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トランプ氏、AI規制論は「病んだ陰謀」 中国も減速論に反発

トランプ氏、AI規制論は「病んだ陰謀」 中国も減速論に反発

トランプ米大統領は9月14日、AI開発に新たな規制の枠をはめるべきだという業界の声を「病んだ陰謀」と切り捨てた。前日にアイルランドで「AIを制した者が勝つ」と述べた時点では規制そのものを否定していなかったが、一夜明けて表現は一段と激しくなった。

「AIに必要な唯一の管理装置、いわゆるガードレールは、強く賢い(高IQの)大統領だ。米国にはそれが有り余るほどある」。トランプ氏は自身のSNSにそう投稿した。続けて「AIとデータセンターに対する病んだ陰謀が進行中で、それを喜んでいるのは中国だけだ」と書き、「陰謀論者、反逆者、情報を漏らす者は覚悟しろ」と警告した。政権はすでにAI開発大手の米AnthropicのDario Amodei最高経営責任者(CEO)らが「悪いこと、あるいは悪くなりかねないこと」をするのを止めてきたと主張し、刑事・行政上の権限はすでに十分に握っているとして追加規制を否定した。

別の投稿ではさらに踏み込んだ。AIが人類を滅ぼしかねないという懸念について「デマだ。ロシア疑惑やウクライナ疑惑、2度の弾劾騒ぎと何も変わらない」と切り捨て、Amodei氏を名指しで「完璧な天使のふりをしている」と評した。AIは金や石油をしのぐ「史上最大の経済成長エンジン」になると主張したうえで、こう問いかけている。「業界のトップが、自分たちを消滅と破産に追い込むような規制を求めた例が、商売の歴史のどこにあるというのか」

不安が高まるのは米国が他国を大きく引き離しているからだとして「金の卵を産むガチョウを殺すな」とも書いた。トランプ政権の2期目で、AI関連投資は経済成長の大きな部分を担ってきた。

JD Vance副大統領も14日、記者団に「米国人が何かを恐れる必要はないと思う」と述べた。中間選挙の遊説先へ向かう直前の発言で、政権もAIの危険は認識しているが賢く規制したいと説明したうえで、業界の動機をこう疑った。「正直に言って、これだけ多くの最先端AI企業が政府に規制してくれと頼みに来ること自体、少し妙な感じがする。何か裏があるように思える。だから慎重にならざるをえない」

Vance氏の疑念は以前からのものだ。2025年2月のパリのAIサミットでは、過剰な規制は「既存企業を不当に利する」と述べ、規制を最も強く求めるのは市場ですでに優位に立つ側だと指摘していた。安全規制を名目に、対応の体力がある大手だけが生き残り、新興企業が締め出される。それが政権側の見立てである。

市場の反応は速かった。14日の米株式市場では半導体大手の米NVIDIA株が3%超下落し、Intel、AMD、Marvellは5〜6%下げた。半導体株の指標であるフィラデルフィア半導体株指数は6%近く下がった。一方でAlphabetが約2%、Microsoftが1.6%、Metaが1.4%上昇し、データセンターに巨費を投じてきた側が逆に買われる展開となった。アジアではOpenAIに出資するソフトバンクグループ株が11%近く、半導体の韓SK Hynixが6.4%下落。欧州でも半導体製造装置の蘭ASMLが6%下げた。1年に1兆ドルを超えるとされるAIインフラ投資の前提が揺らぐという受け止めである。

中国政府も公式に反論した。外務省の郭嘉昆報道官は14日の定例会見で、AIは人類全体の幸福に関わる技術であり、各国が協力して誰も締め出さない形で発展させるべきだと述べたうえで、こう続けた。「脅威をあおり、対立と悪質な競争を持ち込むことは、世界全体でAIのルールを作る動きを妨げるだけで、誰の利益にもならない」

国営紙の環球時報は13日の論評でより露骨に踏み込んだ。Amodei氏の論考は一見すると世界のAI安全保障をめぐる理性的な主張に見えるが、実際には「中国を封じ込める条項が詰め込まれており、昔ながらの冷戦のやり口だ」と断じた。半導体と製造装置の輸出規制、モデルの無断蒸留の取り締まり、モデルの重みの流出防止という3点を並べ、技術障壁と規制の主導権によって中国のAI発展を抑え込み、ルール作りの場から中国を締め出すのが真の狙いだと主張した。国家安全部長の陳一新氏も週末、サイバー空間管理当局の機関誌に寄せた論文で輸出規制に言及している。

減速論の動機そのものを疑う声は投資家側からも出た。映画「マネー・ショート」で知られるMichael Burry氏はXで、OpenAIやAnthropicの経営陣が減速を唱えるのは安全のためではなく自社の利益のためだと批判した。大規模言語モデルは汎用人工知能にはならないので減速すべき対象など存在しない、開発を止めれば先行企業の地位が固まるだけだ、と論点を挙げたうえでこう書いた。「新規株式公開には誇大宣伝が要る。『我々はすごすぎて危険になりかねない』というのは、その誇大宣伝だ」。

規制をめぐる攻防は11月の中間選挙にも直結する。元シカゴ市長で大統領首席補佐官も務めたRahm Emanuel氏は、Amodei氏の論考を、業界自身が危険な走り方をしていると認めたに等しいと指摘したうえで、それでも動こうとしないトランプ氏の姿勢を批判した。トランプ氏は9月24日にワシントンで習近平国家主席と会談する。AIをめぐる米中の主導権争いは、そこが次の焦点となる。

参照ソース

  • AP通信「Trump dismisses new AI guardrails, says there is a ‘SICK conspiracy’ against AI and data centers」 https://www.local10.com/business/2026/09/14/trump-dismisses-new-ai-guardrails-says-there-is-a-sick-conspiracy-against-ai-and-data-centers/
  • Forbes「Trump Says Calls For AI Regulation Are A ‘Hoax’」 https://www.forbes.com/sites/conormurray/2026/09/14/trump-says-calls-for-ai-regulation-are-a-hoax-compares-it-to-russia-impeachment-scams/
  • Washington Times「J.D. Vance warns that Big Tech’s plea for federal regulation may be a ‘Trojan horse’」 https://www.washingtontimes.com/news/2026/sep/14/jd-vance-warns-big-techs-plea-federal-regulation-may-trojan-horse/
  • NBC News「China dismisses AI slowdown calls and blasts ‘fearmongering’ from U.S. tech leaders」 https://www.nbcnews.com/world/china/china-ai-slowdown-trump-amodei-altman-threat-cold-war-rcna597631
  • Fortune「Wall Street’s AI doomsday trade is here」 https://fortune.com/2026/09/14/ai-slowdown-stocks-nvidia-meta/
  • CNN「AI stocks slide after top industry CEOs call for slowdown」 https://us.cnn.com/2026/09/14/business/ai-stocks-slide-slowdown-development-amodei-altman-intl
  • The Information「Nvidia, Palantir and Booz Allen Restrict Anthropic Use Over Data Fears」 https://www.theinformation.com/articles/anthropic-data-fears-prompt-nvidia-palantir-booz-allen-restrict-model-use
  • Dario Amodei「We Must Pace the Frontier」 https://darioamodei.com/post/we-must-pace-the-frontier
著者
湯川鶴章

AI新聞 編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『生成AIで心が折れた』(2025年)、『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。