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【イベントレポート】AIネイティブ企業が求めるホワイトカラー 〜「問いを立てる力」は市場価値になるか〜(生成AIサミット(GenAI/SUM)2026)

【イベントレポート】AIネイティブ企業が求めるホワイトカラー 〜「問いを立てる力」は市場価値になるか〜(生成AIサミット(GenAI/SUM)2026)

AIの進化が激しい時代に、人間に求められる能力は何に移るのか。

2026年10月7日、日本経済新聞社主催の「生成AIサミット(GenAI/SUM)2026」で、この問いに向き合うパネルセッション「AIネイティブ企業が求めるホワイトカラー 〜『問いを立てる力』は市場価値になるか」が開かれました。

登壇したのは、京都大学大学院法学研究科 特任教授/東京大学大学院法学政治学研究科 客員教授の羽深 宏樹氏、LINEヤフー 執行役員 経営戦略ドメインリードの米田 吉宏氏、三井住友フィナンシャルグループ(以下三井住友FG)執行役員 グループ副CDIOの白石 直樹氏、そして、エクサウィザーズ グループ執行役員 AIプラットフォーム事業本部長 羽間 康至の4名が登壇しました。モデレーターは日本経済新聞社の村山 恵一氏が務めました。

資料作成や分析はAIに委ね、問いを立てて目的を設計し、多様な人材とAIを組み合わせて価値を創る力が競争力になる。この仮説のもと、先進企業の実践をもとに、次世代のホワイトカラー像とリーダーシップのあり方が議論されました。会場には立ち見が出るほど多くの来場者が集まり、熱を帯びた議論が交わされました。

左から、モデレーターを務めた 村山氏(日本経済新聞社)、羽深氏(京都大学大学院法学研究科特任教授)、羽間(エクサウィザーズ)、米田氏(LINEヤフー)、白石氏(三井住友FG)

1. オープニング・登壇者紹介

生成AIの登場から数年。AIは日々進化を続け、「人間はどこで価値を出すのか」という問いが繰り返し投げかけられてきました。明確な正解がある問いではありません。本セッションは、その答えを探るため、各社の実践から見えてきたことを持ち寄る場となりました。

議論は、働き方にとどまりません。誰が何を決め、責任はどこにあるのか。人材をどう育て、どう評価するのか。会社という組織の姿そのものが問われます。幕開けとなった自己紹介で、4名はそれぞれの立場で議論の軸を示しました。

モデレータ 村上氏(左)と羽深氏(右)

▪️ 人間の役割は4点:白石氏(三井住友FG)
AIは課題を解くことが非常に得意ですので、いかに問いを設定するかが大切です。AIは問いに対してそれらしい案を数多く出してくれますが、本当に筋の良い解決策とは、関係者の感情を揺さぶる『物語』だと考えています。AIはすぐに答えを出してくれますが、答えを出さずに保留する、あるいは決める際には、人間が責任を負わなければなりません。そして、目的を見失うことは、特にAIを使う場面で起こりやすいため、注意が必要です。

▪️ AIの進化とは「限界実行コストの極小化」※1:米田氏(LINEヤフー)
AIの進化とは何かというと、限界実行コストを極小化することだと思っています。コストが増えることなく、AIがほとんどの作業を代行してくれる世界になり、これまで作業だけをしていた人は、かなりAIに置き換えられている状態にあると思います。会社自体をAIネイティブに変えていくために、システムや評価制度を根本から変えていくことが、競争力の持続には非常に重要だと考えています。

▪️ お客様と自社、両面の実践から社会実装へ:羽間(エクサウィザーズ)
日本の伝統的な大企業の方々と共に、次世代の産業をどう作っていくかをテーマに、事業を展開しています。我々自身もAIを使って、組織づくり、社内用のAIエージェントやアプリケーションの構築、教育などのさまざまな試行錯誤をしていますので、お客様向けの話と社内の話、両方のお話ができればと考えています。
我々は『AIを用いた社会課題解決を通じて幸せな社会を実現する』というミッションを掲げています。労働人口が減っていく中でどう生産性を高めるのか、医療介護の従事者が減っていく中でAIを使ってどう供給体制をサポートするのか。幅広く社会実装に挑戦しています。

▪️ ブレーキは推進とセット:羽深氏(京都大学大学院教授)
自動車が走り出す前にブレーキを踏んでも、あまり意味がありません。新しいものを使えば、必ずリスクが伴います。そのリスクを、社会的に受容可能な水準まで抑え込んでいく。その意味で、必ず推進とセットの議論だと考えています。

※1 限界実行コスト:米田氏の説明では、何か追加の作業をしようとしたときに、負担なく実行できる状態のこと。このコストが小さくなるほど、AIが肩代わりできる作業の範囲が広がる。

2. テーマ1:AI時代に求められる人間の能力・スキルとは

AIが作業を担う時代に、人間の能力やスキルはどう変わるのか。作業の多くをAIが担うなかで、人間は何を担うのか。答えが瞬時に出る時代に、あえて「保留」し、「違和感」を持つことにどんな価値があるのか。そもそも「人間に何が残るのか」という問いの立て方は正しいのか。4名はそれぞれの実践をもとに答えました。

左から 羽間、米田氏、白石氏

▪️ 作業は「モジュール」化※2され、人は「インテグラルリーダー」へ:米田氏(LINEヤフー)
業務は単純にモジュールのように分解できます。モジュールごとの作業はAIが代行してくれる世界になりますが、置き換えにくいのは、モジュールを束ねて調整し、全社最適に動かしていくインテグラルリーダーの役割です。ただ承認・判断するだけの人は、AIが資料を作ってくれる世界になれば無用になってきます。そういうリーダーの育成は、我々もまだ途上です。

▪️ 意思、違和感、好奇心、そして泥臭さ:羽間(エクサウィザーズ)
意思を持つと決めること、決めること自体はAIテクノロジーとは関係ありませんが、ここは非常に大事です。この責任を自分が引き受けますという人がいないと、物事は動きません。できるだけ若い人にも、責任を負う立場を早めに経験してもらうことが大事で、やはり体で覚えるものだと思います。2つ目は、AIの成果物に対して、数字上はこうだが現場の感覚からすると何か違和感がある、と感じ取る力。3つ目は、飽くなき好奇心です。普段関わっている人とは違うタイプの方々と協働すると、全く違う視点が入ってきて、好奇心が刺激されます。
社会課題は、誰しもがまだ解決できていない難しく大きな問題です。普通に飛び込んでも解決できないものに、我々は挑んでいます。困難や変化の中で突破していくのは、人間がやっていかなければいけない部分です。

▪️ AIの答えをあえて「保留」する:白石氏(三井住友FG)
ある起業家の方は、新規ビジネスが軌道に乗るまでに300回ほどピボットしたと言っていました。AIですぐ答えにたどり着けてしまうと、真のペインポイントに気づけないリスクがあります。AIの答えは正しそうに見えるからこそ恐ろしい。そこで答えを出さずに一旦保留しておくこと、あるいは最終的に決めるところに責任を持つことの方が、人間にとって価値があると思っています。

▪️ 「何が残るか」ではなく「何ができるようになるか」:羽深氏(京都大学大学院教授)
『人間には何が残るんだ』という切り口自体が、人間の自信を喪失させてしまうのではないでしょうか。AIを使うことで、これまでやりたくてもできなかったことが実現できるようになる、という視点が大切です。
プライバシーで言えば、データをどう取り扱い、ユーザーにどう説明し、どのようなガードレールを敷くのかを、事業者が主体的にデザインしていく。これはAIにはできません。人間がメリットとリスクのバランスを取りながら、組織としての結論を出していく必要があります。

立場の異なる4名の語りから浮かび上がったのは、作業の実行はAIに委ね、人間は全体を束ねる統合力、意思と責任、違和感に基づく保留、そして「これまでできなかったことの実現」へと価値の置き場所を移していく、という共通の方向性でした。


※2 モジュール型業務:米田氏の説明では、リサーチ・コーディング・シミュレーションのように、他と切り離して実行できる独立した作業のこと。

3. テーマ2:どのように能力を磨き、評価や組織を変えていくべきか

では、そうした力はどう磨き、どう評価すればよいのか。下積みの作業がAIに置き換わるなかで、新人をどう育てるのか。AIに寄りかかって方向性を見失わないために、思考をどう鍛えるのか。議論は育成から評価制度、ルールや組織の設計へと広がりました。

羽間(左)と白石氏(右)

▪️ 現場の経験とAIによる学びを組み合わせ、プロンプトを添削する:羽間(エクサウィザーズ)
価値が出る領域は、全体を俯瞰して戦略的判断をする視点と、社外の人と会って対話し、人を動かすリアルな体験の2つです。若い人にもどんどん現場に行ってもらい、自分で説明し、交渉する経験を早く積ませることが重要です。一方、コモディティ的なスキルや学習はAIでより高速に行えます。社内でも、楽しみながらキャッチアップできる教育アプリを作って運用しています。
上司の指示をそのままプロンプトとして貼り付け、出てきたアウトプットをそのまま出してくる若手がいます。そこで我々は『プロンプトを添削する』という指導をやっています。プロンプトを見れば、その人が仕事の目的意識や背景知識をどこまで理解しているかが一目瞭然で分かります。

▪️ パワーポイントの前に、Wordで物語を書く:白石氏(三井住友FG)
新規ビジネスは、筋の良い物語になっているかが何より大切です。AIでパワーポイントの資料などを作る前に、まずWordでしっかりと文章として物語を説明しなさい、とお願いしています。プロンプトを入力する前に、まず自分の頭で考え抜く。そういう順番と意識を持って仕事をするよう伝えています。

▪️ 評価は「量」から「減らした作業」と「引き受けた責任」へ:米田氏(LINEヤフー)
『業務量を多くこなしている人』を評価する構造からは、完全に脱却しなければならないと思っています。むしろ、どれだけ作業・業務を減らせたか、そしてより広い範囲で判断と責任を負えたかを評価する形にシフトすべきです。個人の作業自体はAIに代替させても構わないので、より上流の判断責任を負う領域へ最短で育成し、その責任を果たした人をしっかり報いる仕組みに組み替えることが重要です。

▪️ 責任を負う主体として「選び、削ぎ落とす」:羽深氏(京都大学大学院教授)
AIはプログラムですので、間違えたところで消去してやり直せば済みますので、責任を負うわけではありません。AIに『美味しいラーメンを作って』と言うと、豚骨も醤油も鶏ガラも具材も全部乗せた豪華なものを出してきますが、濃すぎて食べられません。人間ができるのは、その膨大な選択肢の中から、自分たちにとって最高の『一削ぎされた塩ラーメン』を選ぶことです。ルールも引き算の発想で、我々が真に達成したい本質的な価値という原則に立ち返り、方針として示すことが経営の果たすべき役割だと思います。

羽深氏(左)と米田氏(右)

育成・評価・ルールのいずれも、軸は「作業量」から「判断と責任の引き受け方」へと移ります。AIが示す選択肢を自らの頭で絞り込み、物語や原則として示せる人材と組織が、AI時代の競争力を支える。そんな姿が描き出されました。

4. クロージング:各登壇者からのメッセージ

会社の姿が大きく変わろうとするなか、決めることも、変えることも数多くあります。セッションの最後に、4名がそれぞれの立場から、会場の皆さんへメッセージを送りました。

左から、村山氏、羽深氏、羽間、米田氏、白石氏

▪️ 「信頼のバトン」を自分たちで作る:羽深氏(京都大学大学院教授)
これまでは、どこかに答えが書いてあるはずだ、それをみんなで守ろうという受動的な発想だったかもしれません。これからは、いかに自分たちで主体的に信頼を構築し、それを次の世代へ渡していくかが重要になります。『信頼のバトン』を自分たちで作り出すという主体的な姿勢を、ぜひ持っていただきたいと思います。

▪️ ポジティブな意思で技術を捉え直す:羽間(エクサウィザーズ)
AIに関しては、セキュリティや過度なリスクなど、ネガティブな報道や不確実な情報も多くあります。しかし、テクノロジーをどう使うかの意思を出すのは、我々人間です。これを使えばもっと生活や仕事、社会が良くできるのではないか、というポジティブな意思を持って、テクノロジーを捉え直すことが大切です。そうした挑戦を皆さんと一緒に行っていければと思っております。

▪️ 責任を引き受ける覚悟と、引き算の思考:米田氏(LINEヤフー)
個人としては、責任を引き受ける覚悟が重要になります。問いを立てること自体もAIが無限に行えてしまう時代において大事なのは、不要なタスクや悪い問いを削ぎ落として捨てる能力です。何を減らし、何を捨てるかという思考が、責任を取る上で非常に重要になります。

▪️ 人間の「意思」を起点に、組織構造を問い直す:白石氏(三井住友FG)
タスクを処理する能力はAIが人間を圧倒します。だからこそ人間の役割としては、AIには存在しない『意思』や『何かをしたいという人間の欲求』を大切にすること、そして出てきたアウトプットにどう意味付けをするかが重要です。AIを前提とした時に最適となる新しい組織構造・経営手法へいかにチャレンジしていくかが、今後の大きなテーマになると思います。

最後に村山氏は「仕組みの作り直しには手間も時間もかかり、新たな課題も出てくる。それでも、働き方だけでなく、会社のあるべき姿や文化を自分たちの手で創り直せる時代になった。」と締めくくり、会場の大きな拍手の中でセッションは幕を閉じました。

まとめ

本セッションで見えてきたのは、AIが作業を肩代わりするほど、人間には意思・責任・問いの設定・物語・引き算といった意味づけと決断の力が求められる、ということです。育成や評価、ルール、組織構造も、この前提で見直す必要があります。

エクサウィザーズは今後も、AIプロダクトの提供にとどまらず、経営課題に対してAIでできることに全力で取り組み、「AIを用いた社会課題解決を通じて幸せな社会を実装する」というミッションの実現をめざします。

 

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