DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が求められている現代では、 日本のIT人材不足と基幹システムの老朽化、ビジョンや戦略の不明瞭化、予算不足、経営層のコミットが少ないことなどが問題となっています。
DXを実現するためには、これらの課題を解決しなければなりません。今回は、DXを推進する前に知っておきたい具体的な課題と、その課題に対する効果的な解決方法について解説していきます。
DXとは
DXとは、経済産業省により発行された「デジタル・ガバナンスコード3.0」によると、以下のように定義されています。
”企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。”
引用:『デジタル・ガバナンスコード3.0』経済産業省 2024年9月19日
つまり、DXとは単なるデジタル技術による業務効率化にとどまらず、あらゆる変革のきっかけとなり、新たな価値創造により競争優位性を生み出すものでなくてはなりません。
しかし、DXに取り組む中、多くの企業が課題に直面し、DX本来の目的を達成できていない現状があります。
日本におけるDXの現状
それでは最新の資料から、日本におけるDXの現状を確認していきましょう。
DXの取り組み状況
DXにより競争優位性を生み出すためには、全社的な取り組みが不可欠です。各部門が独自に取り組んでいる状況では、それぞれの業務効率化のみが主眼となり、部分最適に終始しがちになるためです。
DXにおいて、全社戦略を打ち立て推進している企業の割合を見てみましょう。
【全社戦略に基づき、全社もしくは一部の部門でDXに取り組んでいる企業の割合】
2021年度 | 2022年度 | 2023年度 |
---|---|---|
45.3% | 54.2% | 59.4% |
参考:『DX動向2024 P2図表1-1』独立行政法人 情報処理推進機構 2024年6月27日
2021年度には50%を割り込んでいましたが、2023年度には6割近くの企業が何らかの全社戦略を打ち出し、DXを推進しています。日本全体で取り組みが進んでいるものの、2022年度の米国の水準68.1%には及ばない状況です。
DXの成果状況
全社戦略に基づきDXを推進している企業の内、どれくらいが成果を実感できているかの資料が以下です。
【全社戦略に基づきDXを推進し成果が出ている企業の割合】
2021年度 | 2022年度 | 2023年度 |
---|---|---|
49.5% | 58.0% | 64.3% |
参考:『DX動向2024 P6図表1-8』独立行政法人 情報処理推進機構 2024年6月27日
経年とともにDXの成果を実感する企業は増えており、2023年度においては64.3%にものぼります。「成果が出ていない」と回答した企業の割合も大きく減少しており、全社戦略に基づいたDX推進は、何らかの成果につながっていることが分かるでしょう。
日本のDXにおける課題
レガシーシステムの刷新が進まなければ、最大12兆円もの経済損失が発生するとした「2025年の崖問題」の提唱により、多くの企業が危機感を持ち、DXに取り組み始めました。
こうした流れの中、浮き彫りになった課題を整理していきましょう。
経営の課題
DXは全社を巻き込んで長期的に取り組むべきものです。そのためには全社で同じ方向を向き、途中でぶれない強烈なコミットが必要になります。そのためには経営層が中心となって戦略やビジョン、ロードマップを策定し、現場が途中で諦めないように経営層がコミットする必要があります。
しかし、以下に挙げるような阻害要因がDX推進を阻む課題となっている現状があります。
- 経営層のDXに対する関心の低さ
- 変革に対する抵抗意識
- 消極的なデジタル投資
こうした課題は、経営層の積極的なリードがあれば、多くは克服できるものです。
ITに見識がある役員の割合が低い
DXの成果が出ていない企業は、やはりITに見識のある役員が不在、もしくは少ない傾向が見て取れます。
【ITに見識がある役員の割合(成果別)】
5割以 | 3割以上5割未満 | 3割未満 | いない | |
---|---|---|---|---|
成果が出ている | 11.5% | 8.2% | 63.9% | 16.4% |
成果が出ていない | 4.5% | 4.5% | 55.5% | 35.5% |
参考:『DX動向2024 P7図表1-11』独立行政法人 情報処理推進機構 2024年6月27日
成果が出ていない企業では約35%が、ITに見識のある役員がいないと回答しています。また、3割以上いる企業では「成果が出ていない」割合も少ないようです。
やはり、DXの推進は経営層のリーダーシップによる主導が欠かせません。役員自身が率先して、ITへの見識を高めることが急務となるでしょう。
経営層・IT部門・業務部門の連携が十分でない
経営層のリードが弱ければ、DXに対する全社的な連携は強化されません。経営層・IT部門・業務部門の連携についての調査結果が以下の表です。
【経営層・IT部門・業務部門の協調】
日本企業 | 米国企業 | |
---|---|---|
十分にできている | 5.9% | 31.9% |
まあまあできている | 31.2% | 48.2% |
どちらともいえない | 30.5% | 13.7% |
あまりできていない | 20.5% | 2.3% |
できていない | 11.3% | 3.9% |
参考:『DX白書2023 P17 図表1-15』独立行政法人情報処理推進機構 2023年3月16日
経営層・IT部門・業務部門の連携が「できている」とした企業は日本では4割にも満たない状況で、米国では8割以上と大きな隔たりがあります。
全社的な連携が進まないのは、CDO(最高デジタル責任者)が不在であることも要因の一つのようです。米国では6割以上の企業でCDOという役職が設置され、役員クラスの人材がDXの陣頭指揮を取っていることが伺えます。
対して日本は、DXの成果が出ている企業でも、CDOがいる企業は2割ほどしかありません。
参考:『DX動向2024 P7図表1-10』独立行政法人 情報処理推進機構 2024年6月27日
DX推進のための予算が確保できない
DXに関する予算が確保できないことも、大きな課題です。年度の予算内に継続してDXの予算が確保されている企業の割合は、2022年度で22.8%、2023年度でやや改善して36.5%となっていますが、依然として低い水準です。
大多数の企業は、年度ごとに申請して認可が下りたものについてのみ、予算が確保できるという状況です。DXの取り組みは継続性が不可欠であり、毎年一定の予算は必ず確保すべきでしょう。
やはり、予算確保の面でも経営層のDXに対する、さらなるコミットが求められるのです。
参考:『DX動向2024 P5図表1-6』独立行政法人 情報処理推進機構 2024年6月27日
競争優位を確立した企業にDX成功の秘訣を学ぼう!
DXを実施するにあたっては、単に既存業務の効率化をおこなうだけでなく、どのように競合優位性を確立するかという経営観点にもとづいた推進が必要です。
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人材の課題
日本企業でDXが進まない要因として、DX人材の確保が容易ではないことが挙げられます。
「DX動向2024」では、DX人材の質と量の側面から充足度を調査していますが、日本における確保状況はまだまだ厳しい状況です。
【DX人材の質・量の側面で充足していると答えた企業の割合】
量の確保 | 質の確保 | |
---|---|---|
2023年度日本企業 | 4.6% | 3.8% |
2022年度米国企業 | 73.4% | 88.3% |
米国と比較し、致命的にDX人材の確保が進んでいない現状が浮き彫りになっています。
DXを推進する人材の中でも最も不足しているのが「ビジネスアーキテクト」という人材類型です。ビジネスアーキテクトは、DXの取り組みにおいて全体像をデザインし推進する役割を担います。
高度なIT知識だけでなく、マーケットや経営に関する広範な知識が必要であり、こうした人材の育成が急務となっているのです。
参考:『DX動向2024 P31図表3-1 3-2 3-4 』独立行政法人 情報処理推進機構 2024年6月27日
システムの課題
「2025年の崖問題」の提唱により、レガシーシステムを刷新できないことによる危機感は、かなり浸透したことが伺えます。
レガシーシステムの刷新状況の経年変化を見てみましょう。
【レガシーシステムの状況】
2022年度 | 2023年度 | |
---|---|---|
レガシーシステムはない | 12.2% | 24.0% |
一部領域にのみレガシーシステムが残る | 28.2% | 34.0% |
半分程度がレガシーシステム | 19.2% | 13.8% |
ほとんどがレガシーシステム | 22.0% | 15.0% |
参考:『DX動向2024 P26図表2-15 』独立行政法人 情報処理推進機構 2024年6月27日
2023年度では半数以上の企業において、レガシーシステムの刷新の目途が立っている状況が見て取れます。しかし、割合が減ってはいるものの、レガシーシステムの刷新が、まったく進んでいない企業も一定数存在することも確かです。
レガシーシステムの刷新が進まない原因として挙げられる主な課題は、以下の通りです。
- 経営者の理解不足
- 予算や納期確保のむつかしさ
- 現システムの操作性へのこだわりが払拭できない
- 既存システムの解析が困難
- 刷新による影響度が把握できない
- 刷新に向けたリソース確保が困難
こうした課題が複雑に絡み合い、システムの刷新を阻んでいる現状があります。根気強く紐解いていき、一つひとつ課題をクリアしていかなくてはなりません。
参考:『DX動向2024 P28図表2-17 』独立行政法人 情報処理推進機構 2024年6月27日
ユーザー企業とベンダー企業の関係の課題
現在のユーザー企業と販売会社であるベンダー企業が「相互依存関係」であることも、DXを推進する能力が育たない理由の一つとDXレポートでは言及されています。日本のユーザー企業はITをコストと捉える場合が多く、ITをベンダー企業に委託しているのが現状です。結果的に社内のIT対応能力は育たず、システムはブラックボックス化します。
ベンダー企業は基本的に労働量に対してサービス料金を決めているため、労働量が下がるような生産性を向上させるインセンティブが働かず新たな能力開発や技術開発投資がなされません。これにより最新の技術に対応できない構造ができてしまっています。これを本レポートでは「低位安定」の関係だとしています。ユーザー企業とベンダー企業の関係性を変えることは、一足飛びにはいけない大きな壁があるのです。
出典: 『DXレポート2.1』経済産業省 令和3年8月31日
社内のDXスキル育成の課題
上述した通り、DX推進には社内にDXスキルを持つ人材が必要です。しかし、現在の日本はDX人材の不足が浮き彫りになっています。ユーザー企業にITで何ができるか理解できている人材がいないことから、DXに関してはベンダー企業に任せきりになるという悪循環が起こっています。特に、企業内で人材確保が難しい中小企業ほど、社内のDXスキルが一向に育たないままになっています。
「文系社員」をDX人材に導く、リスキリングの取り組みとは?
企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む中で、直面する課題の1つに「DX⼈材の不足」があります。
採用だけでなく、既存社員の育成、リスキリングに取り組む企業も少なくありません。
その中で、文系社員に対し、デジタルスキルやリテラシーをリスキリングしてもらうには、どのような取り組みをすべきなのでしょうか。
本資料では、DX推進に必要な⼈材の定義、具体的な育成プラン、リスキリングについて株式会社PeopleX 代表取締役CEO橘氏との議論の内容を紹介します。
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- DX人材育成の進め方のポイントを知りたい
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- 「文系社員」のリスキリングを検討している
DXの課題を解決するために
上述の通り、DXにはさまざまな課題があることが分かりました。では、DXの課題に対する具体的な解決策はどのようなものがあるのでしょうか。DXを推進していくためのポイントをいくつかご紹介します。
経営がDXにコミットする
DXを推進していくために、「DXでどのように新たな価値を生み出すか」「どのようなビジネスモデルを構築すべきか」について経営層が明確にビジョンを描き、ロードマップの策定と経営戦略を打ち出していく必要があります。そのため、DXのプロジェクトは、部門を横断した全社的なプロジェクトとなるでしょう。
トップが明確なDX戦略の方向性を示してリーダーシップを取れば、DXに対する社員の意思統一もスムーズになるはずです。
まずは、経営層がDXの必要性や重要性ついてより深く理解することが大切です。部下にプロジェクトを丸投げするのではなく、強いコミットメントを持って取り組んでいきましょう。
全社的にDXの雰囲気・文化を醸成する
DXは、社内のIT部門・情報システム部門のみが関係する話ではありません。特定の部門が単独で行うのではなく、各部署で連携を取ってDXの雰囲気や文化を醸成していくことが大切です。
まずは、デジタイゼーション(アナログで行ってきた業務をデジタル化)やデジタライゼーション(ワークフロー全体をデジタル化)などできることから始めましょう。デジタルで管理することによって、データがより活用しやすくなります。ただし、業務をデジタル化しただけで満足してしまっては、DXの目標であるビジネス変革が実現できないため、注意が必要です。
また、DX推進による既存システムの刷新は、現場サイドからの反発がある場合もあります。社内の方向性が一つに定まらないときこそ、DXを推し進めるために経営層から発信を強めることが重要です。その際、社内全部門が一丸となってDXに取り組めるような体制の整備や、DXについて考える時間を増やす仕組みづくりも合わせて行っていきましょう。
DX人材を育成する
「ITシステムを理解していた人材が退職してしまった」「ITシステムに関する業務を全てベンダー企業に任せている」などの理由から、社内でITシステムを理解できる人材が少ない企業もあるでしょう。DXは、自社の製品や内情に詳しい人が担う方が良いため、社内の人材の育成は必須だと考えておきましょう。
ITに詳しい社員に対して、スキルアップを推奨する制度・環境を用意し、プロからフィードバックを受けたり共にDXプロジェクトを推進したりすることで、短期集中的にDX人材を育てることが可能になります。
DX人材の育成には、アセスメント実施によるDXの素養を持つ人材の発掘と、対象者に向けた適切な教育が欠かせません。
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- DX人材を社内から選抜・育成したい
- DX人材の育成計画や要件定義をしたい
- 業務に繋がる実務スキルを習得したい
攻めのIT投資を行う
IT投資には、「攻め」と「守り」の二つがあります。日本では守りのIT投資が多くなっていますが、守りのIT投資では業務効率化や生産性の向上を目指すためだけにコストを割くことになります。
しかし、攻めのIT投資はITによる新たなビジネスを生み出すだけでなく、ビジネスモデルの変革を目指すことを目的とした動きにコストをかけるという特徴があります。今の日本のような守りの投資のままではDXの実現は難しいため、攻めのIT投資を検討する必要があります。
DX評価指標を作成する
経済産業省は、日本の企業がDXにおいて実証的な取り組みがあるものの、ビジネス変革までは至っていないと訴えています。そこで、経済産業省はDXがどの程度推進しているのかを各企業が自己判断できる「DX推進指標」を作成しました。
この評価指標を利用すれば、DX推進の現状や課題について気づくことができます。その気づきから、改善案やDX推進計画を立てるとよいでしょう。
出典:『デジタル経営改革のための評価指標(「DX推進指標」)を取りまとめました』経済産業省 2019年7月31日
まとめ
DXを推進するには、経営層が課題を明確化し、リーダーシップを発揮しなければなりません。経営層側から積極的に働きかけ、DX人材の採用や育成・研修などを行い、社内全体にDX戦略を醸成していきましょう。また、課題に直面した際は、プロなどの第3者の意見を参考にするのもおすすめです。