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AI計算資源、OpenAIとAnthropicへ集中か SemiAnalysis創業者が描く「2社支配」のシナリオ

AI計算資源、OpenAIとAnthropicへ集中か SemiAnalysis創業者が描く「2社支配」のシナリオ

推論収益を次世代モデルの開発へ再投資する循環が、AI業界の寡占化を加速させている。半導体・AIインフラ調査会社SemiAnalysisの創業者Dylan Patel氏は、Dwarkesh Podcastに出演し、現在の傾向が続けば、2028年末にはOpenAIとAnthropicが世界の実用的なAI演算能力の大半を事実上コントロールする可能性があるとの見方を示した。

ただし、これは設備の法的所有権を意味しない。クラウド企業などが所有する設備でも、最終的に両社のモデル提供や研究開発に使われる場合は、両社向けの計算資源として数えている。

AIラボ、「赤字」から収益企業へ

Patel氏が注目するのは、フロンティアAIラボの採算構造の変化だ。

以前は、モデルの推論サービスを提供するほど計算コストが膨らみ、粗利益がマイナスになる場合もあった。しかし現在は、モデル性能と利用需要の向上により、計算資源から得られる売上が大きく伸びているという。

Patel氏の試算では、計算資源の基礎コストが1MW当たり1,000万~1,500万ドル程度であるのに対し、Anthropicでは同じ1MWから最大5,000万ドル規模の売上を生み出すケースがある。

これにより、AIラボは「推論に10ドル使って50ドルを売り上げ、得た利益を次のモデルの学習へ投入する」という自己強化的な循環を構築できる。

新設計算資源の半分が2社向けに

動画によると、OpenAIとAnthropic向けの設備は、今年追加されるAI計算資源の約30%を占める。すでに締結された契約を踏まえると、翌年には両社の割合が40~50%に達する可能性があるという。

新設分の半分を取得するだけでも、その影響は大きい。最新のAIチップは旧世代より電力当たりの性能が高く、Patel氏は3~5倍の性能差が生じる場合があると説明する。

そのため、電力容量やGPU台数では世界全体の半分に届かなくても、実際にAIへ利用できるFLOPsでは過半を握る可能性がある。

集中を後押しするのは、両社の支払い能力だ。同じ計算資源から競合以上の売上を得られるなら、クラウド企業やデータセンターに高い価格を提示できる。計算資源は、最も必要とする企業ではなく、最も高く収益化できる企業へ流れる。

MetaとSpaceXが「第3極」の候補

Patel氏は、OpenAIとAnthropicに次ぐ第3極の候補として、MetaとSpaceXを挙げた。

一般的なクラウド事業者は、利用顧客との長期契約を結び、その契約を担保に資金を借りてからデータセンターを建設する。一方、MetaやSpaceXは自社の財務力を使い、顧客が決まる前から大規模な計算設備を建設できる。

設備完成後には、自社のAI開発に使うか、OpenAIやAnthropicなどへ高値で貸すかを選べる。この選択権が、計算資源の供給不足が続く市場で大きな強みになる。

AIの利益は誰が取るのか

議論では、AIによって生まれた経済価値を、どの産業層が獲得するかも焦点となった。

AI産業には、半導体、データセンター、モデル、アプリケーション、最終利用者という複数の層が存在する。初期にはNVIDIAなどのハードウェア側が利益を得る一方、モデル企業は赤字だった。その後、OpenAIやAnthropicの収益力が高まり、価値の取り分がモデル層へ移りつつある。

ただし、AIを利用する企業がさらに大きな価値を得る場合もある。動画では、クオンツ取引会社Jane Streetが例に挙げられた。同社がAI利用料以上の取引利益を生み出せるなら、経済価値の多くはモデル企業ではなく利用者側に残る。

一方、AIラボが計算資源を外部提供せず、社内のAI研究に使ったほうが高いリターンを得られるようになれば、価値と計算資源は再びラボ内部へ集中する。

推論より学習・研究を優先か

Patel氏は、将来的にAIラボが計算資源のうち、推論より学習や研究開発へ振り向ける割合を増やすと予想する。

推論に使えば現在の売上になるが、研究に使って次世代モデルを開発すれば、将来の収益力と競争優位を高められる。特に、優れたAIが次のAIの開発を支援する「再帰的自己改善(RSI)」が可能になれば、社内利用の価値は急激に上昇する。

ただし両氏は、RSIがすでに始まっているとは述べていない。現行モデルにはまだRSI能力がなく、実現時期も不明だとしている。それでも、AIによるコーディングや研究支援が進むほど、「優れたモデルが次の優れたモデルを作る」という循環が強まる可能性がある。

AI投資が世界の金利を押し上げる可能性

計算資源の急拡大には、半導体だけでなく、データセンター、発電所、送電網、冷却設備などへの巨額投資が必要となる。

Patel氏らのモデルでは、2024~2029年のAI関連設備投資は累計11兆ドル規模となり、約5兆ドルを借り入れで賄う可能性があるという。

AI企業が高い投資収益を背景に高金利でも資金を借りれば、住宅ローン、国債、一般企業などと世界の資金を奪い合う。結果として市場金利が上昇し、AIと直接関係のない企業や、債務負担の大きい国の資金調達を圧迫する可能性がある。

つまり、AI投資だけが独立して拡大するのではない。資金、電力、設備、人材がAIへ移動し、世界経済全体の資源配分が組み替えられるという見立てだ。

集中を止めるものはあるか

2社への集中は確定した未来ではない。Patel氏は、次のような要因が進行を遅らせる可能性を挙げる。

  • 電力、半導体、データセンターの供給制約
  • ASML製EUV露光装置やZEISS製光学系の増産の遅れ
  • データセンター建設への政治的反発
  • AI安全規制によるモデルの開発・公開制限
  • 中国やオープンモデルを含む競合の追随
  • 計算規模拡大に対する性能向上の鈍化

動画終盤でPatel氏は、学習の規模の経済、計算資源の希少性、継続学習、RSIのいずれも、先行するラボへの集中を促すと指摘した。

AIの進歩が続くほど、モデル性能だけでなく、資本、電力、半導体、将来のデジタル労働力までが少数企業へ集まる可能性がある。AI業界の競争は、より良いモデルを作る技術競争から、世界の生産資源を誰が支配するかという産業・経済競争へ移り始めている。

出典:YouTube「Dylan Patel – “Every force is screeching towards centralization.”」公式トランスクリプト。記事中の数値と将来予測は、動画内におけるPatel氏らの推計・見解であり、確定した事実ではない。

著者
湯川鶴章

AI新聞 編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『生成AIで心が折れた』(2025年)、『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。