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Metaが「Spark 1.3」公開 最前線グループに並ぶ

公開日
2026.09.03
Metaが「Spark 1.3」公開 最前線グループに並ぶ

米Meta社は9月2日、大規模言語モデルの最新版「Muse Spark 1.3」を公開した。同社は発表文で、エージェント作業とコーディングの性能を高め、実務での使いやすさを重視したと説明。開発者向けにはコーディングエージェント「Muse Code」と「Meta Model API」で即日提供を始め、最上位の推論モード「max reasoning」は追加の安全性テストを終えた後に投入する。

発表内容:「長い仕事を、途中で人に聞きながらやり切る」

発表文が強調するのは、長時間にわたる作業を一つのスレッドの中で複数並行してこなす力だ。曖昧な指示には質問を返し、行き詰まれば人に助けを求め、取り返しのつかない操作の前には確認を取る。自分に「できること、できないこと」の把握が改善し、結果をでっち上げにくくなったという。安全面ではプロンプトインジェクションへの耐性を高めた。

コーディングでは、Meta社内のエンジニアによる比較で前版のMuse Spark 1.2に比べてツール呼び出しが約20%、消費トークンが約25%減った。同じ仕事をより少ない手数と費用でこなす、という改善である。

ベンチマークでは、長文脈理解のMRCR(256K〜512K)で98.5、コーディング系のDeepSWE v1.1で75.4、Terminal-Bench 2.1で88.8を記録し、比較対象の中で首位に立った(Investing.com)。発表文の比較表には米OpenAI社のGPT 5.6 Solと米Anthropic社のClaude Opus 5が並ぶ。

Meta超知能研究所(MSL)を率いるAlexandr Wang氏は米Axiosに対し、「最前線モデルと十分に競合できる」と述べ、Mark Zuckerberg氏が決算説明会で語ってきた「24時間ユーザーのために働く個人エージェント」への布石だと位置づけた。価格は前版から据え置き。開発者が自分のコードや作業をMetaのモデル改善に提供する代わりに料金を大幅に下げる「コントリビューター枠」の利用が「意味のある2桁パーセント」に達したことも明らかにした。安全性については「他社と違い作業を止める必要はまだ生じていないが、安全性とアライメントへの投資は大幅に増やした」と語っている。

今後の計画として、発表文はより大きなモデルとMuse Sparkのオープンウェイト版の公開を挙げた。

独立評価:4カ月で43から61へ

第三者の評価も追いついている。AIモデルの独立評価機関である豪Artificial Analysis社の総合指数「Intelligence Index」で、Muse Spark 1.3(xhigh)は61を記録。米xAI社のGrok 4.6、OpenAIのGPT 5.6 Solと並ぶ3位タイで、上位はAnthropicのClaude Opus 5(63)とClaude Fable 5.1(66)だけとなった(OfficeChai)。

伸び方が際立つ。4月の初代Muse Sparkは43、7月の1.1が51、8月の1.2が57、そして9月の1.3が61。5カ月で4回の更新を重ね、毎回差を詰めてきた。出力速度は毎秒235トークンで評価対象の中で2番目に速く、1タスク当たりのコストは0.55ドル。Opus 5の2.34ドル、Fable 5.1の3.69ドルに対し、1/4以下の費用で2〜5ポイント差まで迫った計算になる。

もっとも、モデル間の横並び比較にはベンチマークへの最適化が入り込む余地があり、実務での体感と一致するとは限らない。SemiAnalysis(後述)も7月に1.1を試した際、「警告を無視して直さない癖がある」として自社の利用は見送っており、指数上の同点が現場の同点を意味するわけではない。

なぜ伸びているのか:「データセンター投資」と「社員のPC操作データ」説を検証する

Metaの急伸をめぐっては、巨額のデータセンター投資と、社員のパソコン操作を記録したデータが効いているという見方が語られている。今回、主要な分析を当たった限り、この2点を最も体系的に論じているのは半導体・AIインフラ調査会社の米SemiAnalysis社である。同社は7月9日付のMSL発足1年の進捗報告で、最前線モデルに必要な3要素を「データ、人材、計算力」と定義し、Metaは「この3つすべてで世界最高水準に到達しうる唯一のハイパースケーラー/新興ラボ」であり、「AnthropicとOpenAIに追いつく最大の可能性を持つ」と結論づけた。

まず計算力。Metaは2026年の設備投資を1300億〜1450億ドルと見込む。2025年実績の722億ドルからほぼ倍増である。SemiAnalysisによれば、Metaはオハイオ州の「Prometheus」、ルイジアナ州の「Hyperion」に加え、テキサス州エルパソ、アイオワ州、インディアナ州の計5カ所で1ギガワット超の「タイタン級」クラスターを同時に建設中。同社の試算では、Metaの保有するAI計算力は2026年末までにOpenAIとAnthropicの双方を上回る。広告事業が生む潤沢なキャッシュと、Zuckerberg氏がフリーキャッシュフローのマイナスを厭わない姿勢が、これを可能にしているという。ただし計算力の一部は広告の推薦システムに回るため、MSL向けに限定しても「2026〜27年を通じてOpenAI、Anthropicと同等」という慎重な見立ても添えている。

次にデータ。発端は4月21日のロイター報道だった。Metaは米国内の社員のパソコンに「Model Capability Initiative(MCI)」と呼ぶソフトを導入し、業務アプリ上でのマウスの動き、クリック、キー入力を記録し、画面のスナップショットも随時取得する。社内メモには「全社員が日々の仕事をするだけでモデルを賢くできる場所だ」とあった。プルダウンメニューの選択やショートカット操作など、AIが人間の操作を模倣しきれていない領域を埋めるのが狙いだ。

SemiAnalysisはこれを「文字通り、今日の世界で最も価値あるデータの一つ」と評した。同社の説明では、現在のモデル改善の主戦場は強化学習(RL)であり、そこでは「現実の仕事を忠実に再現した課題」と「正解を判定する仕組み」が必要になる。専門家に一から課題を作らせると、難しさを優先した不自然な問題になりがちだが、実際の業務の画面記録を土台にすれば、課題は定義上「現実の仕事」になる。データ調達企業の各社が投資銀行や法律事務所と提携して業務記録を集めようと奔走する中、Metaは記録対象となる大規模な社内労働力を自前で持っている。これが「Scale AI出身のWang氏がいるMetaならでは」の優位だとした。

さらにMetaは5月、社員の約1割にあたる約8000人の削減と同時に「応用AIエンジニアリング組織」を新設し、新卒の7割を含む約3000人のエンジニアをRL用の課題と環境づくりに専従させた。SemiAnalysisは、データ調達大手の米Mercor社が2026年第2四半期に記録した専門家の稼働が約4800人分(週40時間換算)だったことと比べ、「Metaはすでに同じ規模にあり、平均的な質はおそらく高い」と評価する。社員の操作データは、この社内データ工場の原材料という位置づけである。

一方で、社員データ以外の経路もある。前述の「コントリビューター枠」は、外部の開発者の作業をそのまま学習データに取り込む仕組みだ。米VentureBeatはMuse Spark 1.2の発表時にこれを「アクセスを補助金で安くし、大規模にデータを収穫して、最前線との差を詰める、Metaらしいやり方」と評している

以上を踏まえると、「データセンター投資と社員のPC操作データ」という見方は、SemiAnalysisの分析とほぼ重なる。ただし同社の枠組みでは、この2つに「人材」が加わる。Scale AIへの143億ドルの出資でWang氏を迎え入れ、数億ドル規模の報酬で研究者を集めたことが第3の柱だ。また、1.3の発表を伝えた米Bloombergや米Axiosなど直近の報道は、性能差の縮小そのものを伝えるにとどまり、要因分析には踏み込んでいない。要因を2点に絞る説明は、SemiAnalysisの議論が単純化されて広まったものと見るのが妥当だろう。

SemiAnalysis自身も、成功は保証されていないと念を押している。長期の計算力売却契約で自社の利用枠を縛る、新設したRL課題作成組織を解散する、トップ研究者を流出させる。このいずれかが起きれば「MSLにとって死刑宣告に等しい」と警告した。同社は7月時点で「強気シナリオでも、OpenAIやAnthropicと並ぶのは年末」と見ていた。Muse Spark 1.3の61という数字は、その予測の線上にある。

著者
湯川鶴章

AI新聞 編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『生成AIで心が折れた』(2025年)、『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。