「土木業界のDXって何?」「土木業界でDXを推進するメリットは?」などと疑問に思っていませんか?
土木業界のDXとは、デジタル技術を活用して業務プロセスや事業モデルを変革することです。DXの導入により、生産性向上や人手不足解消、コスト削減などのメリットが期待できます。
本記事では、土木業界におけるDXの定義や重要性、導入のメリット・デメリットについて解説します。活用される技術や成功事例、DX導入の課題についても触れているので、ぜひ参考にしてみてください。
土木業界におけるDXとは?
土木業界におけるDXは、デジタル技術を活用して業務プロセスや事業モデルを変革する取り組みです。具体的には3次元データの活用やIoT、AI技術の導入により、設計から施工管理までの全工程をデジタル化します。
他にも、ドローンを使用した測量や3Dモデルを活用した設計により、従来の方法と比較して作業時間を大幅に短縮することが可能です。DX化は、土木業界全体の生産性向上と競争力強化に不可欠な要素となっています。
DXの進め方について身近な例を知りたい場合は、資料にまとめているのでぜひ以下からダウンロードを進めていてください。
参考:文部科学省「文部科学省におけるデジタル化推進プラン」(令和2年12月23日)
土木業界にDX導入が推奨されている理由
土木業界へのDX推進は、業界が直面する課題を解決するために推奨されています。推奨される理由は以下のとおりです。
- 労働生産性の向上
- 人手不足・技術継承の課題解決
- 人件費や材料費などのコスト削減
労働生産性の向上
DX化により、土木業界の労働生産性は大幅に向上します。例えば、ICT建機の導入により、従来の施工方法と比較して作業時間を短縮できます。
また、計画・調査・設計段階までの流れを効率化するBIM/CIMの活用により、生産性が向上して工期短縮やコスト削減が実現可能です。生産性向上は、労働時間の削減や作業環境の改善にもつながり、働き方改革の推進にも繋がります。
人手不足・技術継承の課題解決
DXは、土木業界における人手不足と技術継承の課題を解決する有効な手段です。例えば、AIやIoTを活用した遠隔操作システムにより、熟練技術者の技術を若手作業員に効率的に伝承できます。
VRやARを用いた教育システムにより、危険を伴う作業の安全な訓練が可能です。若手技術者の育成を加速し、技術の継承を円滑に進められます。
人件費や材料費などのコスト削減
DXを推進することにより、土木業界における人件費や材料費などのコストを大幅に削減可能です。例えば、ドローンを活用した測量により、従来の測量方法と比較して作業時間を短縮し、人件費を削減できます。
コスト削減は企業の収益性向上だけでなく公共事業の効率化にも貢献し、社会全体の利益につながります。
土木業界にDXを導入するメリット
土木業界にDXを導入すれば、以下のメリットが得られます。
- 現場作業の効率化
- 若手への技術継承をサポート
- 事務作業の負担が軽減
- 人手不足問題の緩和
- データの可視化と意思決定の迅速化
- 競争力の強化
現場作業の効率化
DXを推進することにより、土木現場の作業効率が大幅に向上します。例えば、ICT建機の活用により、熟練オペレーターでなくても高精度な施工が可能です。
他にも、ドローンを用いた測量により、従来の測量方法と比較して作業時間を短縮できます。テクノロジーの技術により、作業の精度向上と同時に、作業時間の短縮が実現する点がメリットです。
若手への技術継承をサポート
DXは、若手技術者への技術継承を効果的にサポートします。例えば、VRやARを用いた教育システムにより、危険を伴う作業の安全な訓練が可能です。
また、AIやIoTを活用した遠隔操作システムにより、熟練技術者の技術を若手作業員に効率的に伝承できます。技術導入により、若手技術者の育成を加速し、技術の継承を円滑に進められます。
事務作業の負担が軽減
DX化により、土木業界における事務作業の負担が大幅に軽減されます。例えば、クラウドシステムの活用により、書類の作成や管理、共有が効率化されます。
また、AIを用いた文書作成支援システムを活用すれば、報告書や申請書の作成時間を短縮できます。事務作業に費やす時間を削減すれば、別の業務に注力することが可能です。
事務作業の効率化は、残業時間の削減やワークライフバランスの改善にもつながり、従業員の満足度向上につながります。
人手不足問題の緩和
DXは、土木業界における人手不足問題を緩和する効果があります。例えば、ロボットやドローンの活用により、危険な作業や単純作業を自動化できます。
また、遠隔操作システムの導入により、一人の熟練技術者が複数の現場を同時に管理できる点もメリットです。新しいシステムの導入を進めれば、限られた人材を効率的に活用し、人手不足の問題に対応できます。
DXによる業務効率化は、新たな雇用創出や多様な働き方の実現にもつながり、業界全体の活性化につながるのです。
データの可視化と意思決定の迅速化
DXの推進により、土木プロジェクトに関するデータの可視化と意思決定の迅速化が実現します。例えば、BIM/CIMの活用により、3Dモデル上で設計変更の影響を即座に確認できます。
他にも、IoTセンサーからのリアルタイムで得られるデータを活用すれば、現場の状況を即座に把握して迅速な対応が可能です。データに基づく意思決定は、プロジェクトのリスク管理や品質保証だけでなく、顧客満足度の向上につながります。
競争力の強化
DX推進は、土木企業の競争力を強化する効果があります。例えば、AIを活用した最適設計により、コスト削減と品質向上を同時に実現できます。
また、デジタル技術を活用した新しいサービスの提供により、顧客満足度の向上と新規顧客の獲得が可能です。企業の付加価値を高め、市場での競争優位性を確保できる点は大きなメリットです。
DXによる競争力強化は、企業の持続的成長と業界全体の発展に貢献し、国際競争力の向上にもつながります。
土木業界にDXを導入するデメリット
土木業界でDXを推進するメリットがある一方で、以下のデメリットも存在します。
- 初期投資と運用コストの負担
- 従業員の教育や意識改革が必要
- サイバー攻撃や情報漏洩のリスクが発生
初期投資と運用コストの負担
導入には、高額な初期投資と継続的な運用コストが必要です。例えば、3Dスキャナーやドローンなどの機器購入、クラウドサービスの利用料などが発生します。
新しいシステムにコストをかけにくい中小企業にとって、運用コストは大きな負担となる可能性が高いです。特に、短期的な収益改善が見込めない場合、財務面での圧迫要因となる場合があります。
従業員の教育や意識改革が必要
DXには、従業員のデジタルスキル向上と意識改革が不可欠です。新しい技術やシステムの操作方法を学ぶ必要があり、特に年配の従業員にとっては大きな負担となる可能性があります。
従業員の抵抗や適応の遅れにより、DXの効果が十分に発揮されない恐れがあります。また、教育にかかる時間とコストも無視できません。
サイバー攻撃や情報漏洩のリスクが発生
DXにより、サイバー攻撃や情報漏洩のリスクが増大します。クラウドサービスの利用やIoTデバイスの導入により、セキュリティの脆弱性が生じる可能性があるため注意が必要です。
情報漏洩やシステム障害が発生した場合、プロジェクトの遅延や企業の信頼性低下など、深刻な影響を及ぼします。セキュリティ対策にかかるコストも増加するため、サイバー攻撃への対策がとれる専門家の雇用も検討すべきです。
土木業界ににおけるDX技術
土木業界におけるDX技術は、従来の作業方法を革新し、生産性向上と品質改善を実現する重要な要素です。主要なDX技術は以下のとおりです。
- LiDAR
- 3次元モデルデータ
- RTK
- クラウド
- AI
- 5G
LiDAR
LiDARは、土木業界において高精度な3D測量を可能にする技術です。レーザー光を使用して対象物までの距離を測定し、詳細な3Dポイントクラウドデータを生成します。
実際に、地形測量や構造物の3Dモデリングにおいて、LiDARの活用が急速に広がっている状態です。従来の測量方法と比較しても、作業時間が大幅に短縮されるだけでなく、精度の向上が期待できます。
3次元モデルデータ
3次元モデルデータは、土木プロジェクトの設計や施工、維持管理の全段階で活用される重要な技術です。BIM/CIMと呼ばれる手法で、プロジェクトの可視化と情報の一元管理が可能です。
例えば、設計段階での干渉チェックや施工シミュレーション、維持管理段階での効率的な点検計画の立案などに活用されています。結果、プロジェクト全体の品質向上とコスト削減が実現します。
RTK
RTK(リアルタイムキネマティック)は、高精度なGPS測位技術です。基準局からの補正情報をリアルタイムで受信することで、センチメートル級の測位精度を実現します。
例えば、RTKを搭載したICT建機により、設計データに基づいた高精度な施工が可能です。土木現場では、ICT建機の自動制御やドローンの精密な飛行制御などに活用されています。
クラウド
クラウド技術は、土木業界のデータ管理と情報共有をスムーズにします。プロジェクトに関する膨大なデータをクラウド上で一元管理し、関係者間でリアルタイムに共有することが可能です。
例えば、現場で収集したデータを即座にクラウドにアップロードし、オフィスで分析・活用できます。クラウドを活用すれば、迅速な意思決定と業務効率の向上が実現します。
AI
AIは、土木業界においてさまざまな場面で活用されています。設計最適化や工程管理、品質管理などの分野でAIの導入が進んでいる状態です。
具体的には、過去のプロジェクトデータを学習したAIが最適な設計案を提案してくれます。現場の画像データをAIが分析し、安全リスクを検出できるようになりました。
人間がもつスキルに加えて、より高度な意思決定が可能です。
5G
5Gは、超高速・大容量・低遅延の通信を実現する次世代通信規格です。土木業界では5Gの技術を活用して、遠隔操作や大容量データの高速伝送が可能です。
例えば、建設機械の遠隔操作や高精細な映像のリアルタイム伝送による現場監視などに活用されています。5Gの導入を進めれば、作業の効率化や安全性の向上、専門家の知見の遠隔活用などが実現します。
土木業界におけるDX成功事例
土木業界ではDX化が進んでおり、多くの企業が独自のシステムやテクノロジーを開発・活用しています。ここでは、土木業界におけるDX成功事例を紹介します。
Maeda DX|前田建設工業株式会社
前田建設工業株式会社は、「Maeda DX」と呼ばれる包括的なデジタル戦略を展開しています。デジタル戦略では、「生産性改革」「脱請負事業の全社的推進」「体質改善」の3本柱を中心に構成されています。
具体的な取り組みとして、ICI総合センターを設立し、オープンイノベーションの拠点として機能させました。ICI総合センターでは、ベンチャー企業や大学、研究機関との連携を通じて新技術の開発や事業創出を行っています。
地域戦略にも注力し、各支店が地域固有の課題を把握し、公共・社会・民間が連携して解決策を提案・実行しています。取り組みにより、Maeda DXは建設業界の枠を超えた新たな価値創造を実現した事例です。
独自のCIMシステム「T-CIM」|大成建設株式会社
大成建設株式会社は、独自のCIM(Construction Information Modeling)システムである「T-CIM」を開発・導入しています。T-CIMは、3次元モデルと施工情報を統合したシステムで、ダムやトンネルなどの専門工種と、コンクリート工などの共通工種を相互に関連させて体系化しています。
特に注目すべきは、現場打ちコンクリート工事に特化した「T-CIM/Concrete」システムです。生コンクリートの練り混ぜから打設完了までの全工程の情報を電子化し、リアルタイムで共有することを可能にしました。
T-CIM/Concreteの導入により、現場打ちコンクリート工事の生産性向上と品質向上が実現しています。大成建設は、国土交通省が推進する「i-Construction」の主旨に沿って、このシステムを全国の施工現場へ展開した事例です。
参考:現場打ちコンクリート工事のCIMシステム「T-CIM®/Concrete」を構築|大成建設
IoTとAIを活用した「シミズスマートサイト」|清水建設株式会社
シミズスマートサイトの導入により、清水建設は現場の生産性を約1.5倍に向上させることに成功しました。具体的には、2024年度までに2016年度比で生産性を1.5倍にする目標を掲げ、着実に成果を上げています。
清水建設は「スマート生産」の取り組みを進めており、一環として建設現場の無人化・自動化を目指しています。例えば、AIを活用した配筋検査システムの開発や、自動運転技術を活用した建設機械の無人化などを進めている段階です。
シミズスマートサイトは、単なる技術革新にとどまらず、建設業界全体の働き方改革や生産性向上を牽引する取り組みとして注目されています。
参考:シミズスマートサイトの新戦略、超大型工事にロックオン|日経XTECH
土木DXを推進する上での課題
土木業界でDXを推進する際には、複数の課題が存在します。以下の課題を適切に対処することが、DX推進の成功につながります。
- 協力会社や取引先との連携が必要になる
- 業界の慣習や文化の変革に抵抗がある
- 既存従業員に対するデジタルスキル教育が必要になる
協力会社や取引先との連携が必要になる
土木業界のDX推進には、協力会社や取引先との密接な連携が不可欠です。多くのプロジェクトが複数の企業の協力によって成り立っているため、DXの効果を最大化するには全ての関係者が同じ方向を向かなくてはいけません。
例えば、BIM/CIMの導入では設計会社や施工会社、資材メーカーがデジタルデータを共有し活用できる環境が必要です。連携を実現するためには、共通のプラットフォームの構築やデータ形式の標準化が重要になります。
業界の慣習や文化の変革に抵抗がある
土木業界には長年培われてきた慣習や文化が存在し、DX推進の障壁となる場合があります。例えば、紙ベースの図面や書類に慣れた従業員が、デジタルツールへの移行に抵抗を感じる事例は多いです。
課題を克服するためには、トップダウンでの強力なリーダーシップと意識改革が必要です。DXによるメリットを具体的に示し、従業員の理解を得ることが重要です。
既存従業員に対するデジタルスキル教育が必要になる
DX推進には、従業員のデジタルスキル向上が不可欠です。特に、ベテラン従業員にとっては新しい技術の習得が大きな課題となる場合があります。
課題に対しては、段階的な教育プログラムの実施が効果的です。基礎的なITスキルから始め、徐々に高度なデジタルツールの操作へと進めていけば、従業員の不安が軽減された状態でスキル習得を促進できます。
土木業界にDXを導入するまでの流れ
土木業界でDXを推進する際には、段階的なアプローチが重要です。具体的な流れは以下のとおりです。
- 現状分析と課題の洗い出し
- DX戦略の策定
- 推進体制の構築
- 技術選定と導入計画の立案
- 小規模なプロジェクトでの試験導入
- 本格導入と展開
- 人材育成と組織文化の醸成
- 継続的な改善
1. 現状分析と課題の洗い出し
DXの第一歩は、現状分析と課題の洗い出しです。自社の業務プロセスを詳細に分析し、非効率な部分や改善が必要な点を特定しましょう。
課題を洗い出す段階では、従業員からのヒアリングや業務の可視化が有効です。業務フローの図式化やデータの流れの分析などを通じて、DXによって改善可能な領域を明確にすることが大切です。
2. DX戦略の策定
現状分析に基づき、DX戦略を策定しましょう。DX戦略には、DXの目的や達成したい目標、具体的な施策などが含まれます。
戦略策定の際は、経営層を含めた議論が重要です。DXが単なる技術導入ではなく、ビジネスモデルの変革につながることを認識し、長期的な視点で戦略を立てる必要があります。
3. 推進体制の構築
DX推進のための専門チームを編成しましょう。編成チームには、IT部門だけでなく、現場の実務者や経営層も含めることが重要です。
推進チームはDX戦略の実行や進捗管理、課題解決などの役割を担います。外部の専門家や顧問を雇い、知見を取り入れることも効果的です。
4. 技術選定と導入計画の立案
DX戦略に基づき、具体的な技術やツールを選定し、導入計画を立案しましょう。計画を立案する際には、業界標準や将来性を考慮することが重要です。
例えば、BIM/CIMツールの選定では、他社との互換性や将来的な拡張性を検討します。また、クラウドサービスの選択では、セキュリティ面や使いやすさを考慮することが大切です。
5. 小規模なプロジェクトでの試験導入
選定した技術やツールを、小規模なプロジェクトで試験的に導入します。試験段階では、効果測定と課題抽出に重点を置きましょう。
試験導入を通じて、想定していなかった問題点や改善点を洗い出し、本格導入に向けた準備を整えます。従業員からのフィードバックを積極的に収集し、改善に活かすことが重要です。
6. 本格導入と展開
試験導入の結果を踏まえ、必要な修正を加えた上で、全社的な本格導入を行います。導入段階では、段階的な展開計画を立て、混乱を最小限に抑えることが重要です。
導入の際は、従業員への十分な説明と教育を行い、新しいシステムやツールへの理解と活用を促進しましょう。導入後のサポート体制を整え、スムーズな移行を支援することが大切です。
7. 人材育成と組織文化の醸成
DXの成功には、人材育成と組織文化の醸成が不可欠です。デジタルスキル向上のための教育プログラムを実施し、継続的な学習を実施しましょう。
同時に、イノベーションを促進する組織文化の構築が必要になります。失敗を恐れずに新しいアイデアを試す風土や、部門を超えた協力体制の構築が重要です。
8. 継続的な改善
DX導入後も、継続的な改善が必要です。定期的に効果を測定し、新たな課題や改善点を特定しましょう。
技術の進化や市場の変化に応じて、戦略や導入技術を柔軟に見直すことが重要です。また、業界内外の最新動向を常に把握し、必要に応じて新たな技術やアプローチを取り入れます。
継続的な改善によってDXの効果を最大化し、競争力の維持・向上につなげます。
まとめ
土木業界におけるDXは、生産性向上や競争力強化の鍵となる重要な取り組みです。課題を適切に対処し、段階的なアプローチで導入を進めることで、成功の可能性が高まります。
DXは一朝一夕で実現するものではなく、長期的な視点と継続的な努力が必要です。しかし、導入した際の効果は大きく、業界全体の発展につながる可能性を秘めています。
ぜひ本記事を参考に、土木業界にDXを進めてみてください。
なかなかDXが進まない場合は、成功に向けたポイントを押さえておくことが大切です。以下ではDXを成功させるためのポイントを資料としてまとめているため、ぜひ参考にしてみてください。