の話ではない。現実の問題を自分たちで解いた経験があるかどうかだ」と話す。Commonwealth Bank of Australiaのグループ最高技術責任者(CTO)、Rodrigo Castillo氏によると、同行の技術者は毎日AIツールを使い、過去1年でチームのコード変更件数は最大3倍に増えた。今回の研修は、その先にある構築や安全確保、実運用までを経験する場だという。

導入人材の確保には、米OpenAIも動いている。5月には、FDEを顧客企業に送り込む新会社「OpenAI Deployment Company」を設立した。OpenAIが過半を出資し、投資ファンドやコンサル会社など19社が加わって、初期資金は40億ドルを超える。AI導入コンサルの英Tomoroを買収し、約150人のFDEを確保する。

この新会社にはMcKinsey、Bain、Capgeminiも出資している。3社はAnthropicのアカデミーにも第一期から技術者を送り込んでおり、コンサル大手は両にらみの構えだ。

自社の技術者を顧客に送り込むOpenAIと、顧客の技術者を自社と同じ基準で鍛えるAnthropic。手法は逆だが、モデルを業務に根付かせる人材こそが企業向けAIの勝負どころだとみる点で、両社は一致している。

著者
湯川鶴章

AI新聞 編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『生成AIで心が折れた』(2025年)、『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。