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Mythos級AI、中国も早期投入か =Z.ai創業者

公開日
2026.06.22
Mythos級AI、中国も早期投入か =Z.ai創業者

米国の最先端AIに迫る性能で世界の注目を集める中国のAIスタートアップ、中国Z.ai。その創業者であるJie Tang氏が、米AnthropicのMythos級モデルに匹敵する高性能AIを近く投入できるとの見方を示した。Mythos級とは、Anthropicが最上位に据えるモデル群で、その一般公開版がFable 5である。Tang氏の発言は、中国勢がこの水準に早期に到達しうることを示すものとして受け止められている。

問題はMythos級モデルが、ソフトウエアの脆弱性を短時間で見つける能力を持つと見られていることだ。こうした能力を持つAIモデルをサイバーテロ組織が手にすれば、世界中の企業、政府機関、金融機関のシステムが、これまでよりはるかに速いペースで攻撃対象になる恐れがある。

発端はXでの短い応酬

きっかけは、Elon Musk氏とのX上の短いやり取りだった。Musk氏が、中国によるFable 5級モデルの登場時期を「2027年第1四半期ごろ」と予想したのに対し、Tang氏は「そんなに時間はかからない」と応じた。Fable 5は、Mythos 5と同じ基盤モデルを使い、一般利用向けに安全策を加えたモデルと説明されている。つまりZ.aiも、安全策を追加するかどうかは別にして、同等の性能のAI米モデルを開発する能力を持とうとしているというわけだ。Tom’s Hardwareは、この返答を、2027年を待たずにFable 5級モデルが登場しうることを示したものと報じている。

これが名もないAIスタートアップの創業者の発言なら、無視してもいい話だ。しかしZ.aiが開発した最新モデルは今、世界中のAIコミュニティで話題になるほどの高性能を誇る。それゆえに、AI業界関係者の間で波紋が広がっている。

DeepSeekの王座を狙う北京の新興企業

Z.aiは北京を拠点とする中国のAI企業で、旧称をZhipu AIという。米Tom’s Hardwareによれば、中国を代表するAIスタートアップの一社であり、Tang氏は同じ中国のDeepSeekから「中国の王座」を奪うことを狙ってきた。今回の強気な発言も、その延長線上にある。

自信の裏付けとなっているのが、6月16日に公開した最新モデルGLM-5.2だ。Z.ai自身のベンチマークでは、GLM-5.2はAnthropicのOpus 4.7〜4.8とほぼ同等の性能を示し、米OpenAIのGPT-5.5や米GoogleのGemini 3.1 Proを上回ったとされる。ただしこれは同社の自己申告値であり、第三者の評価とは切り分けて見る必要がある。

独立評価でもオープンウェイト首位

その第三者評価でも、GLM-5.2は高い評価を得ている。AIモデルの性能を独立して評価するArtificial Analysisは6月17日、GLM-5.2を自社の知能指数(Intelligence Index)でオープンウェイトモデルの首位と位置づけた。スコアは51で、同じ中国勢のMiniMax-M3(44)やDeepSeek V4 Pro(44)、Kimi K2.6(43)を上回った。オープンウェイトとは、モデルの中身である重みが公開され、企業が自社環境で動かしたり用途に合わせて調整したりしやすいモデルを指す。長い作業をこなす能力でも目立つ。実務に近いエージェント型タスクを測る指標GDPval-AA v2で、GLM-5.2は1524点を記録し、MiniMax-M3(1418点)やDeepSeek V4 Pro(1328点)を引き離したうえ、GPT-5.5(1514点)とほぼ並んだ。規模と価格も競争力の源だ。総パラメータ7440億のうち推論時に実際に使うのは400億、扱える文脈の長さは100万トークン、ライセンスは商用利用しやすいMITで、API料金は100万トークンあたり入力1.4ドル・出力4.4ドルと低めに設定されている

もっとも、これでGLM-5.2がFable 5に並んだわけではない。Artificial Analysisの知能指数で首位に立つのはFable 5のほうであり、2位以下に5点近い差をつけている。仮にGLM-5.2が自社主張どおりOpus 4.8級だとしても、Fable 5はさらにその上にある。



産業競争と安全保障の2つの側面

この話は、2つの側面で注目されている。1つは産業競争の側面だ。Fable 5とMythos 5が米政府の輸出規制を受けて世界中で利用を停止されている間に、中国勢が安価なオープンウェイトで肉薄しているという構図だ。

もう1つは安全保障リスクの側面だ。世界中のサーバー、パソコン、スマートフォンの大半は、同じ少数のOSとブラウザ、同じオープンソース部品の上で動いている。Mythos級の攻撃能力が、安全な運用の保証なく誰かの手にも渡れば、その共通の土台が一斉に危険にさらされる。日本も例外ではない。

Anthropicは、Mythosの脆弱性発見能力と同等の能力が遠からず他のAI企業にも広がりうると見ており、関連報道では他社への波及を6〜18カ月と見積もる意見がある。そこにTang氏が「そんなに時間はかからない」と言い切ったわけだ。Tang氏の自信を単なる強気と片づけられないのは、それが当たったとき、世界の守る側に残された時間が一気に削られるからである。

著者
湯川鶴章

AI新聞 編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『生成AIで心が折れた』(2025年)、『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。