DX人材とはデジタルに関するスキルや業務経験を有し、リーダーシップなどの素養も持ちながら周りを巻き込んでを推進することができる人材のことです。
DXを進める上で最も重要な要素の一つと言えるのがDXを推進するDX人材です。デジタルに精通し、変革を推進できる人材がいてこそDXプロジェクトは推進します。しかし、「DX人材の採用や育成が難しい」「DX人材ってそもそもどういう人材なの?」とお悩みの企業も多いでしょう。
そこで今回は、DX人材とは何なのか、DX人材に求められるスキルやマインド、採用や育成の方法について解説します。


目次
DX人材の定義
まずはDX人材の定義について解説します。
DX人材の定義とは
DX人材に明確な定義はありませんが、デジタル技術を用いてDXをリードする人材を指すことが多いです。
そもそもDXは、経済産業省が公表した「DX推進ガイドライン」によると、以下のように定義されています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること
出典:『デジタルガバナンスコード2.0』経済産業省 2022年9⽉13⽇
つまり、DX人材には大きく下記のようなスキルが求められると言えます。
- 目的達成のためにデータやデジタル技術を活用できる
- 業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革できる
- 顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革できる
ただ「デジタルスキルがあるだけ」「データが扱えるだけ」ではDX人材は務まりません。周りを巻き込む推進力や、ビジネス観点を持っていることも重要です。分解すると、結果達成や新しいことも学び対応していくマインドセットやリーダーシップ、高いコミュニケーション能力などの特性も求められます。
上記のことから、DX人材は高水準なビジネススキルを有し、さらにはデジタル技術を扱える優秀な人材だと言えるでしょう。
DX人材に必要なスキル
DX人材に必要なスキルや素養は複数ありますが、細かく設定しすぎると育成や評価のフェーズで運用が回らなくなります。ここでは経済産業省が公開している「DXリテラシー標準」と、株式会社エクサウィザーズが開発・販売しているexaBase DXアセスメント&ラーニングで定義しているDX人材に求められるスキルと素養について紹介します。
経済産業省が定義しているスキル要件
DXを推進している経済産業省は「DXリテラシー標準」を策定しており、それらは大きく、「マインド・スタンス」「Why」「What」「How」に分けられます。
参考:『DXリテラシー標準』経済産業省を参考にエクサウィザーズDXコラム編集部にて編集
【マインド・スタンス】
「マインド・スタンスでは、社会変化の中で新たな価値を生み出すために必要な意識・姿勢・行動を定義」しています。いわゆるデザイン思考やアジャイルな働き方が推奨されています。DXリテラシー標準では次のような項目が必要だとされています。
- 顧客・ユーザーへの共感
- 常識にとらわれない発想
- 反復的なアプローチ
- 変化への適応
- コラボレーション
- 柔軟な意思決定
- 事実に基づく判断
【Why】
Whyの項目では「何故DXが必要なのか?」、つまり「DXの重要性を理解するために必要な、社会、顧客・ユーザー、競争環境の変化に関する知識を定義」しています。学習のゴールは「人々が重視する価値や社会・経済の環境がどのように変化しているか知っており、DXの重要性を理解している」ことになります。
- 社会の変化
- 顧客価値の変化
- 競争環境の変化
【What】
Whatの項目では「ビジネスの場で活用されているデータやデジタル技術に関する知識を定義」しています。学習のゴールは「DX推進の手段としてのデータやデジタル技術について知っている」になります。ここでは次のような知識が必要とされています。
- データ
- 社会におけるデータ
- データを読む・説明する
- データを扱う
- データによって判断する
- デジタル技術
- AI
- クラウド
- ハードウェア・ソフトウェア
- ネットワーク
何について学ぶかが決まれば次はどのように学ぶか「How」になります。
【How】
Howの項目では「ビジネスの場でデータやデジタル技術を活用する方法や留意点に関する知識を定義」しています。学習のゴールは「人々が重視する価値や社会・経済の環境がどのように変化しているか知っており、DXの重要性を理解している」ことになります。DXの推進においては次のようなポイントが重要とされています。
- データ・デジタル技術の活用事例
- ツール活用
- セキュリティ
- モラル
- コンプライアンス
スキルはインプットだけしてもアウトプット(ビジネスへの活用)ができなければ意味がありません。上記の項目をしっかり意識してビジネスで活用できるようにしましょう。
エクサウィザーズが定義しているDX人材のスキルと素養の4象限
エクサウィザーズでは企業が効率的にDX人材を育成・評価するのに重要なスキルと素養を策定していますのでご紹介します。
エクサウィザーズでは個人の持つ「スキル」と「素養(ポテンシャル)」を「デジタル」と「イノベーティブ」という2つの軸で分解し4つの象限でDX人材を捉えています。それぞれ順にご説明します。
各スキルと素養の説明は以下の通りです。
このように大きく4つ、全部で18のスキルと素養に分けて定義すると多すぎず少なすぎず可視化が可能になり、デジタルに強い人だけではなく改革を推進できる人も見極めることができるようになります。
DX人材に必要なマインドとは
マインドとはある物事に対する見方や考え方、意向などを指します。DX人材には「デジタル」や「変革」に対してポジティブで積極的なマインドが必要になります。
前述した「テクノロジー好き」「技術活用意欲」「ユーザー理解」「数学的素養」「好奇心」「ポジティブ精神」「自己肯定感」「やりぬく意志」などもいわゆるDXマインドにあたります。DXマインドはなぜ重要なのか、どうしたら身につくのかを解説します。
DXマインドの重要性
DXを実現するためには新しいことにチャレンジしたり、多くの失敗をしたり、多くの関係者と連携したりすることが必要になります。どんどん新しいテクノロジーが現れるため、「今デジタル技術・スキルを保有していること」は競争力を持たなくなってきており、「新しいテクノロジーも貪欲に学び、成長し、創造していくこと」がDX時代には求められます。そのためには「デジタルに興味がある」「変わり続けたい」「学び続けたい」と考えていることが重要です。
よく、DX人材育成の一環としてeラーニング動画によるスキル学習から入る例がありますが、そもそも社員がデジタル技術を学ぶことの重要性や必要性を感じていなければ学習が継続しません。その前にまずDXマインドの醸成が重要なのです。
DXマインドの醸成方法とは?
DXマインドを醸成する方法としては、対象者の状況に沿った様々な方法がありますが、大きく「外発的な動機」「内発的な動機」と2つに分かれます。
外発的な動機が生まれるきっかけ
- DX推進担当者になり、業務でデジタル技術を使う必要性が出てきた
- 会社のトップ層からDX推進するようにメッセージ発信があった
- チームで毎朝DX関連の事例共有をする取り組みが始まった
- 会社の制度で、無料でDXに関する勉強ができるようになった
- 自分のキャリアアップのためにDX学習が必要になる
内発的な動機を持つ人の特徴
現在の職務が一見DXとは関係なくても、個人的にITのことを学んでいたり過去にそういった経験を積んだりした方というのは、自発的にスキルを獲得する傾向があります。こういった方を発掘することで、加速度的にチーム全体のDXマインドを高めることができます。
- DX事例に関する動画を見ることでDXについて学ぶことが面白いと感じる
- 趣味でプログラムを書いていたことが仕事でも活かせそうだと感じワクワクする
既存社員にマインド醸成するのは困難だと思われがちですが、会社の制度・環境で十分にサポート可能です。
DX人材の育成方法
DX人材の育成方法には様々ありますが、何を、どのように、どの順番でやるのかが非常に重要です。
エクサウィザーズでは「DX人材育成5つのステップ」として下記ステップを発信しています。
- 「スキルと素養の可視化」
- 人材育成計画の策定
- 知識のインプット
- 実務スキルのアウトプット
- 実践力強化

DX人材の採用方法
DX人材の採用競争は激化しているため、優秀な人材は簡単には確保できません。DX人材を求めている方は、以下のような工夫を施しましょう。
①働く環境を訴求
募集内容を掲載する際は、働く環境を訴求しましょう。DX人材は、デジタルの活用が前提となっている環境で、最大限のパフォーマンスを発揮します。 様々なデータやツールの活用ができることや優秀な社員がいることなどDX人材が働きやすいような環境をアピールしましょう。
また、「フレックス制度」「テレワーク制度」「私服勤務」「副業OK」など、多様な働き方と柔軟さをアピールすることも大切です。
②業務内容の魅力を伝える
「DX推進をお任せします」だけだと伝わらないため、業務内容の魅力をわかりやすく伝えましょう。
DX戦略を任せたい場合は自社の現状と課題、今後目指す方向性などを提示した上で、「具体的に何をしてほしいのか」「どういう成長環境があるのか」「どういった経験ができるのか」を明確化すれば、候補者からは会社がより魅力的に映ります。
③リファラル採用やダイレクトリクルーティングの活用
リファラル採用やダイレクトリクルーティングも有効です。DX人材はSNSなどを駆使している割合も多く、採用市場に出る前にアプローチできれば効果的でしょう。
社内の伝手で優秀な人材を紹介してもらうリファラル採用では、メモリーパレスの活用をおすすめします。また、SNSなどを活用して直接本人にアプローチするダイレクトリクルーティングは、ほしい人材に的確にアプローチできるのが利点です。
※メモリーパレスとは、社員の前職の知り合いや、ビジネスマンの知り合い、友人、SNSで繋がりのある人などをシートに書き出し、その中から採用したい人に声をかけていく方法です。この方法で忘れていた人脈を思い出し採用に繋がる可能性があります。
DX人材の職種
DX人材に該当するような職種で、代表的なものは下記の通りです。DX人材の採用や育成を検討している担当者は下記のような職種を社内に設置できるか検討しましょう。
プロダクトマネージャー
プロダクトマネージャーは、プロダクト(製品やサービス)の価値を最大化することを目的に、企画・開発・マーケティング・販売・改善など全般に携わります。幅広い領域の知見や、経営層的な視点が求められます
ビジネスデザイナー
ビジネスデザイナーは、ビジネスアイデアを具体的に企画や実現可能なビジネスモデルに落とし込む役割になります。事業計画を策定したり、関係者にわかりやすく説明して巻き込み事業実現に向けて推進していくことが求められます。
アーキテクト(エンジニアリングマネージャー、テックリード)
アーキテクトはDXに関するシステムの設計などを主に行います。ハードウェアやソフトウェアに関する技術的観点から、状況や課題を分析し、「どのようにデジタル技術を導入すればDXが実現するのか」という視点で設計します。
データサイエンティスト
データサイエンティストは統計学などを用いてデータを分析し有益な示唆やビジネス課題の解決策を導き出します。統計解析やデジタルのスキルに加えてビジネストレンドを把握していたり、高い課題解決能力などが求められます。
先端技術エンジニア
先端技術エンジニアはその名前の通り、AIや機械学習、ブロックチェーンなど最先端の技術を扱うエンジニアの総称です。AIやWeb3の普及に伴いその需要や求められる技術も変化しています。
UI/UX デザイナー
UI/UX デザイナーは、システムやサービスのインターフェースや顧客体験をデザインする人材です。
昨今、機能での差別化が難しくなっていることやサブスクリプションサービスの普及などを背景に、よりユーザーの体験価値を向上し長く使われるサービスが求められています。それによりUI/UXデザイナーの需要も増えています。
エンジニア/プログラマー
先端技術エンジニアはその名前の通り、AIや機械学習、ブロックチェーンなど最先端の技術を扱うエンジニアの総称です。AIやWeb3の普及に伴いその需要や求められる技術も変化しています。エンジニア/プログラマーは、テックリードが設計した内容をもとに、システムやインフラを実際に構築します。また、デジタル技術やタイプに合わせて、さまざまなプログラミング言語を活用します。
DX人材になるためには
最後に、DX人材になりたいと考えている人向けにおすすめの方法をご紹介します。DX人材になるためには、前述したスキル・マインドを身につけることが最大の近道ですが、そのためには以下のように環境を意識することが重要です。
今の環境でできることをやる
いきなり未経験職種に転職しようとしても難しいため今の環境でスキル・マインドを身につけられないかを考え、少しずつ経験を積むことも大切です。そのためには、既存の会社で成長できそうな仕事・部署を自ら選択しましょう。
複数の環境に身をおく
今の環境でやれることをやろうとしても、現実的に難しいケースもあると思います。そのような場合は副業やプライベートで学校に通うなど、別の環境に入ることもポイントです。
環境を変える
環境をまるっきり変えてしまう、つまり転職することも一つの手です。スキルやマインドが身につく会社に転職すれば、より効率的にDX人材に近づくことができます。未経験歓迎の仕事もありますし、今の経験の延長線上で少しだけDXよりの業務ができる仕事もあるでしょう。
しかし、環境を変えるとそれなりのリスクも伴うので、自身の状況を踏まえて検討しましょう。
まとめ
本記事では、DX人材に必要なスキル・マインド、採用方法や育成方法を解説しました。
DX人材を欲しいと考えている企業のDX推進担当者や人事の方は本記事の内容を踏まえ、
- 欲しい人材を明確に定義
- 育成と採用両方の軸で検討
- 環境や文化の変革も並行して行う
ことを意識して活動していくことをおすすめします。