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AI大手がスマホ参入検討か Qualcommに「1000億パラメーター常時稼働」要請

AI大手がスマホ参入検討か Qualcommに「1000億パラメーター常時稼働」要請

クラウド上で作業を代行するパーソナルAIエージェントの利用が広がれば、スマホの出番は減るのではないか。テックジャーナリストのAlex Heath氏が投げかけたこの問いに、半導体大手の米QualcommでCEOを務めるCristiano Amon氏は「社名は明かせないが」と前置きして反論した。AIの最前線にいる企業の一部から、2028年までに少なくとも1000億パラメーターのAIモデルをスマホで動かせるようにし、しかもほぼ常時稼働させたいと求められているという。

やり取りは、Heath氏のポッドキャスト「Sources」で10月8日に公開された。収録は、Qualcommが9月にハワイで開いた年次イベント「Snapdragon Summit」の会場。Heath氏が念頭に置いたのは、米Metaの「Muse」のように、クラウド上でブラウザを動かして利用者の代わりに作業するパーソナルAIエージェントだった。

「まだまだ出てくる」

聞き返したHeath氏に、Amon氏は「AI企業がスマホを手がけ始めている」と応じた。例に挙げたのは、TikTokを運営する中ByteDanceのAIを載せ、スマホメーカーのNubiaが製造する「Doubao(豆包)スマホ」。さらに「まだまだ出てくる」と2度繰り返した。

パラメーター数はAIモデルの規模を示す目安で、大きいほど賢くなりやすい半面、計算量も消費電力も膨らむ。Qualcommが9月22日に発表した最上位チップ「Snapdragon 8 Elite Extreme Gen 6」でも、端末上で動かせるのは300億パラメーターのモデルまで。しかも質問に応じてモデルの一部だけを使う方式のため、一度に動くのは約30億パラメーター分にとどまる。

AI企業の要望は、その3倍を超える規模のモデルを常時動かすことだ。Amon氏は9月、CNBCのインタビューで、利用者が操作していない間もスマホが働き続け、なおかつ電池が丸1日もつチップを設計しなければならないと語っている。

メモリーも壁になる。大きなモデルほど多くのメモリーを必要とするが、Amon氏によると、メモリーの価格は以前から比べて5〜6倍に跳ね上がり、スマホ市場は今年2割縮小した。

中国ではAI企業が既にスマホ開発

AI企業のスマホづくりは中国が先行している。ByteDanceとNubiaは2025年12月、初代のDoubaoスマホを約3万台限定の試験機として売り出し、すぐに完売させた。9月16日には2代目の「NaviX Ultra」を発売した。価格は補助金適用後で5499元(約820ドル)から。

中国AIスタートアップStepFunは7月、自社ハードブランド「STEPX」の第1弾「STEPX Neo」を披露した。エージェント向けに独自のOSを用意し、端末内で動く自社モデルも載せる。価格や発売時期、主要な仕様は明らかにしていない。

なぜスマホなのか。Amon氏によると、エージェントが本人に代わって動くには予定や連絡先、位置情報、行動の履歴といった個人の情報が欠かせず、それはスマホの中にしかない。という。

ところが、スマホのOSもアプリの多くも他社が握っている。Kuo氏は、OSとハードの両方を押さえなければ、OpenAIは包括的なエージェントサービスを提供できないと分析する。

中国ではAI企業が実際に壁にぶつかった。初代のDoubaoスマホは、エージェントがアプリを操作しようとして、WeChatやAlipayなど巨大アプリ側の制限を受けた。2代目の発売時点でも、エージェントからの操作を受け付ける窓口を開いた外部アプリは3つにとどまる。加えて、中国の大手スマホメーカーはそろって自社の大規模言語モデルを持つ。AI専業企業は、自分自身がスマホメーカーにならざるをえない状況だ。

 

米国で業界勢力図は塗り変わるのか


一方、米OpenAIはスマホに代わるAI時代のデバイスを開発中とされるが、その具体的形状や発売時期は明らかになっていない。香港に拠点を置くTF International Securities(天風国際証券)のアナリストMing-Chi Kuo氏は5月、OpenAIがAIエージェントスマホの開発を急いでおり、早ければ2027年前半に量産に入ると指摘している。2027年末に見込む株式上場に向けた材料づくりも背景にあるとみる。チップは半導体設計大手の台湾MediaTekが単独で供給する見通しで、2027〜28年の出荷は合計約3000万台に達する可能性があるという。形状がスマホになるのかどうかは分からないが、米Appleは7月、OpenAIがハード開発のために営業秘密を盗んだとして提訴し、元Apple社員400人以上がOpenAIで働いていると主張。スマホのようなデバイスを開発していることだけは間違いなさそうだ。

これまでのスマホ時代は、スマホOSを握るAppleとGoogleが圧倒的な影響力を持った。今、パーソナルAIエージェント時代という新しい時代が始まろうとしている。しかも今のスマホは、巨大なAIモデルを常に動かす前提で作られていない。それなら新たなデバイスを開発しよう。AI大手がそう考えるのは、ある意味自然なことなのかもしれない。

そのデバイスがスマホになるのか、全く新しい形状のデバイスになるのかは分からない。スマホと連動する周辺デバイスになるのか、スマホに取って代わるデバイスになるのかも分からない。1つ確かなのは、スマホのOSを握る者が業界を支配してきた構図が、今大きく揺らぎ始めるかもしれないということだ。

著者
湯川鶴章

AI新聞 編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『生成AIで心が折れた』(2025年)、『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。