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AI時代、業務ソフトは作り直される Altman氏が語る「生きた文書」

AI時代、業務ソフトは作り直される Altman氏が語る「生きた文書」

生成AIをWordやExcel、Slackに組み込めば、AI時代の業務ソフトが完成する――。米OpenAIのCEO、Sam Altman氏は、そうは考えていないようだ。

OpenAIが2026年9月の開発者向けイベント「DevDay」で発表したのが、チームとAIが共同作業するための「ChatGPT Space」と、新しいタイプの文書「Living Pages」だ。Spaceでは、人間のメンバーだけでなく、ChatGPTや常時稼働するAIエージェント「dot」が同じ情報を共有しながら仕事を進める。Living Pagesでは、人間とAIが同じページ上で文章を書き、調査し、グラフや画像を作る。接続された外部ツールの情報に応じて、内容を自動更新することもできる。

DevDay後のインタビューで、Altman氏は、OpenAIがなぜこうした業務ソフトの領域にまで踏み込むのかを説明した。「既存のソフトウェアは、そもそもAIと人間が共同作業するようには設計されていない」。「複数の人間と、それぞれのAIが一緒に働くとなると、従来の設計ではうまくいかない」とAltman氏は言う。

文書が「完成品」ではなくなる

Altman氏が、こうした働き方を説明する際に使ったのが、「live documents(生きた文書)」という表現だ。同氏は「まだ適切な呼び名はない」と断ったうえで、この言葉を使った。

従来の文書は基本的に静的だった。誰かが文章を書き、保存し、別の人が読み、必要になれば修正する。Google DocsやNotionのような共同編集ツールでも、更新するのは基本的に人間だ。

Altman氏が語るlive documentsは違う。「人々がやり取りしたり、外の世界で何かが変わったりすると、それに応じて自動的に更新されていく文書」だと言う。例えばSlackでプロジェクトの方針が変われば、その内容が反映される。接続されたデータの数字が変われば、グラフや進捗表も更新される。担当者が文書を開き、情報を探して書き直さなくても、AIが変化を追い続ける。

OpenAIが発表したLiving Pagesでも、接続されたツールの情報を使ってページを自動更新できる。例えば、最新の作業状況を反映したToDoリストや、データソースの変化に合わせて更新される製品開発の進捗表を作れるとしている。

7人のAIから、誰も知らなかった答えが生まれる

Altman氏がさらに重視しているのが、複数のAIエージェントによる共同作業だ。

AI同士が単に情報を共有するだけではない。Altman氏は、「7人のdotが一緒に働くことで、7人それぞれの頭の中には部分的には存在していたが、誰一人として完全な形では持っていなかった新しいものを作り出せる」と話している。そして、それを「emergent thing」、つまり複数の情報が組み合わさることで生まれるもの、と表現した。

企業の中には、こうした「誰も全体像を持っていない情報」が大量にある。営業担当者は顧客との会話を知っている。開発者は製品の問題点を知っている。経営者は戦略を考えている。Slackには議論が残り、メールには取引先とのやり取りがあり、会議の議事録には決定事項が残る。

従来は、そうした情報を人間が会議で持ち寄り、誰かが整理しなければ、組織としての共通認識にはなりにくかった。これからは、それぞれの人のAIエージェントが本人の文脈を理解し、他のAIと協力できるようになる。そうなることで、組織の中に散らばっている情報を継続的に組み合わせられるようになると言う。

 

Altman氏のダッシュボードは「何を見るべきか」まで変える

「生きた文書」とは具体的にはどういうものになるのだろう。Altman氏が例として挙げたのが、自身が使っている経営ダッシュボードだ。

多くの企業には、経営者が日々確認するダッシュボードがある。売上、ユーザー数、成長率、解約率など、重要な指標を一覧できるようにしたものだ。Altman氏も以前は、他の幹部と同じダッシュボードを共有していたという。

現在は、自分専用のダッシュボードを使っている。会社の状況を要約しながら内容が変化し続けるもので、Altman氏のSlackメッセージなどを読み、同氏がその時点で何を気にしているのかを判断して、表示する情報を変える。

「自分が今、何を気にしているのか、あるいは何を気にしなくなったのか」に応じて、ダッシュボードそのものが変わるという。Altman氏によれば、6カ月前なら売上や成長、事業指標への関心が大きかった。一方、最近はAIの安全性や、AIの意図や行動を人間の価値観に合わせるアラインメント、セキュリティについて考える時間が増えているという。その変化に応じて、ダッシュボードで取り上げる指標が自動的に変化し続けるのだとしている。

 

AI機能を追加する競争から、仕事の仕組みを作り直す競争へ

生成AIの普及後、Microsoft、Googleをはじめ、多くの企業が既存の業務ソフトにAIを組み込み始めた。それは重要な第一段階だった。

しかしAltman氏が描いているのは、その先だ。必要な情報を人間が探しに行くのではなく、AIが変化を追う。文書は作成後も更新を続ける。一人のAIだけでなく、複数の社員が持つAIが共同作業し、組織の中に散らばる知識を結びつける。

そうなれば、業務ソフトの競争軸も変わる可能性がある。どの製品に最も高性能な生成AIが搭載されているかだけでなく、人間と複数のAIが、どれだけ自然に同じ仕事を進められるかが重要になる。

AIによってどの仕事がなくなるのか、という議論はこれからも続くだろう。しかし、その結論が出るより先に変わり始めているものがある。人間が仕事をするために毎日使っている「器」そのものだ。

著者
湯川鶴章

AI新聞 編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『生成AIで心が折れた』(2025年)、『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。