企業を取り巻く環境の変化が激しい昨今、古い知識や価値観などを捨て、新しい知識やアイデアを習得する「アンラーニング」の重要性が高まっています。
アンラーニングを行うことで、既存の価値観や経験に囚われずに環境の変化に適応できるようになり、個人の成長や組織力強化につながるでしょう。
本記事では、アンラーニングの概要や得られるメリット、アンラーニング導入時の注意点、実践ステップを解説します。
アンラーニングの概要と必要性
近年、「アンラーニング」という言葉が注目を集めています。技術や社会が急速に進歩・変化する時代において、既存の価値観や知識に囚われず、環境の変化に適応することは不可欠です。
経営陣や従業員のアンラーニングを行うことで、人材の成長促進や組織力強化の一助になり得ます。
まずは、アンラーニングの定義やAI時代における重要性、類語との違いについて見ていきましょう。
アンラーニングとは?
アンラーニング(unlearning)とは、古い知識や概念、価値観を捨て、意識的に新しい知識やアイデア、スキルを習得することです。アンラーニングは、変化の激しい時代に対応するために重要なこととされています。
なお、Hedberg(1981年)によると、組織におけるアンラーニングは以下のように定義されています。
組織におけるアンラーニングの定義
時代遅れとなり有効性を失った知識・規範・価値観などを組織が主体的に捨て去ること |
アンラーニングを直訳すると「学習棄却」のため、既存の学びを全て捨てることと捉える人もいますが、学びを捨てるといっても、全てを完全に捨て去る必要はありません。
今まで持っていた価値観や知識などを認識した上で、必要なものを取捨選択し、新しいものを取り入れながら学びを軌道修正・アップデートしていくことが大切です。これを「学びほぐし」といいます。
AI時代におけるアンラーニングの重要性
AIなどさまざまなデジタル技術の発展により、個人・組織の双方が、従来の価値観や考え方、環境、手法を変えることが必要となっています。
例えばAIを活用すると、「今までは手作業で行っていたExcelでのマクロ作成などの業務をより大きい規模で自動化する」「不良品の検知や製造物の生産数の予測などを行う」といった、業務の効率化や課題解決が期待できるでしょう。
しかし、AIは、学習データを基にさまざまなタスクを実行していくため、学習データが偏っていると、偏った結果を出力してしまうことがあります。また、AIは人間が何かしらの働きかけをすることでタスクを実行するため、何の指令もなしにAI自らが動くことはできません。
これらの理由から、AI技術を導入・活用する私たちの「AIへの理解」や「AIを扱うスキルの向上」も求められるでしょう。
AIを始めとする新しい技術やツール、仕事の進め方などに個人・組織が対応していくには、従来の知識やスキルに囚われることなく、新しい知識・スキルを習得していく必要があるため、アンラーニングが重要視されているのです。
アンラーニングとリスキリング・リカレント教育の違い
アンラーニングとよく混同される言葉に、「リスキリング」と「リカレント教育」があります。リスキリングとは、「新たな職業に就く、または今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応することを目的に、必要なスキルを学びにより獲得すること」です。
また、リカレント教育とは、「社会人になった後、各自が必要とするタイミングで再び教育を受け、仕事と教育を繰り返すこと」を意味します。
アンラーニングとリルキリング、リカレント教育の違いについて、以下の表にまとめました。
アンラーニング | リスキリング | リカレント教育 | |
---|---|---|---|
背景 | テクノロジーや社会、経済など時代の変化への対応策 | デジタル化やDX推進の影響による雇用消失・人材不足への対応策 | 人生100年時代における生涯学習の一環 |
目的 | 学習棄却(学びほぐし) | 学習およびスキルの習得 | 学び直し |
職を離れるかどうか | 前提となっていない | 前提となっていない | 前提となっている |
実施責任 | 個人と企業の双方 | 企業 (企業が、従業員に学習機会を提供する) |
個人 (個々人が、好きなことを学ぶ) |
講座提供 | 民間企業やオンラインプラットフォームなど | スタートアップを中心とした民間企業 | 大学や大学院といった学習機関 |
学習分野 | 多岐に渡る | 主にデジタル分野 | 多岐に渡る |
それぞれ項目ごとに違いはありますが、大きな違いは「目的」と「実施責任が誰になるか」です。アンラーニングは、持っている知識やスキルを捨てる(取捨選択する)ことを主眼としていますが、リスキリングとリカレント教育では、保有していない知識やスキルの習得が目的になります。
また、アンラーニングでは、個人・組織双方が時代の変化に対応することが求められます。しかし、リスキリングは企業側が学習機会を提供し、リカレント教育は各個人が自発的に学ぶ施策というように、アンラーニングとは実施責任者が異なります。
このように、アンラーニングとリスキリング、リカレント教育には違いがあるものの、アンラーニングはリスキリングやリカレント教育といった新しい学びや、DXといった企業や個人にとって新しい取り組みとセットで進めるとよいとされています。
そうすることで、現在の知識やスキルを見直し強化できるだけでなく、従業員が新たなスキルや知識を習得でき、企業の成長にもつながるでしょう。
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アンラーニングがもたらすメリット
アンラーニングを行うと、どのようなメリットが得られるのでしょうか。アンラーニングがもたらすメリットを紹介します。
創造性の向上
アンラーニングにより、従来の方法や価値観に囚われない柔軟な考え方・発想ができるようになることで、個人・組織の双方の創造性が向上します。
その結果、「新しいアイデアの創出」「仕事のパフォーマンス向上」「新規事業の創出」などの効果が期待でき、変化に柔軟に適応できるようになるでしょう。
D&Iの推進・コミュニケーション力の向上
アンラーニングを行えば、D&Iを推進できます。D&Iとは、日本語でダイバーシティー(和訳:多様性)&インクルージョン(和訳:包含・一体感)と言い、組織が多様性を認め、個々が能力を発揮できるようにすることを意味する言葉です。
組織に成長をもたらすには、性別・世代・国籍などの異なる多様な人材を雇用するほか、一人ひとりが日頃から多様な知識・スキル・考え方をぶつけ合って対話し、変化に対して多様な解決策を見出すことが大切となります。アンラーニングを行い多様な人材の価値観や知識を柔軟に活用できるようになれば、組織は成長できるでしょう。
また、他部署や他業種と交流・協働することで、他者の意見や視点への理解が深まるだけでなく、コミュニケーションも向上します。異なるバックグラウンドや考え方を持つ人とも円滑にコミュニケーションを取れる人材が、社内に増えていくでしょう。
マネジメント力の向上
アンラーニングは、部下の育成や評価といったマネジメント力の向上にもつながります。管理職や現場の責任者などがアンラーニングでマネジメントを行うことで、時代に即した人材育成や適切な評価が行えるようになるでしょう。
また、部下の良さを新たなアプローチで引き出したり、従来と違うマネジメント手法を試したりすることで、従業員のモチベーションやエンゲージメントが向上します。結果的に業績アップにつながるなど、組織にとってもよい影響が期待できるでしょう。
アンラーニング導入時の注意点
さまざまなメリットが期待できるアンラーニングですが、企業が導入する際には注意が必要なこともあります。
以下、見ていきましょう。
従業員のモチベーション低下を招く恐れがある
アンラーニングにより従来のやり方や価値観を変えることで、今までの自分が否定された気持ちになる人もいます。新しいやり方を身に付けることで一時的にパフォーマンスが落ちる場合もあり、「自分の立場が悪くなるのでは」と考える従業員もいるでしょう。
しかしながら、アンラーニングは過去を否定するものではなく、これからの成長のために必要な施策です。「客観的に現状の自分を振り返る」ことの重要性について、従業員に意識してもらうことが大切となるでしょう。
組織単位で取り組むことが必要である
アンラーニングは個人だけでなく、組織単位で取り組むことも大切となります。なぜなら、個人のやり方を変えるには、組織の文化やルールも大きく影響するためです。
まずは、管理職やリーダーが旗振り役となり、部署・チーム単位で実践するとよいでしょう。組織の環境整備や雰囲気づくりを行うことで、次第にアンラーニングが組織に定着していくと考えられます。
異なる業界・文化・価値観を理解する
アンラーニングでは、今までの自分の価値観などを見直すだけではなく、他業界や異なる文化・価値観を理解することも大切です。
例えば、異なる文化圏や宗教の人が組織に転職してくる場合、大企業からスタートアップやベンチャーへ転職する場合や、またはその逆のケースも考えられるでしょう。
そういう人たちと仕事をする機会が増えた際には、それぞれの価値観や考えを理解した上で、新しい学びを身につけるためにアンラーニングを進めることが重要となります。これまでの経験や知見が通用しない場面やステージが変化する場面などでは、アンラーニングし続けることが求められるでしょう。
アンラーニングの実践ステップ
従業員一人ひとりがアンラーニングを実際に進めるために、どのようなステップを踏めばよいのかを解説します。
- 自己認識
- 受け入れる
- 情報収集
- 習慣や行動の変革
- 反省とフィードバック
①自己認識
まずは、「仕事をするうえで大切にしていること」を書き出し、自分自身に対する理解を深めることから始めましょう。「自分がどのような考え方・価値観・文化を持っているのか」「どのようなことに固執しているのか」など、自分の持っている信念や価値観、習慣などを客観的に分析し、理解することが重要です。その上で、どのような価値観や習慣が改善すべき点であるのかを見極めます。
自己認識する際は、「それらが今の時代や環境において正しいことなのか?」「修正すべき点があるのか?」といった疑問を持つことも大事です。自己認識を行えば、修正すべき点だけでなく、自身の強みも把握できるでしょう。
②受け入れる
社会や環境の変化によって、今までの知識や価値観が時代遅れになったり、有効性を失ったりする場合もあります。自分の知識や価値観が適用されないこともあると受け入れることが、次のステップです。併せて、時代の変化に対応するために、自分の考え方や行動を変える必要があることも受け入れましょう。
③情報収集
次のステップは、新しい知識やスキルを身に付けるための情報収集です。書籍・オンライン記事・専門家の意見など、さまざまな情報源から学ぶことで、新しい視点を得ることができます。目的に合わせた情報を収集・整理することで、自身の価値観や習慣に疑問を持ち新しい考え方ができるようになるほか、自己認識を高めることにもつながるでしょう。
④習慣や行動の変革
新しい知識やスキルのための情報を集めたら、次に行うことは、習慣や行動の変革です。アンラーニングを行うためのスケジュールを立てて実践しましょう。
先述の通り、アンラーニングは、リスキリングやDXなど新しい学びや取り組みとセットで行うことがおすすめです。例として、目標達成に向けた行動変容を促すための「コーチング」、DX人材育成のための「DX基礎教育やIT・デジタル研修」などが挙げられます。ただ学ぶだけでなく、得た学びを実践することで、知識やスキルを自分のものにすることができます。
⑤反省とフィードバック
継続的・効果的に学び続けるためには、反省と他者からのフィードバックが必要です。実践した結果を自分自身でしっかり評価・分析し、次の行動につなげましょう。
なお、アンラーニングは、情報を取捨選択したり俯瞰で見たりするのが難しいため、1人で実施するのは困難です。組織単位でのサーベイ(調査)や、個人単位での「1on1」などにより、アンラーニングができているかどうかを評価するようにしましょう。
また、自分と向き合う中でストレスを抱える可能性もあるため、組織やチーム、上司がフィードバックやサポートを行うことも大切です。そうすることで、個人では気づかなかった点や課題などが見つかり、効果的にアンラーニングを進められるでしょう。
アンラーニングを活用した人材育成方法:DX人材育成の場合
前述したように、企業の成長のためには、アンラーニングをリスキリングやDX人材育成などとセットで行うことが効果的です。ここからは、「DX人材育成」を例に、アンラーニングを活用した人材育成方法を解説します。
当社、エクサウィザーズが提唱するDX人材育成の5つのステップと、そのステップにアンラーニングを取り入れる方法を紹介しますので、参考にしてください。
DX人材育成5つのステップとは
まずは、DX人材育成5つのステップを解説します。DX人材育成5つのステップは以下の通りです。
①スキルと素養の可視化:全社・社員のスキルと素養(ポテンシャル)を可視化し、現状を把握する ②人材育成計画の策定:スキルと素養の可視化の結果を基に、人材育成計画を策定する ③知識のインプット(マインド醸成、リテラシー獲得):DXマインドの醸成とデジタルリテラシーの習得を進める ④実務スキルのアウトプット:インプットした知識を忘れないうちに実践(アウトプット)し、プロからのフィードバックを受ける、ということを繰り返す ⑤実践力強化:日々の業務で「小さい実践」ができる機会をたくさん経験し、実践力を磨く |
DX人材育成の5つのステップについて詳しく知りたい方は、「DX人材育成の方法」の記事を参考にしてください。
DX人材育成5つのステップにアンラーニングを取り入れる方法
DX人材育成5つのステップにアンラーニングを取り入れる場合、以下の方法があります。
①スキルと素養の可視化 ②人材育成計画の策定 ③知識のインプット(マインド醸成、リテラシー獲得) ④実務スキルのアウトプット ⑤実践力強化 |
アンラーニングを取り入れ、新たな環境で活躍している人の事例:スタートアップへ転職したケース
先述した通り、異なる文化・宗教の人が組織に転職してくる場合や大企業からスタートアップへ転職する場合などに、アンラーニングすることが求められます。ここでは、経済産業省のHPに掲載されている「転職者インタビュー」をもとに、アンラーニングを行い新たな環境で活躍している人の事例として、「スタートアップへ転職したケース」を紹介します。
【総合商社からスタートアップへ転職したB氏の事例】 B氏は、新卒で大手総合商社に入社し、米国駐在やMBA留学を経験。その過程において「経営者になる」という目指すべき姿や具体的な経営者イメージが明確になり、日系のハードウェアスタートアップに転職しました。 転職後、最初の半年間は意思決定をするための前提情報が揃わないことにもどかしさを感じたそうです。意思決定に必要な情報を得るためのチームもリソースもインフラもあった商社とは異なり、スタートアップでは必要な情報が少ないなかで迅速に意思決定をすることが求められます。「100の情報を持って意思決定するのではなく、20の状態で意思決定をする」と腹をくくり、雑であっても早く進めるという「アンラーニング」を実施。その際、ビジネスモデルの型や常識をもとにアウトプットを一定のクオリティに仕上げる能力、各個人の意見をまとめ短期間で成果を出すことなど、商社勤務やMBA留学の経験も役に立ったようです。 B氏は、その後もスタートアップでキャリアアップを続けています。 |
出典:「【転職者インタビュー】わたしがスタートアップを選んだ理由 #2」経済産業省
まとめ
変化の激しい時代において、個人も組織もアンラーニングすることが重要です。時代遅れとなった価値観や有効性を失った知識などを取捨選択し、新しい学びを取り入れることで、個人も組織も成長できるでしょう。
アンラーニングは、リスキリングやDXといった企業や個人にとって新しい取り組みとセットで進めるのが効果的です。
なお、DXの推進や人材育成を検討される場合は、IPAが策定した「デジタルスキル標準策定」やエクサウィザーズが策定したスキルマップを参考に、自社独自のDX人材スキルマップを作るところからはじめては、いかがでしょうか。
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