DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が求められている現代では、 日本のIT人材不足と基幹システムの老朽化、ビジョンや戦略の不明瞭化、予算不足、経営層のコミットが少ないことなどが問題となっています。
DXを実現するためには、これらの課題を解決しなければなりません。今回は、DXを推進する前に知っておきたい具体的な課題と、その課題に対する効果的な解決方法について解説していきます。
日本のDXにおける課題
2022年現在では、5Gやスマートフォンの普及、新型コロナウイルス感染症対策や働き方改革などの影響もあり、DXの推進が強く求められています。しかし、先進諸国の中では、日本はDX化に後れをとっているとされており、このまま対策がなされない場合、日本は「2025年の崖」に直面する可能性が高いといわれています。
「2025年の崖」とは、2018年9月に経済産業省が発表した「DXレポート」に記載されている言葉で、既存のITシステムが老朽化やブラックボックス化を起こし、人材不足などもあいまって最大で年間約12兆円もの損失を出す問題のことです。DXを推進できない現在の状況を回避しなければ、世界的なデジタル競争での競争力の低下やシステムトラブルなどのリスクが高まると危惧されているのです。
出典:『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』経済産業省 平成30年9月7日
経営の課題
DXは全社を巻き込んで長期的に取り組むべきものです。そのためには全社で同じ方向を向き、途中でぶれない強烈なコミットが必要になります。そのためには経営層が中心となって戦略やビジョン、ロードマップを策定し、現場が途中で諦めないように経営層がコミットする必要があります。
しかし、DXという単語だけが広まった結果、そのようなコミットの必要性が見過ごされ新しいITの取り組みの一つ程度に扱われるケースもあります。経営層がDXについて関心が薄いと、デジタルに対する投資も少なくなります。そうなれば新たなITシステムの開発や既存システムの刷新にかかるコストを確保されませんし、旧来から使い続けているITシステムを使い続けることになります。現行システムの保守・運用に重点を置いていては、DXのような攻めのIT投資には繋がりません。別途予算を確保するなどの対策が必要です。
特に、大企業では長きにわたって構築された企業文化を簡単には変えにくい傾向があり、さらに昔に作りこまれた複雑怪奇な大規模システムを改修するコストやリスクを許容できない心理が働き、腰が重くなりがちです。
また、目先の業績が好調・安定していることもあり、変革に対する危機感が薄く、そこまでエネルギーを注ぐ必要がないと判断されてしまう場合もあります。結果的に「危機感が高まった時にはすでに変革に必要な投資体力を失っており、DX推進がさらに難しくなっている」ということがないように早くからDXへ取り組む必要があります。
出典: 『DXレポート2.1(DXレポート2追補版)』経済産業省 令和3年8月31日
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DXを実施するにあたっては、単に既存業務の効率化をおこなうだけでなく、どのように競合優位性を確立するかという経営観点にもとづいた推進が必要です。
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人材の課題
日本のDX化が進まない原因として人材の課題があります。日本はまだ「年功序列制度」が根強く残っておりリストラのリスクも低いため、新しいスキルを身に付けて企業に変革を起こさなくても一定の報酬をもらいながら働き続けることができます。そのために人材が育ちにくいということがあるでしょう。
また、IT戦略の立案・推進をシステムインテグレータ(SIer)などの外部企業に委託し、社内にノウハウが蓄積されていないケースが多いことなどもあげられます。
アメリカでは、DX推進のカギとなるテクノロジー人材のうち約70%が事業会社側にいるのに対し、日本には約30%しかいません。つまり、現在の日本は、DXの推進を外部に丸投げしている状況と言えます。デジタルサービスを構築できる人材が社内にいないため、DX戦略があったとしてもそれを実行する人材がいないとDXは成しえません。
DXを進めるためには、デジタルスキルの高いエンジニアだけではなく「DX人材」が必要です。AIやIoT分野の技術を習得しているだけでは、DX人材とは呼べません。デジタル技術が活用できることに加え、改革を起こすマインドや素養があって初めてDX人材と呼べます。
出典:『平成30年版情報通信白書(第1章我が国のICTの現状 図表1-4-1-7)』総務省
システムの課題
レガシーシステム(最新の技術や製品を用いた情報システムと対比して、相対的に時代遅れとなった古いシステム)を利用している大企業は、システムが老朽化・複雑化・ブラックボックス化している可能性があります。実際に、約8割以上の企業が老朽システムを抱えているというデータもあります。
企業によっては事業部ごとにシステムが構築され全社横断的なデータがない場合、全社横断的なデータはあるが活用ができていない場合があります。また、社内で勝手に過剰なシステムのカスタマイズが行われることにより、DXがさらに複雑化・ブラックボックス化していくという悪循環が発生しています。
加えてIT関連費の約80%が既存システムの維持管理(ラン・ザ・ビジネス)に使われているため、バリューアップするための資金はたったの20%ほどしか残っていません。その結果、戦略的なIT投資に資金・人材を振り分けることができず、DX推進の足かせとなっているのです。
出典:『デジタルトランスフォーメーションに向けた課題の検討』経済産業省 出典:『DXレポート 平成30年9月7日』経済産業省
ユーザー企業とベンダー企業の関係の課題
現在のユーザー企業と販売会社であるベンダー企業が「相互依存関係」であることも、DXを推進する能力が育たない理由の一つとDXレポートでは言及されています。日本のユーザー企業はITをコストと捉える場合が多く、ITをベンダー企業に委託しているのが現状です。結果的に社内のIT対応能力は育たず、システムはブラックボックス化します。
ベンダー企業は基本的に労働量に対してサービス料金を決めているため、労働量が下がるような生産性を向上させるインセンティブが働かず新たな能力開発や技術開発投資がなされません。これにより最新の技術に対応できない構造ができてしまっています。これを本レポートでは「低位安定」の関係だとしています。ユーザー企業とベンダー企業の関係性を変えることは、一足飛びにはいけない大きな壁があるのです。
出典: 『DXレポート2.1』経済産業省 令和3年8月31日
社内のDXスキル育成の課題
上述した通り、DX推進には社内にDXスキルを持つ人材が必要です。しかし、現在の日本はDX人材の不足が浮き彫りになっています。ユーザー企業にITで何ができるか理解できている人材がいないことから、DXに関してはベンダー企業に任せきりになるという悪循環が起こっています。特に、企業内で人材確保が難しい中小企業ほど、社内のDXスキルが一向に育たないままになっています。
DXの課題を解決するために
上述の通り、DXにはさまざまな課題があることが分かりました。では、DXの課題に対する具体的な解決策はどのようなものがあるのでしょうか。DXを推進していくためのポイントをいくつかご紹介します。
経営がDXにコミットする
DXを推進していくために、「DXでどのように新たな価値を生み出すか」「どのようなビジネスモデルを構築すべきか」について経営層が明確にビジョンを描き、ロードマップの策定と経営戦略を打ち出していく必要があります。そのため、DXのプロジェクトは、部門を横断した全社的なプロジェクトとなるでしょう。
トップが明確なDX戦略の方向性を示してリーダーシップを取れば、DXに対する社員の意思統一もスムーズになるはずです。
まずは、経営層がDXの必要性や重要性ついてより深く理解することが大切です。部下にプロジェクトを丸投げするのではなく、強いコミットメントを持って取り組んでいきましょう。
全社的にDXの雰囲気・文化を醸成する
DXは、社内のIT部門・情報システム部門のみが関係する話ではありません。特定の部門が単独で行うのではなく、各部署で連携を取ってDXの雰囲気や文化を醸成していくことが大切です。
まずは、デジタイゼーション(アナログで行ってきた業務をデジタル化)やデジタライゼーション(ワークフロー全体をデジタル化)などできることから始めましょう。デジタルで管理することによって、データがより活用しやすくなります。ただし、業務をデジタル化しただけで満足してしまっては、DXの目標であるビジネス変革が実現できないため、注意が必要です。
また、DX推進による既存システムの刷新は、現場サイドからの反発がある場合もあります。社内の方向性が一つに定まらないときこそ、DXを推し進めるために経営層から発信を強めることが重要です。その際、社内全部門が一丸となってDXに取り組めるような体制の整備や、DXについて考える時間を増やす仕組みづくりも合わせて行っていきましょう。
DX人材を育成する
「ITシステムを理解していた人材が退職してしまった」「ITシステムに関する業務を全てベンダー企業に任せている」などの理由から、社内でITシステムを理解できる人材が少ない企業もあるでしょう。DXは、自社の製品や内情に詳しい人が担う方が良いため、社内の人材の育成は必須だと考えておきましょう。
ITに詳しい社員に対して、スキルアップを推奨する制度・環境を用意し、プロからフィードバックを受けたり共にDXプロジェクトを推進したりすることで、短期集中的にDX人材を育てることが可能になります。
攻めのIT投資を行う
IT投資には、「攻め」と「守り」の二つがあります。日本では守りのIT投資が多くなっていますが、守りのIT投資では業務効率化や生産性の向上を目指すためだけにコストを割くことになります。
しかし、攻めのIT投資はITによる新たなビジネスを生み出すだけでなく、ビジネスモデルの変革を目指すことを目的とした動きにコストをかけるという特徴があります。今の日本のような守りの投資のままではDXの実現は難しいため、攻めのIT投資を検討する必要があります。
DX評価指標を作成する
経済産業省は、日本の企業がDXにおいて実証的な取り組みがあるものの、ビジネス変革までは至っていないと訴えています。そこで、経済産業省はDXがどの程度推進しているのかを各企業が自己判断できる「DX推進指標」を作成しました。
この評価指標を利用すれば、DX推進の現状や課題について気づくことができます。その気づきから、改善案やDX推進計画を立てるとよいでしょう。
出典:『デジタル経営改革のための評価指標(「DX推進指標」)を取りまとめました』経済産業省 2019年7月31日
まとめ
DXを推進するには、経営層が課題を明確化し、リーダーシップを発揮しなければなりません。経営層側から積極的に働きかけ、DX人材の採用や育成・研修などを行い、社内全体にDX戦略を醸成していきましょう。また、課題に直面した際は、プロなどの第3者の意見を参考にするのもおすすめです。