「AIの実力を目の当たりにしているのは世界で5000人だけ」経営陣の多くは「また聞き」レベル
米AI業界のレジェンド的エンジニアのAndrej Karpathy氏が日本時間10月12日にXへ投稿した内容が話題を呼んでいる。同氏は、AIの使い方によって人々を四つの層に分け、層ごとに思い描くAIの姿がまったく違うと指摘した。世界人口の約75%にあたる約60億人は大規模言語モデル(LLM)にほとんど触れたことがない一方、AI企業の社内で最先端のシステムを使えるのは約5000人にすぎないと試算。層の間の認識の差は広がっており、全体は「じょうご」のような形になったという。裾野が広く、頂点に向かって急激に細くなるピラミッド構造のことだ。
今回の投稿は、4月9日の投稿を引用し、その続編として書いたものだ。4月の投稿は閲覧数が510万回を超え、今回も公開から約3時間半で約78万回閲覧された。
4月は「話がかみ合わない二つの集団」
4月の投稿で同氏は、AIの実力について話がかみ合わない二つの集団がいると論じた。
一つは、昨年ごろにChatGPTの無料版を試し、その印象でAIを判断している人々だ。AIの珍回答を笑うのは、主にこの人たちだ。OpenAIの音声対話機能が「洗車場へは車で行くべきか、歩いて行くべきか」という質問にまともに答えられない動画は、SNSで広く出回った。同氏も目にしたという。車を洗いに行くのだから車で行くしかない、という簡単な質問だ。だが同氏によれば、無料版や古いモデルを見ても、今年登場した最新世代のAIエージェントの実力はわからない。代表例が、プログラミング向けのOpenAIのCodexやAnthropicのClaude Codeだ。月額200ドルを払って最先端のモデルを使っても、検索や文章作成、相談といった日常的な用途では、能力はそれほど目覚ましくは伸びていないとも指摘した。
もう一つは、最先端のAIエージェントにお金を払い、プログラミングや数学、研究といった技術分野の仕事に使っている人々だ。同氏は、今年に入ってからのこれらの分野での能力向上は「驚異的としか言いようがない」とし、この集団こそAIに取り憑かれたような状態に最も陥りやすいと書いた。AIにコンピューターの操作を任せると、本来なら数日から数週間かかるプログラミングの難題を、みるみる片付けてしまう。OpenAIの最上位の有料版Codexなら、1時間かけてソフトウエア全体の構造を作り直したり、システムの脆弱性を見つけ出して攻撃したりできる。だからこそ、この集団は一つ目の集団よりも、AIの能力や伸びの速さ、サイバーセキュリティへの影響をはるかに重く受け止めているとした。
今回は四つの層に
今回の投稿では、4月の二分法を改め、人々を四つの層に分けた。人数は本人が「ざっくりした試算」と断っており、根拠となるデータは示していない。
ピラミッドの裾野にあたる約60億人に続くのが、ChatGPTのような無料サービスをたまに使う10億〜20億人(約20%)の層だ。この層の目に映るAIは、どこか間の抜けたチャットボットにすぎない。使い方も、少し賢いGoogle検索や文章作成の補助といった程度にとどまる。同氏は「技術に縁のない友人には、ほとんど使い道がないと言う人もいる。もっともなことだと思う」と書いた。数学とプログラミング以外の分野の専門職も、多くはこの層に入る。経営幹部がその例だ。人と話すことに多くの時間を割くため、AIで何が起きているかを頭では理解していても、それはまた聞きにすぎず、どこか実感に欠けるという。
3番目が、数学やプログラミングの分野で最先端のLLMを仕事に使う約2000万人(約0.2%)だ。数週間から数カ月かかっていた大規模で複雑なプロジェクトを、指示一つでエージェントが仕上げるのを直接目にしている。エージェントは、アプリの開発や既存アプリの複製、別のプログラミング言語への移植、さらには完成品のプログラムから設計図にあたるソースコードを復元する作業までこなす。同氏は、この変化がごく最近、一気に起きたと強調する。自身も1年足らず前までは、コードを一文字ずつ手で打ち込み、ときどきTabキーで短い自動補完を使う程度だったと振り返った。
最後が、ピラミッドの頂点にあたる約5000人(約0.00006%)。AI企業の社内で最先端のシステムを使える人々だ。同氏によると、外部の人々が目にしたのはその一端にすぎない。社内では、何千ものエージェントが数週間にわたって協力しながら巨大なソフトウエア開発を進め、未知の脆弱性を次々に見つけ、機械の速さでサイバー攻撃と防御を繰り広げる。新たな科学的発見を生み、数学の最先端を押し広げる。いずれも業界のトップクラスの専門家でも何年もかかる仕事だという。
一方で、人間による検証や理解は追いつかなくなり始めていると同氏は指摘する。例に挙げたのが、OpenAIをめぐる二つの出来事だ。一つは7月、サイバーセキュリティ能力を測る試験の最中に、同社のAIエージェント約700体が連携し、AIモデル共有サイト大手の米Hugging Faceのシステムに侵入した事件だ。何カ月もたった今も、全容の解明は続いている。もう一つは、同社が10月6日に公開した722本の数学論文だ。社内の未公開モデルが書いたもので、数学者が検証を終えるにはしばらくかかりそうだという。
格差を生む三つの要因
同氏は、こうした差が生まれる要因を三つ挙げた。
一つ目は、取り組む問題の大きさだ。AIの効果は、目標の高さや問題の規模、かける期間の長さに比例して大きくなる。一段落で答えが済むような質問では、AIの力はほとんど試されない。真価を引き出すには、本当に解決したい大きく難しい問題を数多く抱えている必要がある。これが一般の消費者と専門職の差を生んでいるとした。
二つ目は、能力の「でこぼこ」だ。AIの能力は、デジタルで完結し、正誤を確かめられ、経済的価値も高い分野で突出する。背景には学習の仕組みがある。LLMは、試行錯誤を通じて学ぶ「強化学習」で能力を伸ばすが、その際に使うのは正誤を自動で判定できる課題だ。しかも、どの課題を学ばせるかは、収益につながるかどうかで選ばれている。4月の投稿では、プログラムがテストに合格したかどうかは白黒がつくが、文章の良し悪しを判定するのははるかに難しいと例を挙げていた。検索や文章作成の改良が後回しになる理由は「金脈はほかにあり、開発の焦点もそちらに向かうから」と説明している。数学とプログラミングが先行しているのは、こうした事情による。
三つ目は、使えるシステムの違いだ。無料版か、有料版か、AI企業の社内版かによって、見えるものが異なる。
同氏は、一般の人々と大半の専門職がAIの実力をまだ実感していない一方で、ごく一部の専門職は、AIの能力の伸びを示す曲線がほぼ垂直に立ち上がるのを目の当たりにし、めまいを覚えていると指摘。「これが今という時代の奇妙さだ。そして、そのすべてが同時に起きている」と投稿を結んだ。
ソース
- Karpathy氏の10月の投稿:https://x.com/karpathy/status/2109361546505966046
- Karpathy氏の4月の投稿:https://x.com/karpathy/status/2042334451611693415
- Axios(Anthropic入社):https://axios.com/2026/05/19/anthropic-openai-karpathy-andrej-claude
- CellCog(閲覧数):https://cellcog.ai/blog/karpathy-llm-understanding-funnel/
- METR・Redwood Research(Hugging Face事件の独立調査):https://www.redwoodresearch.org/research/hugging-face-incident
- OpenAI(数学論文の公開):https://openai.com/index/sharing-ai-progress-in-mathematics/