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世界最大の計算資源を持つGoogleは、なぜOpenAIとAnthropicに追いつけないのか

公開日
2026.10.12
世界最大の計算資源を持つGoogleは、なぜOpenAIとAnthropicに追いつけないのか

米Googleは9月30日、次世代AIモデル「Gemini 4」の最上位モデル「Argon」を発表した。Sundar Pichai CEOが6月の公開を予告していた前世代の上位モデル「Gemini 3.5 Pro」は公開を取りやめており、数カ月遅れでの新モデル投入となった。だが、AIモデル評価会社の米Artificial Analysisによる第三者評価では、Argonは米OpenAIの「GPT-6 Astra」と並ぶ53点にとどまり、米Anthropicの「Claude Opus 5.5」の58点には届かなかった。

AI動向の調査機関、米Epoch AIの推計によると、Googleは2025年末時点で世界のAI計算能力の約4分の1を持つ最大の所有者だ。それなのに、なぜ首位に立てないのか。業界の専門家や報道からは、計算資源の不足ではなく、社内での奪い合いに原因があるとの見方が強まっている。

「勝ったのはKurian氏」

半導体・AIインフラの調査会社、米SemiAnalysisの創業者兼CEOのDylan Patel氏は、10月9日公開のポッドキャスト番組「Big Technology Podcast」で、Googleがこの半年に自社モデルの学習と運用に回した計算資源の割合は、2〜3年前より低いと語った。Google全体の計算資源は年々大きく増えているが、AI開発部門のDeepMindへの配分はそれほど伸びず、比率では下がっているという。

同氏はこの状況を、Google Cloudを率いるThomas Kurian氏と、DeepMindの共同創業者で8月に経営の第一線を退いたDemis Hassabis氏の争いにたとえ、「Kurian氏が勝ち、Hassabis氏が負けた」と表現した。そのうえで「DeepMindとAnthropic、OpenAIの3社だけを比べると、年末にはDeepMindの計算資源が最も少なくなる」と予測した。

差は来年さらに広がる可能性がある。ギガワット(GW)はデータセンターの規模を消費電力で表す単位で、Patel氏は、OpenAIとAnthropicが来年それぞれ5〜10GWを上積みする一方、Googleが数GWにとどまれば、差はさらに開くと指摘した。

三つどもえの奪い合い

社内での計算資源の奪い合いは、これまでも報道で伝えられてきた。ブルームバーグ通信は5月、Googleの研究者が自社の計算資源を使うために順番待ちを強いられていると報じた。当時Googleの研究者だったAndrew Dai氏は、あるときGeminiの弱点に気づいたが、画像を理解する能力の研究に必要な計算資源を社内で確保できないと判断し、会社を去ったという。Googleは報道内容に反論せず、計算資源の制約は業界全体の問題だと説明した。

ロイター通信は8月、Google Cloudの幹部らが、TPU(Google製のAI用半導体)の配分をめぐるDeepMindとの対立が、Koray Kavukcuoglu氏のDeepMindトップ就任で和らぐと期待していると報じた。Kavukcuoglu氏は8月の組織改編でHassabis氏の後を継いだ人物だ。同通信は、計算能力の制約やGeminiの複数の責任者の意見対立によって、コーディングなど重要な分野に回る資源が減ったとも伝えている。

米ビジネスニュースサイトBusiness Insiderは9月、Geminiの開発チームでさえ計算資源の確保は難しく、正式な申請と上級幹部の承認が必要だと報じた。他チームのチップを使わせてもらう見返りに、そのチームの製品向けにGeminiの機能を開発する取引もあるという。最後の手段は、共同創業者のSergey Brin氏に直接頼むことだとしている。

最新の証言は、物理学者でAI投資家、人気ポッドキャスト「Moonshots」の共同ホストを務めるAlexander Wissner-Gross氏のものだ。同氏は10月3日公開の同番組で、Argonが首位に届かなかった背景に社内の計算資源争奪があると指摘し、「Googleなら世界中の計算資源を持っていて、最先端の開発競争に勝てると思うだろう。だが、そうではない」と語った。

同氏は、この1週間にGoogle社内の関係者と話して確かめたとして、三者が激しく奪い合っていると説明した。外部の企業に計算資源を売りたいGoogle Cloud、検索と広告のために社内で計算資源を必要とする検索・広告部門、そしてモデルの学習と運用に計算資源を必要とするDeepMindだ。ただし、足りないのが計算資源なのか人材なのかははっきりしない、とも付け加えた。同氏の話が正しければ、8月の組織改編から2カ月近くたっても、奪い合いは収まっていないことになる。

ライバルに売るほうが儲かる

クラウド部門が優勢な理由は、収益の差にある。Googleは4月、Anthropicに最大400億ドルを投資し、5年間で5GW分のTPUを供給する契約を結んだ。SemiAnalysisの試算では、2026年7〜9月期から2027年10〜12月期に出荷されるTPUの2割超がAnthropicに直接販売される。

Google Cloudの4〜6月期の売上高は前年同期比82%増の247億5000万ドルに達し、受注残高は5140億ドルに膨らんだ。一方、SemiAnalysisは、Geminiの年換算売上高を4〜6月期時点で120億ドルと推計する。クラウド部門については、2027年末までに外部向けAIインフラ事業の年換算売上高が730億ドルを超え、これとは別にTPUの販売が1200億ドルに達すると見込む。外部向けの売上は合わせて2000億ドル規模だ。経営の目で見れば、計算資源を自社モデルより外部の顧客に回すほうが合理的になる。Patel氏も、GoogleがTPUでAnthropicをこれほど助けることは、DeepMindの事業を傷つけていると指摘した。

Pichai CEOは7月の決算説明会で、TPUの配分では「AGI(汎用人工知能)開発の最前線で戦うのに必要な量の確保が最優先だ」と述べ、そのうえで検索やYouTubeなどの中核事業とクラウドを優先していると説明した。だが、社内外から聞こえてくる声は、この説明と食い違う。

Argonに表れた「二つの顧客」

Argonの性格にも、社内の力学が表れている。Googleが発表資料に載せたコーディング関連の四つのベンチマークのうち二つで、Argonは他社のモデルを下回った。SemiAnalysisの技術スタッフJordan Nanos氏は「3位以下のコーディングモデルなど、誰も欲しがらない」と述べ、Geminiには独自の強みが必要だと指摘する。

一方、Argonが他社を大きく引き離したのは、もっともらしい誤答(ハルシネーション)の少なさだ。Artificial Analysisの知識テストで、正解できなかった問いのうち「わからない」と答えずに誤答した割合は15%で、GPT-6 Astraの51%を大きく下回った。ただし正答率は50%で、Astraの63%に及ばない。知識が多いからではなく、わからない問いには答えない慎重さで誤答を抑えている。

Wissner-Gross氏は、この慎重さに検索事業の要請が表れているとみる。Geminiのモデルは外部の開発者に提供されるだけでなく、Google検索の結果画面の上部に出るAIの回答にも使われる。この回答欄は2024年の提供開始直後、ピザのチーズが滑り落ちないよう「接着剤を混ぜる」と勧めるなど、誤答が相次ぎ、Googleは機能の制限に追われた。この経験から、Googleは検索結果での誤答を何より嫌う。

外部の開発者と検索という二つの顧客を同時に満たさなければならない事情が、モデルの性格を形づくっているというのがWissner-Gross氏の見立てだ。

Googleの計算資源は世界最大でも、そのすべてが最先端のAI開発に回るわけではない。三者の綱引きでは、外部への販売で売上を急伸させるクラウドが優勢だ。ライバルに計算資源を売るほうが自社モデルで稼ぐより儲かる限り、DeepMindは、Googleから計算資源を買う競合の後を追い続けることになるだろう。