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ウォール街、AI導入(FDE)の求人が18倍に 年棒約2800万円

公開日
2026.10.03
ウォール街、AI導入(FDE)の求人が18倍に 年棒約2800万円

ウォール街の大手銀行で、複数のAIエージェントに役割を分担させ、連携して一つの業務をこなさせる「エージェント・オーケストレーション」の技能を求める求人が急増している。人材データ分析の米Draupが米CNBCに独占提供したデータによると、この技能に言及した求人は2025年の108件から今年は1967件へと、約18倍に増えた。銀行が求めるAI人材の重心は、AIモデルを作る人から、AIを業務の現場に組み込んで動かす人へ移りつつある。

LinkedInなどの公開求人をDraupが集計したところ、米JPMorgan Chase、米Citigroup、クレジットカード大手の米Capital OneなどのAI関連求人は今年13万9819件と、前年より49%増えた。件数ではAIへの指示文を工夫するプロンプトエンジニアリング(1万1368件)がなお最多だが、伸びではオーケストレーションが突出する。DraupのCEO、Vijay Swaminathan氏はCNBCの取材に「ウォール街でいま最も熱い技能と言っていい」と話した。

担い手として求められているのが、「フォワード・デプロイド・エンジニア(FDE)」と呼ばれる職種だ。社内のAI開発部門にこもらず、トレーディングやコンプライアンス(法令順守)、事務処理などの現場に入り込み、AIを業務に組み込む。必要なエージェントを選び、それぞれに何を任せ、どの技術を使い、どの段階で人間が確認に入るかを決める。技術力に加え、担当業務への深い理解が欠かせない。

一見単純な業務でも、自動化は一筋縄ではいかない。Swaminathan氏によると、社員の休暇申請の承認をエージェントに任せるだけでも、想定外のケースや例外規定が網の目のように絡み合う。企業の業務には目に見えない複雑さが潜んでおり、同氏は「単純な業務の自動化にも長い時間がかかる」と話す。Draupの分析では、問題解決力や創造性、難しい質問を投げかける力といったソフトスキルにも改めて注目が集まっている。

エージェントが人の手を離れて働く時間も延びていく。JPMorgan Chaseの最高アナリティクス責任者、Derek Waldron氏は6月、これまで1回の作業で2〜3分しか続かなかったエージェントの自律稼働を、今年中に1〜2時間へ延ばす計画を明らかにした。いずれは数日、数週間に及ぶとみる。人の確認を挟まずに動く時間が長くなるほど、一つの判断の誤りが及ぶ範囲も広がる。

AIを動かす人材と並んで、AIを管理する人材の需要も膨らんでいる。「責任あるAI」に言及した求人は約7.6倍、AIガバナンスは約4.9倍に増えた。ガバナンス関連の技能への言及は1万6000件を超え、モデルの開発・導入・運用に関わる技能(約8400件)のおよそ2倍に達する。規制当局が管理を銀行任せにした事情もある。米連邦準備制度理事会(FRB)など銀行規制の3当局は4月、2011年に定めた分析モデルの管理指針を改定した際、生成AIとエージェントAIを「新しく、変化が速い」として対象から外した。当面は各行が自前の体制で管理するしかない。

人材の希少さは報酬にも表れている。Draupによると、エージェントAIエンジニアの基本給の中央値は約17万7000ドル(約2800万円)で、機械学習エンジニア(約16万7000ドル)やデータサイエンティスト(約13万5000ドル)を上回る。賞与や株式報酬は含まない。

銀行はAIで人の仕事を自動化しようとしている。だが導入を進めるほど値が上がっているのは、業務に埋もれた例外や暗黙のルールを掘り起こせる人材だ。

ソース

  • CNBC:https://www.cnbc.com/2026/10/02/ai-redefining-wall-street-jobs.html
  • CNBC(同記事の別URL):https://www.cnbc.com/2026/10/02/ai-skills-most-in-demand-at-jpmorgan-chase-citigroup-capital-one.html
  • TechStartups:https://techstartups.com/2026/10/02/wall-streets-hottest-ai-skill-surges-1721-as-banks-race-to-deploy-ai-agents/
  • PYMNTS:https://www.pymnts.com/news/artificial-intelligence/2026/bank-ai-job-postings-jump-49percent-agents-go-work/
  • Quartz:https://qz.com/wall-street-ai-hiring-surge-agent-orchestration-skills-100226
  • CNBC(6月、JPMorganのエージェント計画):https://www.cnbc.com/2026/06/09/jpmorgan-chase-ai-agents.html
  • Sullivan & Cromwell(規制当局の指針改定):https://www.sullcrom.com/insights/memo/2026/April/OCC-Fed-FDIC-Issue-Revised-Guidance-Model-Risk-Management
  • Draup本社所在地(米テキサス州):https://draup.com/ai-information
著者
湯川鶴章

AI新聞 編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『生成AIで心が折れた』(2025年)、『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。