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AIエージェントに「通行証」を 35社が共通規格「Poppy」の設計に参加

AIエージェントに「通行証」を 35社が共通規格「Poppy」の設計に参加

顧客対応AIエージェントの米Sierraは10月9日、消費者が使うAIエージェントと企業とのやり取りを定める共通規格「Personal Agent Protocol」の草案を公開した。愛称は「Poppy」。あわせて米Visa、米Mastercard、米OpenAIなど35社が新たに設計パートナーに加わったと発表した。エージェントが自分の身元を名乗り、利用者が認めた範囲でだけ企業のサービスを使う。その手順を業界共通のルールにする試みだ。米Amazonが米MetaのAIエージェントを自社サイトから締め出した一件とは逆に、ルールを決めて迎え入れる道を示す。

発表から3日で35社が合流

SierraがMetaと共同で規格を発表したのは10月6日。米小売大手Walmart、決済の米Stripe、EC基盤の加Shopifyなどが当初から参加していた。発表時には草案を「今月中」に公開するとしていたが、3日後には公開にこぎ着けた。Sierra共同創業者でCEOのBret Taylor氏(OpenAI会長)と、同じく共同創業者のClay Bavor氏は連名のブログで、反響は「圧倒的だった」と書いている。

新たに加わった35社は、決済のVisa、Mastercard、PayPal、銀行のBank of America、Wells Fargo、保険のGEICO、航空のUnited Airlines、小売のTargetなど、消費者と日々取引する大手が中心だ。セキュリティのCloudflare、ID管理のOkta、パスワード管理の1Passwordといった認証分野の企業も入った。35社は今後、草案の設計に加わり、それぞれの業界の立場から意見を出す。

「締め出すか、なりすますか」の二択

規格の公式サイトによると、いまは企業がエージェントを締め出すか、エージェントが利用者本人としてログインし、本人にできることを何でもできてしまうか、のどちらかしかない。企業はエージェントを見破ろうとし、エージェントは見破られまいとする。サイトはこの状態を「誰のためにもならず、長続きするとは思えない」と書く。

Poppyは、この両極端の間に段階をつくる。公式サイトが示すホテルの例では、空室の検索はどのエージェントにも認め、予約内容の閲覧は利用者のログイン後に限り、予約の確定には利用者の承認を求める、といった線引きを企業が決められる。

企業は自社サイトの決まった場所に設定ファイルを1つ置き、ログインの方法や利用できるAPI、自社のAIエージェントの窓口をエージェントに知らせる。訪れたエージェントは、自分がエージェントであることと、誰の代理であるかを名乗る。利用者のアカウントが必要な作業では、利用者本人が企業のページでログインし、エージェントに閲覧だけを許すか、変更まで許すかを選ぶ。Taylor氏は米CNBCの取材で、GoogleやFacebookのアカウントで別のサイトにログインする仕組みになぞらえた。

6日のイベントでは、住宅ローン大手の米Rocket Companiesで製品担当副社長を務めるAlex McGillis氏が実演した。MetaのAIエージェント「Muse」に住宅ローンの事前審査を頼むと、MuseはRocketのサイトでPoppyを通じて同社のAIエージェントを見つけ、McGillis氏に接続の許可を求めた。同氏がログインして信用情報と収入を共有すると、二つのエージェントが物件価格や頭金、金利を詰め、ほどなく事前承認の書類ができあがった。

Amazonが突きつけた条件

MetaがMuseを米国で公開したのは9月8日。アプリストアの無料ランキングで首位に立ったが、12日後の9月20日、Amazonは自社サイトでのMuseによる買い物を遮断した。米メディアの報道によると、Amazonは理由として、Metaから事前の連絡がなかったこと、Museがエージェントであることを名乗らずに閲覧していたこと、顧客のログイン情報を取得・保存しているように見えたことを挙げた。Metaは、Museがパスワードや支払い情報を見られない設計になっていると説明している。

Amazonの広報担当者は、顧客に代わって買い物をする外部アプリについて「正体を隠さずに動き、参加するかどうかを決める事業者の判断を尊重すべきだ」と述べた。

正体を明かすこと。参加するかどうかを企業が決められること。Amazonが求めたこの二つは、Poppyの設計にそのまま組み込まれている。一方のMetaは規格発表に合わせて公開した文書で「個人のエージェントを追い返すのは、その背後にいる顧客を追い返すのと同じだ」と書き、締め出しに動く企業をけん制した。

カード2社も合流したが、Amazonはまだ不在

VisaとMastercardは、それぞれ自前の仕組みをすでに持っている。Visaは2025年10月から、正規のAIエージェントと悪質なボットを見分ける独自規格「Trusted Agent Protocol」を推進してきた。Mastercardも2025年4月、AIエージェントによる支払いの仕組み「Agent Pay」を立ち上げた。それでも両社はPoppyに加わった。草案に決済の機能はまだないが、Sierraはカード番号を渡さずにエージェントが購入を完了できる「決済拡張」を今後の候補に挙げている。カード2社は、その仕様づくりに最初から加われる立場を得たことになる。

ただ、Poppyの参加企業にAmazonの名前はない。米GoogleとAnthropicも加わっていない。Sierraは草案を「出発点」と位置づけ、今後1カ月で設計の検討会を開き、開発者が参考にできる実装例も公開する。Poppyが業界標準になれるかどうかは、いま扉を閉ざしている側を引き込めるかにかかっている

著者
湯川鶴章

AI新聞 編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『生成AIで心が折れた』(2025年)、『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。