AIを「動かす」黒子に投資マネー殺到 米Fireworks AIは評価額300億ドル視野
学習済みのAIモデルを実際に動かし、答えを出させる処理を「推論」と呼ぶ。この推論を請け負うスタートアップに、投資家の資金が殺到している。米IT専門ニュースサイトThe Informationによると、画像・動画生成AI向け推論サービスの米Falは、評価額150億ドルでの資金調達を投資家と協議している。推論クラウド大手の米Fireworks AIも、評価額300億ドルを目標とする新たな資金調達を検討中だ。どちらも実現すれば、数カ月前の評価額からほぼ倍増となる。
同業も相次ぎ協議
The Informationによると、Falの協議はまだ初期段階で、評価額を170億〜200億ドルまで引き上げる可能性もある。春の調達時の評価額は80億ドルだった。Googleの画像生成AI「Nano Banana」など、画像や動画を生成するモデルの推論を得意とし、年換算売上高(直近の月の売上を12倍した値)は8億ドルと3月時点の2倍に増えた。
Fireworks AIは9月25日、投資会社の米Atreides Managementが主導する形で、従業員が保有する株式1億3200万ドル分の売却を完了したと発表した。評価額は7月の資金調達時と同じ175億ドルである。7月の発表時点で年換算売上高は10億ドルを超えていた。1年前の5倍にあたる。
同業他社も続く。米Axiosによると、米Basetenは評価額約260億ドルでの調達を打診されている(記事)。6月に評価額130億ドルで15億ドルを調達したばかりで、3カ月で評価額が倍になる計算だ。米Modal Labsも評価額約150億ドルでの調達を協議しており、4カ月前のラウンドの約3倍にあたると米Bloombergが報じた(記事)。
The Informationの集計では、年換算売上高はFireworks AIと米Together AIがそれぞれ10億ドル、Falが8億ドル、Basetenが6億ドル、Modalが3億ドルに達している。
高いクローズドモデルを避ける企業
The Informationは、このブームの背景にオープンモデル(設計情報が公開され、誰でも使えるAIモデル)の進化があるとみる。オープンモデルはOpenAIやAnthropicのモデルより安く使えることが多い。ただ、自前の半導体で動かすには設定が難しく、半導体不足で費用もかさむ。そこで多くの開発者が、Fireworks AIやFalのサービスを通じて手軽にモデルを呼び出している。
各社が売りにするのは安さだけではない。企業が自社データでモデルを鍛え、自前の武器として持てる点も強調する。Fireworks AIの共同創業者兼CEO、Lin Qiao氏は7月の発表で次のように語った。「AIには二つの道がある。一つは、知能を一握りの大手AI企業が握り、他の全員がそれを借りる道。もう一つは、あらゆる企業が自社の得意分野に合わせた知能を自ら築く道だ。我々は後者を目指す」(発表文)
同社は1日に40兆トークン(トークンはAIが処理する文字の単位)を処理しており、その95%超は顧客が自社データで特化させたモデルによるものだ(発表文)。Qiao氏は米CNBCに対し、同等品質のクローズドモデル(設計情報が非公開のモデル)の1/5から1/10の費用で済むと語っている(記事)。
40兆トークンという処理量は巨人に引けを取らない。CNBCによると、Googleが5月に開示した開発者向けの処理量は1日換算で27兆トークン超、OpenAIが3月に発表した開発者向けツールの処理量は1日約22兆トークンだった(記事)。時期も集計範囲も異なるが、創業4年のスタートアップ1社が、両社の開発者向け処理量を上回る計算になる。
Basetenも6月の発表で、有力なAIアプリ企業がモデル関連支出の30〜50%を、自社向けに調整したモデルに振り向けていると明かした(記事)。
死角は値下げと原価高
ただし、先行きは楽観できない。The Informationは二つのリスクを挙げる。
一つ目は、OpenAIやAnthropicが値下げ攻勢を強めていることだ。コーディング支援の米ReplitのCEO、Amjad Masad氏は9月23日、The Information主催のイベントで、OpenAIの一部モデルがかなり安くなったため、年初に比べてオープンモデルの利用は減っているだろうと語った。
二つ目は利益率だ。推論企業はクラウド事業者から計算資源を借りているが、その費用が高騰している。推論企業の粗利益率はこれまで50%前後で、一流ソフトウェア企業の70%超を下回る。各社は、モデルを半導体上で効率よく動かす工夫で利益率を改善できると主張する。Together AIは、自社データセンターでサーバーを保有して貸し出す取り組みも進めている。
価格差が続くかが分かれ目
推論企業の急成長は、企業のAI活用が「最先端モデルを借りる」段階から「安いモデルを自社向けに鍛えて使う」段階へ移りつつあることを示す。ただ、その流れを支えているのはクローズドモデルとの価格差だ。OpenAIなどの値下げでその差が縮まれば、倍々ゲームで膨らむ評価額も見直しを迫られかねない。