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金融DXの課題とポイント|生成AI時代に取り組むべきDXとは【事例付き】

金融DXの課題とポイント|生成AI時代に取り組むべきDXとは【事例付き】

金融DXとは、金融業界の企業においてデジタル技術を活用して業務を効率化・自動化し、最終的にはデジタルやAIを活用した新規ビジネスの創出といったビジネスモデル自体を変革を成し遂げ、競争上の優位性を確立することを指します。

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「金融業界のDX人材育成事例」

金融業界では、デジタル技術の拡大によるユーザーの行動変容や、他業界の企業による金融事業への参入など、今までにない変化が起こっています。

また、日本の金融業界は他の産業と比べても昔からシステム化が進んでいる業界と言えますが、それも一つの要因として現在多くの課題を抱えている状況です。

そうした背景からデジタルを活用した変革「DX」の推進が急務となっています。さらに、生成AIをはじめとしたAI技術の急速な発展により、AIを活用した業務の枠組みを構築することが、競争力の維持向上に欠かせない要素になっています。

そこで今回は、金融業界における現状と課題点を明確にし、推進するべきDXの方向性や先行事例を紹介します。

最後までご覧になれば、金融業界の現状を把握でき、自社にとって適切な改革案を見つけられるでしょう。

DXとそれを取り巻く最新の環境変化

DXとは、「Digital Transformation」の略語のことで、直訳すると「デジタルによる変容」を意味します。DXはデジタル技術を用いた業務効率化だけにとどまらず、その先にあるビジネスモデルの変革を目指します。

また、経済産業省は 「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025」 を公開しており、そこにも現時点でのDXの考え方・定義が記されています。

DX(デジタルトランスフォーメーション)を簡潔に表現すると、「顧客視点で新たな価値を創出していくために、ビジネスモデルや企業文化の変革に取り組むことであり、単にデジタル技術やツールを導入すること自体ではなく、企業経営の変革そのもの」

出典:「中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025」 経済産業省 2025年3月

しかし、この定義はクラウド・IoT・RPAなどの“デジタル化”を中心としたDX黎明期の発想であり、近年のAI技術の飛躍的進化には十分に対応していません。

AIの登場は、単にデジタルを「使う」段階から、AIとともに価値を創る段階へと企業変革の重心を移しました。こうした流れの中で生まれたのが、AX(AIトランスフォーメーション)という概念です。

AXとは、“AI Transformation” の略で、AIを組織の中枢に据えて、経営・業務・人材を再設計する変革を意味します。

DXが「デジタルによる効率化と構造変革」であるのに対し、AXは「AIによる意思決定・業務遂行の自動化と人間との協働」を軸にした、次世代の変革フェーズです。

そのため、この記事ではAI・生成AI活用も包括したDX・AXについての事例も交えて、金融業界での動きについて解説していきます。

DXの定義については、「DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?推進に必要なポイントと最新事例をわかりやすく解説! 」でも解説していますので、合わせてご確認ください。

金融業界における現状と課題

金融機関における現状や課題は以下の通りです。

高度なシステムがDXの足かせに

1980年代に巨大システムが多くの金融機関で誕生しました。当時は最新のシステムによって業務の効率化を促していましたが、システムが大規模化・複雑化したためメンテナンスや改修に多大のコストがかかるばかりか、新しい変化への対応が難しくなっておりレガシーシステム化が進んでいます。

金融業界においては、顧客のお金や資産情報を含めた個人情報を管理する関係上、顧客からの信用や強固なセキュリティの基にあるシステムが最重要です。複雑化している既存システムを改修することは、金融業界においては大きなリスクに当たるため、慎重にならざるを得ません。

減少する融資先

減少する融資先も、金融業界の課題の一つです。企業数自体が減少傾向にあり、資金需要も減り続けています。

参考:総務省「平成11年、13年、16年、18年事業所・企業統計調査」、「平成21年、26年経済センサス‐基礎調査」、総務省・経済産業省「平成24年、28年、令和3年経済センサス‐活動調査」を基にエクサウィザーズでグラフ作成

出典:「地域金融の課題と競争のあり方」金融仲介の改善に向けた検討会議 平成30年4月11日

地域金融機関では今までの担当エリアだけだと案件の確保が難しくなり、対象エリアの拡大も進んだことで今まで競合しなかった他の金融機関とも競合してくるようになりました。それに伴い、低金利競争がより加速化し、融資によって利益を作ることが困難になりつつあります

参考:「地域金融の課題と競争のあり方」 金融仲介の改善に向けた検討会議  平成30年4月11日

参入企業の増加によるレッドオーシャン化

参入企業の増加によるレッドオーシャン化も深刻です。PayPayや楽天証券、auじぶん銀行などに代表される、今まで金融サービスを取り扱っていなかったIT企業などが、デジタル技術を駆使して金融ビジネスに参入しています。

さらに、環境変化のスピードに合わせ、顧客ニーズが日々とてつもないスピードで変化しています。その中で選ばれるサービスになるためには、サービスの体験価値を高めるなどの方法で競争優位性を担保し、改善を繰り返していかなければなりません。

暗号通貨の台頭

近年はビットコインやイーサリアムなど、暗号通貨(仮想通貨)が注目を浴びています。暗号通貨とは、インターネット上で取引される実物の存在しない電子的な通貨のことです。

銀行を介さない送金などにより、本来銀行間送金などで得られたはずの手数料が減少しています。暗号通貨は今後さらに主流になると予想されているため、一部銀行はブロックチェーン技術の検討を進めています。

人口構造の変化

金融資産を多く保有している層の高齢化が進んでいます。その状況下で継続して金融業界が利益を上げ続けるためには、将来のメイン顧客となる現在資産を形成している30代~40代を顧客にしていく必要があります。

出典:「DX/ニューノーマル時代における証券業界の将来展望」 PwC Japanグループ 2021年9月16日 

しかし、若い世代の資産の使い方や投資先が多様化していることや、デジタル化により情報を自身で取得しやすくなったことで従来の営業マンの提供価値が下がっているなどの理由から、提供価値を今まで以上に高める必要も出てきています。

金融業界が実施するべきDX

前述したように、金融業界では課題点が多く存在し、今まで以上のデジタルの活用は避けられません。そのためDXの推進や、その前段階であるデジタイゼーション・デジタライゼーションの推進が急務です。

実施すべきDX推進の施策案は、以下の通りです。

クラウド導入による業務刷新とコスト削減

DX推進の第一歩として、クラウド導入による業務刷新とコスト削減があげられます。これまでオンプレミス型で運用していたサーバーやシステム環境をクラウドに置き換えることで、初期費用を抑えたり、ランニングコスト(電気代や運用者の人件費など)がクラウドサービスの利用料に変わったり(時には安くなったり)してコスト削減に繋がります。

クラウド導入が進んだ背景として

  • MUFGがクラウドを導入したこと
  • 金融情報システムセンター(FISC)がクラウド活用を前提にした安全対策基準を発表したこと
  • セキュリティの強化が進んだこと

などが理由で、多くの企業がクラウドを積極的に導入しています。

【金融機関のクラウド導入状況】

業態

2016年度

2017年度

増減

全体(証券・保険他を含む)

37.7%

44.3%

+6.6%ポイント

都銀、信託

100.0%

100.0%

地銀

76.2%

81.8%

+5.6%ポイント

第二地銀

56.8%

71.1%

+14.3%ポイント

ネット専業他

70.0%

82.0%

+12.0%ポイント

信用金庫

15.3%

20.6%

+5.3%ポイント

信用組合

14.6%

13.1%

-1.5%ポイント

 

出典:「金融分野におけるクラウドサービス」総務省

金融機関のクラウド導入状況を見ると多くの業態でクラウド活用が進んでいることがわかります。

以下は金融機関ごとのクラウド導入の動きの例です。各社細かい違いはあるものの、AIサービスの利用など部分的にクラウドを導入していることがわかります。AIサービスの活用増加に伴いこの動きはどんどん加速していくことでしょう。

分類

分類

金融機関名

概要

銀行

ネット銀行

株式会社ソニー銀行

2013年末に銀行業務のうち帳票管理やリスク管理、管理会計といった周辺系システムおよび開発環境の一部、そして一般社内業務システムをパブリッククラウド上に構築することを決定し、以降段階的に導入。

銀行

地方銀行

株式会社北國銀行

2018年夏を目途に、パブリッククラウドと勘定系システムとを連携し、セキュリティを確保しつつ、多様化する顧客ニーズに合わせた迅速なサービス拡充を実現することを目指す。

銀行

都市銀行

株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ

2017年9月に発表したデジタルトランスフォーメーション戦略の中でパブリッククラウドを優先的に活用することを発表。AI サービスの利用等、クラウドサービスの選択肢拡大を視野に入れている。

保険

第一生命保険株式会社

スマートフォンやウェアラブル端末などのデータから AI 等を活用することで、顧客の健康リスクを評価・分析し、最適なアドバイスを提供する「健康増進サービス」のシステム基盤として、パブリッククラウドを採用した。

証券

マネックス証券株式会社

基幹業務を扱うシステムに関してはオンプレミスだが、それ以外に関してはほとんどをパブリッククラウド上に移行済、または移行することを検討中である。

 

出典:『ICT によるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究』株式会社三菱総合研究所 2018年3月

IoTを活用した新たな投資基準

IoTを活用すれば、これまでにない新たな投資基準を設定可能です。IoTは「Internet of Things」の略語であり、「モノのインターネット」を意味します。

保険業界では、下記のようにIoTを活用したサービスが誕生しています。

  • 自動車のセンサーから得られた情報をもとに、運転の傾向を把握して保険料率を決める
  • 契約者の生活習慣や健康診断をポイント化し、保険料を増減させる仕組み

生体認証の活用

生体認証技術もDXでの導入が進んでいる技術です。主に本人確認が重要なサービス・業界で広がっており金融業界でも導入が広がっています。生体認証で利用される情報には、顔・指紋・静脈・声紋・色彩・掌紋などがあり、最近は特に顔認証の導入が進んでいます。

具体的な活用事例としては、本人確認書類に添付されている顔写真を、その場で撮影した顔写真と照らし合わせて完了させるものがあり、第三者のなりすましや画像データの悪用を防げます。

セキュリティ関連は、「DXで重要なセキュリティ対策とは?最新のセキュリティトレンドも紹介」でも詳しく解説していますので、ぜひ合わせてお読みください

オープンAPIを活用した利便性向上

オープンAPIの活用によってさまざまなサービスを連携させ、顧客の利便性を向上させることも可能です。APIとはあるアプリケーションのデータや機能を他のアプリケーションで呼び出し利用するための仕組みをさします。

金融業界においては、下記のような場面でAPI連携が使われています。

  • 他アプリのID情報を連携してユーザー認証を行う
  • マネーフォワードなどの金融系プラットフォームアプリと銀行の残高を連携する

多種多様なサービスと連携させることで、銀行のみが提供してきたサービスを他企業も提供できるようになり、新しいサービスの発案やユーザーの体験価値向上にもつながります。

暗号資産のビジネス活用

暗号資産の主要銘柄は需要が大きく、徐々に信用性を高めていることから、今後はさらに市場が拡大すると予想されています。今は法整備が進んでいないなど課題も多いですが、いつでも進出できるよう準備を進めておくことが大切です。

新規事業・イノベーションの創出

DXは業務の効率化にとどまらず、前述したようなデジタル技術を活用し、最終的にはビジネスモデルの変革を目指します。変革を実現すれば、競争上の優位性を確立し、会社としての価値をさらに高められるでしょう

デジタル技術の導入と並行して新規事業の立案を進め、イノベーションの創出を目指しましょう。

 

競争優位を確立した企業が取り組むDX推進とは?

DXを実施するにあたっては、単に既存業務の効率化をおこなうだけでなく、どのように競合優位性を確立するかという経営観点にもとづいた推進が必要です。
先行してDX推進を成功させた企業は何を取り組んだのか?

年間300件以上のDX推進プロジェクトを支援した実績から、事例やノウハウをまとめた資料をご用意しました。
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  • 単なるAI導入やツール導入ではなく、ビジネスモデルを変革したい
  • 経営の観点でDXを推進したい

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金融DXを進める上での注意点

金融庁がとりまとめた「金融機関のITガバナンス等に関する調査結果レポート」によると、DXを推進し新規事業を立ち上げる上で上手くいかなかった理由として以下の点があげられています。

  • システム的には実現可能であるが、マーケット規模が小さい 
  • 持続的にサービス提供できるような価格設定が難しい
  • 勘定系システムとの連携機能開発の負荷が高い
  • 遵守すべき規制や行内手続きのハードルが高い
  • PoCの段階で特定のベンダーに依存し過ぎたため、今後もそのベンダーに発注し続けなければいけない

これらの課題にあとから気づくのではなく、「事前に事業KPIを定め撤退基準を定めておく」、「PoCはベンダーに依存しないようになるべく内製で行うようにする」などの対策をあらかじめ検討しておくと良いでしょう。

参考:『金融機関のITガバナンス等に関する調査結果レポート』2022年6月

DX推進の失敗事例については、「DXに失敗しないために、DXの失敗事例とその要因、対策を解説!」でも解説していますので、合わせてご確認ください。

金融業界のDX事例

実際にDX推進した事例を5つ紹介します。

株式会社ふくおかフィナンシャルグループ

実施内容・成果

株式会社ふくおかフィナンシャルグループは、デジタル技術を活用し、国内初のデジタルバンク「みんなの銀行」をスタートさせ、顧客の銀行体験を変革させました。

みんなの銀行は多くのサービス(支払い、振り込み、ATMによる入出金、デビットカード機能、履歴管理、BOX機能によるお金の整理など)をスマートフォン上で完結させることが可能です。

 

参考にしたいポイント・アクション

  • 従来のシステムや業務プロセスの規約に縛られることなく、スマホ利用が増えた顧客のニーズの変化に対応し、スマホで多くの機能を活用可能としました。

参考:「みんなの銀行」

東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社

実施内容・成果

東海東京フィナンシャル・ホールディングス株式会社は、独創性と優位性を持つ「東海東京デジタルワールド」を実現させました。

本サービスでは、ユーザー向けのさまざまなデジタル機能を展開し、その中で取得したデータをAIによるマーケティングにより、デジタル金融のエコシステムを構築しています。

 

参考にしたいポイント・アクション

  • 地域金融機関や事業会社、地方自治体と協働しています。
  • AIやブロックチェーン技術などの最新技術をビジネスに活用しています。
  • 地方創生といった社会課題解決に取り組んでいます。

SBIインシュアランスグループ株式会社

実施内容・成果

SBIインシュアランスグループ株式会社は、ダイレクト損保から「AIドリブンカンパニー」へビジネスモデル変革を目指しています。

社内におけるさまざまなデータ活用とAI導入を実施したことで、AIによる保険金の不正請求探知、コールセンターの受電予測、AI活用により業務改善・社内改革を行う人材の育成など、各種AIプロジェクトを進めています。

 

参考にしたいポイント・アクション

  • 外部のパートナー企業を介した保険販売において、プロセス全体のDX推進を図ることにより、業務の効率化や強固なエンゲージメントを構築しています。
  • SBIグループが戦略的に投資しているスタートアップのAI技術を積極的に導入・検証し、地域金融機関などの外部にも提供して「拡散」する取組みを推進しています。
  • 専門知識がなくてもツールを使ってAIを活用したデータ分析ができる人材を育成しています。

東京海上ホールディングス株式会社

実施内容・成果

東京海上ホールディングス株式会社は、「保険事業」から「社会課題解決事業」へのトランスフォームを試みています。社会変化や問題起点によってターゲットを定め、AI実装をはじめとしたデジタル技術の活用により新たな価値提供を実現しています。

 

参考にしたいポイント・アクション

  • 他業種14社の参画法人によって構成される「防災コンソーシアム(CORE)」を発足しました。
  • 防災4要素の課題抽出や対策研究、新たなビジネスモデルの創出支援などを進めています。
  • 世界46か国に展開する事業プラットフォームを活用し、各国で磨いたソリューション

をグローバル展開することで、新しいビジネスモデルを構築しています。

【経営層インタビュー】データと内外人材によるDXで損保を再定義 東京海上ホールディングス株式会社 常務執行役員 グループデジタル戦略総括 生田目 雅史氏
【経営層インタビュー】データと内外人材によるDXで損保を再定義 東京海上ホールディングス株式会社 常務執行役員 グループデジタル戦略総括 生田目 雅史氏

東京センチュリー株式会社

実施内容・成果

既存ビジネスの深化を推進した東京センチュリー株式会社。これまで培ってきた金融・サービス事業の強みを活かし、サブスクリプションとDX共創モデルを掲げました。

従来までのリース顧客を事業パートナーとして再定義。そして、その共同活動を中心に、事業変革シナリオを実践しています。

 

参考にしたいポイント・アクション

  • 同業他社も非競争領域においてはパートナーとする「共同利用システム」を検討しています。

参考:「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2022」経済産業省 2022年6月7日

 

三菱HCキャピタルの事例から学ぶ、金融業界におけるDX人材育成のポイント

金融業界においてもDXを推進する企業は年々増えつつあります。
DXを進めるうえでの課題 、金融業界におけるDX人材はどのように育成すべきなのでしょうか。

三菱HCキャピタルの取り組み事例から、金融業界におけるDX推進のポイントやノウハウをまとめた資料をご用意しました。
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【資料ダウンロード】 【金融業界編】DX人材育成の取り組み状況と三菱HCキャピタルの事例
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生成AI時代に金融機関が取り組むべきDX

これまで見てきた通り金融業界のビジネスモデルやサービスの変革がすすむなか、各金融機関はDXに取り組み業務の効率化や顧客の利便性向上に取り組んできました。各社とも取り組みにより一定の成果を上げつつも、さらなる効率化の打ち手として生成AIの活用に注目が集まっています。

人材不足は解消のめどが立たないなか、顧客接点のデジタル化シフトや、コンプライアンスの担保といった多層的な課題に対応していくには従来のDXから、よりAI技術に特化したAXへの舵取りが、今後一層求められるのです。

金融機関における生成AIの活用領域

ビジネスに生成AIを活用する場合、主に以下の領域における貢献が期待できます。

  • 顧客接点やマーケティング
  • コンテンツ作成などのクリエイティブ業務
  • 膨大な情報の整理
  • 業務知識・ノウハウの共有
  • 定型業務の自動化

このように枚挙に暇がありませんが、金融業界における生成AI活用においては、対顧客業務と内部業務に分けて考える必要があります。内部業務は自社内で完結するものがほとんどであり、比較的取り組みやすい領域です。対して、対顧客業務は一般消費者まで影響が及ぶため、慎重に取り組むべき領域です。

対顧客業務 顧客サービス・CX 顧客サービスの個別最適化
コミュニケーションの自動化
顧客サポートの自動化
商品開発・イノベーション 新商品/新サービスのデザイン支援
UIの個別最適化
市場分析と予測に基づいた商品開発
マーケティング・セールス 市場分析
個別最適化されたマーケティングコンテンツ
クロスセルとアップセルの機会の特定
内部業務 リスク管理 不正検知能力の向上
規制リスクへの対応
市場リスクのシミュレーション
コンプライアンス・当局報告 リアルタイムでの規制遵守モニタリング
マネーロンダリング防止と顧客確認プロセスの強化
当局への報告文書の自動生成
オペレーション 業務プロセス自動化
文書管理の自動化と検索性向上
ビッグデータによる意思決定支援

こうした業務に生成AIの活用が見込めますが、金融という事業の特性上セキュリティー対策は、より強固なものであることが求められます。生成AIの活用が普及するにつれ、予測もつかない脅威にさらされる可能性は常に念頭におきつつ、セキュリティー体制を構築しなければなりません。

参考:「生成AIの銀行業務における活用領域の可能性」電通総研

金融機関の生成AIによるDX最新事例

ここでは金融機関における、生成AIを活用したDXの事例を紹介します。

みずほ銀行

2024年8月、みずほ銀行は生成AIを活用した次世代コンタクトセンターシステムを導入し、より顧客の利便性と安心感を高め運営の高度化を実現しています。

顧客がコンタクトセンターにアクセスし、本人確認を終えるとオペレーターの画面に過去の取引履歴が表示されます。さらに顧客との会話を分析することにより、ニーズに沿ったサービスをオペレーターに提示。オペレーターはそれを基に、個別最適化された提案をおこなうことができます。また経験豊富なアドバイザーの知見を学習させることにより、ライフプランや資産形成など複雑な質問にも高度な対応が可能になりました。

電話やメール、チャットやLINEなど、さまざまなチャネルからのアクセスがコンタクトセンターに集約されます。応対内容は自動テキスト化・要約され、セキュアな状態で全国の営業拠点と共有される環境を構築しています。

参考:「生成 AI を活用した新たなコンタクトセンターシステムの構築について」みずほ銀行 

三菱UFJ信託銀行

三菱UFJ信託銀行では、生成AIを用いた社内問い合わせ対応のシステムを導入し、担当部署の工数を50%削減することに成功しています。一般的に信託銀行では、専門性の高い業務が広範囲に及んでおり、社内外からの問い合わせに対し正確な回答を導くには、高度な専門知識が必要です。回答を得るまで時間がかかるため、生成AIによる解決が模索されました。

専門的な金融知識や業務知識が必要な問い合わせに対応すべく、システムの仕様書や業務マニュアル、FAQを生成AIに読み込ませ、行内の問い合わせ対応の自動化を試みます。実証実験では90%以上の正答率が得られ、生成AIにより高度な金融知識が必要な問い合わせにも対応できることが確認されました。2024年4月から一部部門で運用開始し、今後は新たなAIエージェントの開発や、ユーザー対応にまで活用を広げていく展望をもっています。

参考:「金融市場取引業務における生成 AI を活用した社内問い合わせ対応の自動化実現について」三菱UFJ信託銀行

宮崎銀行

宮崎銀行では、生成AIを活用した融資稟議作成アプリケーションを開発。稟議書の作成時間を95%削減し、業務効率化を実現しています。融資稟議書とは金融機関が融資をおこなう際の決裁書類であり、記載する情報量が膨大かつ、評価や分析も盛り込む必要があるため、手作業による作成では多くの時間を費やさなければなりませんでした。

同行は新たに設けたクラウド基盤上でアプリを運用する環境を整備し、今後の全店舗での運用を目指しアプリケーションの精度向上とデータの連携を進めるとしています。このアプリケーションは2カ月という短期間での実用化がなされており、金融機関において画期的な取り組みであると内外からの評価を得ています。

参考:「融資業務における生成AIの利用開始について」宮崎銀行

三井住友海上火災保険株式会社

損保大手である三井住友海上火災保険では、事故対応業務における顧客との通話内容を自動でテキスト化し、生成AIにより要約するシステムを開発しました。従来、事故対応における顧客を含めた関係者とのやり取りは、担当者が経過記録として書き起こし、システムに入力していました。非常に負荷のかかる業務であり、より顧客に寄り添った対応や、事故対応以外の価値提供の創出に時間が割けないことが課題となっていました。

同社ではシステムの実証実験により正確性と有用性が確認できた後、一部の保険金お支払いセンターでの運用を開始。生成AIによる業務効率化がたらした時間を、より顧客対応の充実や事故対応の品質向上に努めることに活用するとしています。

参考:「事故対応に生成AIの文章要約技術を導入」三井住友海上

まとめ

新型コロナウイルス感染症の影響やスマートフォンの普及により、リモートワークや業務の効率化が求められたり、ユーザーの行動変容が激しくなる中、多くの企業がDX推進に注目しています。

金融業界では推進するにあたってさまざまな問題を抱えていますが、DXの前段階であるデジタイゼーションとデジタライゼーションから推進すれば、企業のDX化に一歩近づけるでしょう。

また、金融業界のDXを推進する際は、「クラウド導入による業務刷新とコスト削減」をはじめとし、AI導入やIoT活用など、複数の改革案が考えられます。金融業界のDX推進を目標にしている方は、本記事で紹介したDX推進事例を参考にした上で、改革案の実行を検討してみてください。

参考:『改革・改善のための戦略デザイン金融業DX』著:平木恭一 秀和システム 

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