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米Meta、企業向けAIに3度目の挑戦 MongoDBの現職CEOを引き抜き

公開日
2026.09.29
米Meta、企業向けAIに3度目の挑戦 MongoDBの現職CEOを引き抜き

米Metaの創業者兼CEO、Mark Zuckerberg氏は9月28日、企業向けAI事業「Meta Enterprise Platform」を立ち上げると発表し、自身のXへの投稿で「事業の次の大きな柱」と位置づけた。責任者には、データベースソフト大手の米MongoDBでCEOを務めていたChirantan “CJ” Desai氏を迎える。巨額のAI投資を広告以外でも回収できるか、Metaの新たな挑戦が始まった。

在任1年足らずのCEOが移籍

Desai氏は企業向け事業を統括する最高責任者(Chief Enterprise Platform Officer)として、Zuckerberg氏の直属となる。MongoDBのCEOに就いたのは2025年11月で、在任は1年に満たない。それ以前はネットセキュリティ大手の米Cloudflareで製品開発を率い、業務ソフト大手の米ServiceNowには8年近く在籍して社長兼COOも務めた。Zuckerberg氏は発表文で、Desai氏の幅広い業界人脈にも期待を示している。

CNBCは関係者の話として、Desai氏がZuckerberg氏から直接、破格の条件を示され他ので、MongoDBでの報酬や退職金を捨ててまで移籍を決めたと報じた。市場の反応は大きく、Quartzによると発表当日のMongoDB株は25%下落し、Meta株も約4%下げた。MongoDBは、11年間CEOを務めたDev Ittycheria氏を暫定CEOに戻した。

1000億ドル投資の回収を迫られる

Metaが新事業を急ぐ背景には、膨らみ続けるAI投資がある。同社は今年だけでAIインフラに1000億ドル超を投じており、投資家からはその見返りを求める声が強まっている。7月にはBloombergとCNBCが、Metaは余ったデータセンターの計算能力を他社に売る計画だと報じていた(SiliconANGLE)。

消費者向けMuseの勢いを企業へ

Zuckerberg氏は新事業の強みとして、先進的なAIモデル、先行するエージェント、大規模なインフラ、多くの企業と長年取り組んできた経験を挙げ、「他社がほとんど持っていない」と胸を張る。最初に売り込むのは4つの製品だ。一つ目は9月8日に消費者向けに出したAIエージェント「Muse」。二つ目はWhatsAppやInstagramで企業の顧客対応を代行し、6月から世界で提供している「Meta Business Agent」。三つ目は開発者が自社サービスにMetaのAIを組み込むための「Muse API」、四つ目はプログラムを書くAI「Muse Code」である。

Museはメール送信や旅行予約など、利用者の作業を代わりにこなす(TechCrunch)。ダウンロード数は先週までに250万を超え、公開直後の同じ期間で比べると、米AnthropicのClaudeや米xAIのGrokを上回った。米OpenAIのChatGPTの310万には及ばないものの、Metaはこの勢いを企業市場に持ち込もうとしている。

2度の撤退と信頼の壁

消費者向けの会社が企業市場で成功した例はある。米調査会社Constellation Researchは、米AmazonのAWSや米GoogleのGoogle Cloudも当初は冷ややかに見られながら、巨大なクラウド事業に育ったと指摘する。ただMetaは、企業向け社内SNS「Workplace」とVR会議サービス「Horizon Workrooms」で企業市場に挑み、いずれも撤退している(Constellation Research)。

最大の壁は信頼だ。米投資銀行Oppenheimerが米国の消費者1500人に尋ねた調査では、パスワードを預けてもよい相手にMetaを挙げた人はわずか8%。OpenAIの16%、米Appleの23%、Googleの30%を大きく下回った。

Desai氏が発表文で「Museと同じく、セキュリティとプライバシーは最初から組み込んでいる」とわざわざ強調したのも、この弱点を意識してのことだろう。Metaは年内に、利用者のデータをMeta自身も見ることができないようにする機能を導入する。また約束通りに守られているかを、利用者が自分で確かめられる仕組みも用意する計画だ(SiliconANGLE)。(SiliconANGLE)。

広告主と開発部門、買い手が違う

もう一つの難題は、誰に売るかだ。プログラム作成を支援するAIでは、AnthropicのClaude CodeやOpenAIのCodexがすでに企業の開発現場に根付いている。Googleや米Microsoftは、同じ企業にオフィスソフトやクラウドを長年売ってきた。

英テック系メディアのSQ Magazineは、Metaの最大の強みは企業が顧客とやり取りするメッセージアプリの中に自社のエージェントを置ける点だとしたうえで、Desai氏が発表文で挙げた数百万の広告主と、コーディングツールを選ぶ開発部門は別の買い手だと指摘する。両者を一つの営業組織で攻略するのは簡単ではない。

今回の発表には、価格も提供開始時期も盛り込まれていない(SQ Magazine)。上場企業の現職CEOを引き抜いた人事の重さに比べ、売る製品の輪郭はまだぼやけている。消費者の間で生まれたMuseの人気を、慎重な企業の購買判断にどう結びつけるのか。Desai氏はまず、その道筋を示さなければならない。

著者
湯川鶴章

AI新聞 編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『生成AIで心が折れた』(2025年)、『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。