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AI業界の次の主戦場「パーソナルAI」 消費者との接点を誰が握るか

AI業界の次の主戦場「パーソナルAI」 消費者との接点を誰が握るか

「今、パーソナルエージェントの時代に入ろうとしている」。米OpenAIの共同創業者で社長のGreg Brockman氏はこう語る。その言葉どおり、8月から9月にかけてのわずか7週間に、Elon Musk氏が率いる米SpaceXAI、米Meta、そしてOpenAIの3社が、利用者に代わって仕事をこなすAIを相次いで投入した。対話するAIの性能競争に続き、パーソナルAIの争奪戦がAI業界の次の主戦場になりつつある。

チャットからコーディング、そして個人のAIへ

Brockman氏によると、AIの能力が一段上がるたびに、それに合った新しい使い方の形が生まれてきた。

2022年以降は、AIの回答が読むに値する水準に達し、ChatGPTのようなチャットが最適な形になった。2025年末からは、AIが担えるソフトウェア開発の割合が2割程度から8割程度に高まり、質問に答えるチャットではなく、仕事を丸ごと任せるコーディングエージェントが必要になった。

そして次に来るのが、クラウド上で常に動き、個人の情報や仕事の文脈とつながって、その人のために働くパーソナルエージェントだ。

生活のMuse、仕事のdots、チームのGrok Bot

3社の製品に共通するのは、クラウド上に専用のコンピューターを持ち、24時間働き続け、メールの送信や買い物など重要な操作の前にだけ本人の承認を求める点だ。そのうえで、狙う利用者ははっきり分かれている。

最も勢いがあるのは、Metaが9月8日に公開したMuseだ。メールの整理や飲食店の予約、家計の管理、買い物まで、頼めば代わりにこなす。米調査会社Sensor Towerによると、ダウンロード数は公開から22日で500万回を超えた。この速さで500万回に達したアプリは、歴史上23個しかない。週間利用者も300万人を超えたと米ニュースサイトThe Informationは報じている。基本機能は無料だが、提供は米国とカナダに限られ、日本ではまだ使えない。

OpenAIが9月29日に始めたdotsは、仕事の相棒に近い。最大の特徴は、頼まれる前に動くことだ。利用者が使っていない間も、接続済みのアプリを読み取り専用の権限で調べ、手伝えることを探す。OpenAIによると、ある試用者のdotは雑誌社への請求書の出し忘れに気づき、請求書を作って本人の承認後に送った。料金は月100ドルからの上位プランに1体目が含まれ、欧州などを除く地域が対象のため日本でも使える。OpenAIのSam Altman CEOは「dotはこれまでのOpenAI製品で一番好きだ」と語る。毎日、仕事の進め方や文章の癖を覚えて目に見えて賢くなり、片付かないまま気がかりとして積み上がっていた仕事が消えたという。

SpaceXAIが8月11日に公開したGrok Botは、チームで働く設計が際立つ。同社内では、首席補佐官役のBotが、メール処理や経費、採用などを受け持つ専門のBotを束ねている。外部のソフトと連携する仕組みを用意していないサービスでも、人と同じようにログインして操作できる。ある社員は、8本の腕を持つタコになった気分で、どの腕もほかと息を合わせ、自分と同じやり方で仕事をこなすと表現する。

大手では米Googleも5月19日にGemini Sparkを発表した。クラウド上の専用コンピューターで24時間動く個人エージェントで、Google CEOのSundar Pichai氏は「デジタル生活を切り盛りする手助けをし、利用者の指示の下で代わりに行動する」と説明する。ただし独立したアプリはなく、Geminiアプリの機能の一つという位置づけだ。このためあまり話題になっていない。一方の米Anthropicは、常時動くエージェント「Conway」をテストしていると報じられたが、まだ発表していない。

争奪戦は端末へ

争奪戦はスマホの画面の外にも広がり始めた。Metaは9月23日の年次イベントで、Muse専用の小型端末Muse Charmを披露した。手のひらに収まる大きさで、約2インチの画面と前後のカメラ、自前の5G回線を備え、スマホを開かずにMuseと話せる。12月の年末商戦に合わせて発売する予定だと言う。

OpenAIも、元Apple最高デザイン責任者のJony Ive氏が設計に関わる初の端末を年内に発表し、2027年に出荷する計画だとBloombergは報じた。画面のない持ち運び型のスピーカーで、話しかけると本体の一部が動いて反応する。Bloombergによると、OpenAIはこの端末を、日常生活を助け、時間とともに利用者に合わせて変わっていくAIコンピューターと位置づけている。dotsの売り文句とほぼ同じで、OpenAIは明かしていないものの、dotsが載るとの見方が出るのも自然だ。

無料と手数料か、定額でどこでもか

MetaとOpenAIは、稼ぎ方でも対照的だ。Metaはユーザーに対しては無料で提供し、代わりに店舗やサービス提供会社から取引当たりのわずかな手数料を取る計画。これまで収益のほぼすべてを広告で稼いできたMetaだが、Museでは広告を入れず、買い物や予約の仲介役として稼ぐ道を選んだ。

一方のOpenAIは、定額制で囲い込む。9月29日の開発者会議では、ChatGPTの有料プランの利用枠を、業務アプリの米Notionなど16の提携サービスでも使えるようにした。月額料金を払えば、どの提携サービス上でもOpenAIのAIを使える仕組みだ。dotは使えば使うほどユーザーのことをよく理解するようになる上に、各種サービス上でも使えるようになれば、ユーザーはAI秘書としてdotを手放せなくなるわけだ。

iPhoneが売れてもAppleは負ける!?

この争奪戦で最も多くを失いかねないのが、米Appleだ。米銀大手Bank of America傘下のBofA証券のアナリスト、Wamsi Mohan氏は9月29日のリポートで、AppleはiPhoneの販売台数が減らなくても、消費者との接点を失いかねないと警告した。ユーザーは、エージェントが選んだ店で商品を買うようになる。これまで検索エンジンやOS、アプリストアが担っていた消費者との接点がパーソナルエージェントに移ることになるとMohan氏は言う。

Appleも手をこまぬいているわけではない。9月14日には、Googleの生成AI「Gemini」をもとに独自に調整したモデルで作り直したSiriを投入した。だがMohan氏によると、Siriには裏で動き続ける機能も、外部アプリを幅広く操作する機能も、エージェント専用の決済の仕組みも、Museほどの完成度では備わっていないと言う。またソフトを年1回のペースで更新するAppleに対し、エージェントは毎日のように進化する。今のSiriはMuseなどのエージェントに見劣りする、というのがMohan氏の見立てだ。

エージェントに対する姿勢は、店舗やサービス事業者によって異なる。電子商取引基盤大手の加Shopifyは全商品の情報と決済機能をMuseに開放し、旅行予約大手の米Expedia、決済大手の米PayPalも加わった。エージェントを歓迎するという姿勢だ。一方、米Amazonは、他社の自動化ツールによる買い物を規約で禁じているとして、Museを自社サイトから締め出した。

消費者との接点がエージェントに移行すると考える事業者はいち早くエージェントを受け入れ、接点を奪われたくないと考える事業者はエージェントを拒否する。果たしてエージェントと事業者の関係がどういう形で決着するのか。その形が見えるまで、まだしばらくは時間がかかりそうだ。

一方、パーソナルエージェントの可能性を最大限に生かそうと思えば、できるだけ多くの自分のデータをエージェントに提供するしかない。自分のことを知れば知るほど、エージェントは賢い判断をしてくれるようになる。しかしどの程度、エージェントを信頼していいのか。また自分のことをよく知るエージェントは一体で十分だ。複数のエージェントに自分の情報を持たせれば、それだけリスクが大きくなるからだ。

 

エージェント提供側から見れば、ユーザーを囲い込めることになる。一度囲い込んだユーザーは、別のエージェントに簡単に乗り換えられない。パーソナルエージェントの時代が始まった今こそが、勝負の分かれ目なのかも知れない。