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次は「AIエージェント詐欺」の時代 StripeがOpenRouterを買収した本当の理由

次は「AIエージェント詐欺」の時代 StripeがOpenRouterを買収した本当の理由

オンライン決済大手の米Stripeが8月、AIモデルの仲介サービスを手がける米OpenRouterを買収することで合意した。(TechCrunch)。Stripeは発表文で、企業のAI利用コストを抑える狙いを前面に出した。だが買収の当事者たちが語る理由は違う。AIの利用枠を狙う詐欺が急増しており、やがてAIエージェント自身が詐欺を働くようになる。それを防ぐのに最もふさわしいのがStripeだというのだ。

■AIの利用枠は「盗む価値」がある

OpenRouterは、数百のAIモデルへの窓口を一本化し、依頼ごとに最適なモデルへ振り分けるサービスだ。利用料は、AIが処理するデータ量の単位であるトークンで計算される。StripeのCEO、Patrick Collison氏は発表文で、トークンを「AIを使う企業にとっての基軸通貨」と呼んだ。通貨である以上、盗もうとする者が現れる。

OpenRouter CEOのAlex Atallah氏は、9月下旬に公開された米ポッドキャスト「Latent Space」で、同社が直近の1カ月に阻止した不正の金額が、前月の10倍に達したと明かした。盗難カードによる利用や、利用枠の無断転売が後を絶たないという。

同じ番組に出演したAnjney Midha氏は、この問題に早くから直面してきた一人だ。現在は投資・研究機関の米AMP PBCを率い、OpenRouterの取締役を務める同氏は、かつてチャットサービスの米Discordで開発者向け部門を率い、画像生成AIの米Midjourneyの成長を支えた。

ある朝、Midha氏が目を覚ますと、Midjourney創業者のDavid Holz氏から3件の不在着信が入っていた。一夜で新規登録が殺到していたというのだ。喜ぶMidha氏とは裏腹に、Holz氏は逆に無料トライアルを止めたと告げた。何者かが、無料トライアルの枠を転売していたというのだ。Midjourneyはそれ以来、無料トライアルを再開していないという。Midha氏はこの一件で、トークンの価値が上がるほど、それを奪おうとする者も集まると悟ったという。

■次はエージェントが盗む

Midha氏が本当に恐れているのは、この先だ。「AIエージェントによる不正が津波のように押し寄せることに、世間はまだ気づいていない」。今は人間が手を染めている詐欺を、今後10年でエージェントが担うようになると同氏は予測する。悪意ある人間に操られるエージェントもあれば、作業中に不正な指示を仕込まれて乗っ取られるエージェントもある。しかもエージェントは人間とは比べものにならない速さで動く。

厄介なのは、それを見張れる者がいないことだ。OpenAIやAnthropicといったクローズドモデルの開発企業たちに見えるのは、自分たちが開発したAIモデルの挙動だけだ。誰でも自由にダウンロードして動かせるオープンウェイトモデルに至っては、開発元であっても、手元を離れたモデルを監視することなどできない。最近はクローズドモデルでも複数のモデルを利用する企業が一般的だし、オープンモデルも組み合わせたマルチモデル環境を構築する一般企業も増えてきている。複数のモデルを横断して、何が起こっているのかをいち早く察知できるのは、常に複数のモデルを取り扱っているOpenRouterのような企業しかない。Midha氏らが8月に公開した論考は、そう主張している。

■Stripeは「セキュリティ企業」

では、なぜStripeがOpenRouterを買収したのか。「Stripeは決済会社だと思われているが、違う」とMidha氏は言う。同氏によれば、Stripeの本質はセキュリティ企業だ。

Stripeは創業当初、審査を簡素にして誰でもすぐに決済を始められるようにし、詐欺による損失は自ら負担した。その代わりに膨大な取引データを集め、不正検知サービス「Radar」を育てた。決済の流れの真ん中に身を置き、日々の不正から学び続けてきたことが、同社の最大の強みになっている。OpenRouterを手に入れれば、AIの取引の流れでも同じことができる。自らAIモデルを作らず、どのAI企業とも競合しない中立の立場も、全体を見張る役に向いているという。OpenRouterも買収発表のブログで、不正対策でStripeに勝る企業はないと語っている。

「Stripeはルーターを買ったのではない。AIのセキュリティ資産を買ったのだ」。Midha氏らはこう結論づける。クレジットカードの不正利用防止で力をつけたStripeが、次にくるAIエージェントの不正利用の防止に乗り出した。それが今回の買収の本当の理由なのかもしれない。

著者
湯川鶴章

AI新聞 編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『生成AIで心が折れた』(2025年)、『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。