チャットから個人秘書へ OpenAI「Dots」とMeta「Muse」が変えるAIの画面
米OpenAIは9月29日、開発者会議DevDayで、ChatGPT上で常時稼働するAIエージェント「Dots」を発表した。米Metaが9月8日に投入した個人向けエージェント「Muse」に続く動きだ。どちらも質問に答えるだけのチャットボットではなく、目標を預かると裏で働き続け、必要なときだけ利用者に声をかけてくる。この変化が、AIアプリの画面のつくりを変え始めている。
頼まれる前に知らせてくる
MetaでMuseの製品責任者を務めるMona Sarantakos氏は、Museの設計を解説したブログで、この変化を象徴する体験を明かしている。
同氏が子どもの新学期の準備をMuseに任せていたときのことだ。学校から届く大量のメールの中に、息子が受けるスポーツチームの入団テストの連絡が埋もれており、申込期限は12時間後に迫っていた。Museは同氏が飛行機に乗る直前にそれを知らせ、連絡を受けた夫が期限の4時間前に書類を提出した。
Dotsも同様だ。利用者が使っていない間も、連携したアプリに目を通して手伝えることを探し、作業の進み具合や利用者の判断が必要な事柄を自分から連絡してくる。従来のチャット画面は、利用者が尋ね、AIが答えるという順番を前提にしていた。AIの側から連絡が来る使い方は想定していなかった。
一問一答をやめた画面
同氏のブログからは、こうした変化が画面の細部にどう表れたかがよくわかる。
Museは、話題ごとに会話を分けるのではなく、友人とのメッセージのやり取りのような一本の長い会話を基本にした。利用者はMuseの返事を待たずに割り込んだり、複数の仕事を立て続けに頼んだりできる。ただ、試験運用では話題ごとに分けたいという声も出たため、別枠の「サイドチャット」を後から加えた。
AIの側から話しかけるとなれば、どんなときに話しかけるかを決めておく必要がある。Metaは「本当に役に立ち、相手の手を止めさせてでも伝える価値があるときだけ送る」という高い基準を設けた。順番に関係なくメッセージが届き、利用者も続けざまに送るようになると、一続きの文字の塊では読みにくい。そこで、話のまとまりごとに吹き出しで区切る表示にしたという。
利用者が自分のMuseに名前を付け、アバター(分身となるキャラクター画像)を作れるようにしたのも、長い会話を前提にした結果だ。話し続けるうちに、企業のロゴを相手に話しているのが不自然に感じられたからだという。同氏は自分のMuseに、サンスクリット語で叡智を意味する「Veda」と名付けた。
Dotsも、最初に利用者が名前を付けるところから使い始める。両社は、エージェントを利用者がふだん使う連絡手段の中に置いた点でも共通する。Museはメッセージアプリ「WhatsApp」から話しかけられる。DotはChatGPTに加え、職場で使われるチャットツールのSlackやMicrosoft Teamsからも呼び出せ、音声通話にも応じる。どの窓口から話しかけても、Dotはそれまでのやり取りを踏まえて応じる。
ChatGPTには使える回数の上限があるが、Dotsとの会話はこれに数えない。OpenAIは将来、Dotごとに作業の速さや月あたりの作業量を増やせるようにする計画だ。会話は窓口として自由に使わせ、Dotが担う仕事の量で差をつける考え方とみられる。
見えない作業をどう見せるか
利用者の見ていないところで進む作業には、何をしているのかわからないという不安がつきまとう。Sarantakos氏は「見えないものは信頼できない」として、作業の様子が画面から見えるよう工夫を重ねたと説明する。Museでは、アバターの下に作業中の内容が短く表示される。アバターをタップすれば、作業履歴のすべてと、利用者が与えた権限の一覧が見られる。Museが覚えた利用者に関する情報も、利用者自身が読んだり書き換えたりできる。長期にわたる仕事を複数任せる使い方が増えたことから、Metaは、Museが追いかけている目標と、その達成計画を一覧できる「Goal」タブも設けた。
ただし、すべてを会話で済ませるわけではない。決済などの承認は、承諾と拒否のボタンが付いた決まった形式のカードで求める。もっとも、何にでも確認を求めると、利用者は中身を見ずに承認ボタンを押すようになる。そこで初期設定では、通常のウェブ閲覧はMuseに任せ、取り消しの難しい操作の前でだけ利用者に確認する。
Dotは、それぞれがクラウド上に専用のコンピューターを持ち、利用者はいつでもそれを開いて作業ぶりを確かめられる。利用者の不在中に進んだ作業も、「Activity View」という画面でたどれる。どの操作を任せ、どれに承認を求め、どれを禁じるかも、利用者が自分で決められる。
長文の返事から、目的に合った画面へ
返答の形も変わる。Sarantakos氏は「旅行の計画を人に頼むとき、欲しいのは長文の返事ではなく旅程表だろう」と書く。Museは旅程表や、支出の推移が一目でわかる画面など、目的に合わせて操作できる資料や画面を作り、チャットの外でも使えるようにした。同氏は、利用者は今後、文章で返ってくる答えよりも、自分のために作られた画面を求めるようになるとみている。
試験運用では、できることが多すぎて、利用者が何から頼めばいいのかわからないという予想外の問題も見つかった。そこでMetaは、利用者の目標や習慣をもとにMuse自身が手伝えることを考え、「Ideas」タブなどで提案する仕組みを加えた。
新しい画面への手応え
こうした設計は、利用者に受け入れられているようだ。米IT系ニュースサイトのTechCrunchは、Museが洗練された設計とAIの性能の高さで評価を集めていると報じた。調査会社の米Sensor Towerの推計では、Museのダウンロード数は9月24日時点で340万を超えた。公開から10日間は前日比で平均55%ずつ増え、ChatGPTが公開直後の10日間に記録した24%を大きく上回った。9月18日には米国のApp Storeで首位に立ち、その後も首位を保っている。
入力欄から、通知と承認へ
画面の主役は、質問を打ち込む入力欄から、AIからの知らせ、承認のボタン、作業の履歴へと移り始めた。チャットはなくならないが、その役割は質問と回答の場から、報告と相談に来る秘書との連絡窓口に近づいている。
主なソース
OpenAI発表文「Introducing dots」 https://openai.com/index/introducing-dots/
Meta発表文「Introducing Muse」 https://about.fb.com/news/2026/09/introducing-muse-personal-ai-agent/
Muse設計解説「How We Designed Muse」 https://introducing.muse.ai
TechCrunch https://techcrunch.com/2026/09/25/meta-is-putting-its-muscle-behind-muse-as-the-ai-app-takes-off/
Sarantakos氏の肩書き(36Kr) https://eu.36kr.com/en/p/3975505284116737