AIモデルはコモディティ化必至!?それでもAI大手が最先端を競う理由
オープンモデルの台頭で、AIモデルはいずれコモディティ化し、最先端を走る米OpenAIや米Anthropicは儲からなくなる。そんな見方が強まっている。だが両社の中にいる人たちの見方は違う。値崩れが起きていることは認めつつ、だからこそ次の世代に賭けるという。
新しくても、数カ月遅れれば値崩れする
コモディティ化が進んでいるのは確かだ。中国のAI新興企業Moonshot AIが7月に公開したKimi K3は、誰でもダウンロードして使えるオープンモデルでありながら、公開時点の第三者による総合評価で、AnthropicとOpenAIの最上位モデルに次ぐ3位に入った。性能が追いつけば、利用者は安いほうへ流れる。複数のAIモデルを使い分けられる中継サービスの米OpenRouterでは、OpenAIやAnthropicなど米国企業のモデルが占める処理量のシェアが、2025年6月の約70%から1年で約30%に落ちた。代わりに利用を伸ばしたのは中国勢を中心とする安いオープンモデルで、中国DeepSeekのモデル群は単独で最大の16.3%を占める。
OpenRouterの利用データなどを分析した米ベンチャーキャピタルのWing VCは、最先端モデルがプレミアム価格を維持できる期間が、かつての数年単位から数カ月単位に短くなったと指摘する。発売されたばかりのモデルでも、性能が最先端から数カ月遅れていれば、すぐに値崩れが始まるという。コモディティ化するわけだ。
量は安いAIへ、お金は最先端へ
ただし、お金の流れは違う。Wing VCによると、米ウェブ開発基盤のVercelが運営するAIの中継サービスでは、オープンモデルが処理量の29%を担う一方、支払われた金額に占める割合は4%に満たない。量は安いモデルに流れても、実際の支払額で見ると最先端モデルが稼ぎ頭だ。
価格も二極化している。OpenAIは9月、普及版GPT-6 Lunaの利用料を100万トークン(トークンはAIが文章を処理する単位)あたり出力0.50ドルまで下げた。同じ月に出した最上位のGPT-6 Astraは出力50ドルとLunaの100倍で、前世代の主力GPT-5.6 Solの2.5倍の料金を受け取っている。
知能が一段上がるたびに価値は跳ね上がる
この構図を、Anthropicの中の研究者ははっきり言葉にしている。同社で強化学習(AIに試行錯誤を通じて学ばせる手法)の技術責任者を務めるSholto Douglas氏は、投資家のJoe Lonsdale氏のポッドキャスト番組に出演。その中で、自社の製品が半年、長くても1年で時代遅れになるというビジネスはおかしくないかと言う。おかしいけれども、それでも最先端を更新し続けるビジネスは十分に成り立つと主張する。
理由の一つ目は、市場の伸びしろの大きさだ。同氏によると、AI業界全体の売上高は1000億ドルを少し超える程度で、数十兆ドル規模の世界経済から見ればごくわずかにすぎない。製品の寿命は短くても、新しい能力を売り込める先はまだいくらでもある、というわけだ。
二つ目は、値崩れする場所と価値が生まれる場所が違うことだ。最先端から一歩遅れたモデルはコモディティ化していくが、最先端の価値はさらに高まる。Anthropic社内では、AIの知能が一段上がるたびに、生み出す経済価値は指数関数的に大きくなると考えているという。
例えばプログラミングがそうだ。AIが最初に役立ったのは、書きかけのコードの続きを予測して補う自動補完機能だった。ところが知能が一段上がると、AnthropicのClaude Codeのように、AIが自らプログラミングを進められるようになった。自動補完はコモディティ化したが、自らプログラミングを進められる能力は自動補完とは比べものにならない価値を生んだ。
数字もこの説明を裏付ける。Anthropicが公表した年換算売上高は、2025年末の約90億ドルから、2026年5月には470億ドルを超えた。成長を引っ張ったのは、自らプログラミングを進められるClaude Codeで、Claude Code単体の年換算売上高は2月時点で25億ドルを超えていた。
次はAIエンジニア、その先に科学
Douglas氏が知能の次の一段として描くのは、優秀な人間のソフトウェアエンジニアを上回り、仕事を丸ごと任せられるAIが驚くほど安く使える世界だ。
同氏自身の働き方が、すでにその方向に動いている。同氏は1年半ほど前まで、コードを1行残らず自分で打っていたと言う。Anthropicに移って数カ月後にはAIが手伝ってくれるようになったが、数分おきに人間が手を入れる必要があった。それがいまでは、1〜2日かかる作業をAIに任せきりにできる。番組の収録中も、何体ものAIが裏で同氏の仕事を進めていたという。
会社全体でも同じ変化が起きている。Anthropicによると、5月に同社が製品に組み込んだコードの80%超はClaudeが書いたものだった。Claude Codeの試験提供が始まる前の2025年初めには、この割合は1桁台にすぎなかった。
Douglas氏はその先に、さまざまな仕事を手伝う経営幹部のようなAIを描く。さらにその先には、がんの治療のような科学の成果もありうるという。
科学の分野でも兆しは出始めている。素数の研究には、差が一定以下の素数の組が無限に存在することを示す問題がある。その差の上限は、10年以上にわたり246のままだった。人間の数学者が最近これを240まで縮めたが、OpenAIによると、9月に公開したGPT-6 Astraは186まで引き下げる証明に貢献した。
科学にこそAIの本当の価値があると見るのは、最先端企業の人たちだけではない。自ら改良を重ねるAIの開発を目指す米AI新興企業RecursiveのCEO、Richard Socher氏は、9月に出版した著書The Eureka Machineで、AIの最大の価値はチャットボットではなく、科学的な発見の自動化にあると主張する。仮説を立て、実験し、データから理論を導くまでをAIがつなぐことで、今後10年で100年分の発見が生まれるという。
同書では、米Salesforceのチーフサイエンティスト時代の研究も紹介している。2億8000万のタンパク質の配列でAIを学習させ、新しいタンパク質を設計させた。細菌の細胞壁を壊す酵素では、設計したものの73%が正しい形に折りたたまれ、狙い通りの抗菌作用を示した。同氏はここから、微積分が物理学を一変させたように、AIは生物学を一変させると述べている。
同氏は米ポッドキャスト番組Moonshotsで、その道筋をより具体的に語っている。まず、一つの遺伝子の異常が原因となる比較的単純な病気で、今後12カ月のうちに治せるものがいくつも出てくる。続いて、より複雑な病気や電池の新素材の開発へと広がっていく。どの問題がどこまで解けるかは、AIの計算にどれだけお金を投じるかで決まるという。
科学の成果が、計算への支出で買えるものになるという考え方だ。実現すれば、最先端AIの開発元は、コーディングに続く大きな稼ぎ口を手にすることになる。
その市場の大きさは、製薬業界の数字からうかがえる。6月にAnthropicが開いた科学イベントで、スイス製薬大手NovartisのCEO、Vas Narasimhan氏は、新薬候補が見つかってから患者に届くまでの期間を、AIで12年から7〜8年に縮められると語った。業界全体で積み上げれば、その効果は計り知れないという。
開発元はこの価値の一部を取りにいく構えだ。OpenAIのSarah Friar最高財務責任者(CFO)は1月、同社の技術を使って新薬が生まれた場合に、その売上の一部を受け取るライセンス型の収益モデルを示した。
だからOpenAIは研究の9割を次世代へ
AIの開発の自動化が進めばより大きな収益源になる。さらにその先には科学の発見の自動化で、より大きな収益を得ることができる。こうした考え方は、OpenAIの資源配分にも表れている。同社の応用研究責任者Boris Power氏は9月23日、シリコンバレーで開かれたAIカンファレンスの対談で、研究の80〜90%をGPT-7、GPT-8、さらにその先の世代に向けていると明らかにした。価値の大半は世代の飛躍から生まれるからだという。同じ世代の中での小刻みな改良は、社内では「極めて近視眼的」とみなされていると言う。
今のモデルが半年で時代遅れになるなら、それを磨き続けるより、次のモデルに研究を注ぐほうが理にかなう。なのでOpenAIとAnthropicは、最先端の開発を急いでいるのだろう。
これまではOpenAIとAnthropicの2強だった。そこにElon Musk氏率いるSpaceXAIとMark Zuckerberg氏率いるMetaがもの凄い勢いで追い上げている。ただAI研究の自動化が実現すれば、最初にそれを実現させた会社が競合をあっという間に引き離す可能性がある。科学の発見の自動化という巨大な収益を前に、AI先端グループの争いは激化する一方だ。