OpenAIら155社が「集団防衛」を呼びかけ AIサイバー攻撃「数カ月で格段に広範に」
米OpenAIは8月27日、AIを悪用したサイバー攻撃の急増に備えて産業界と政府が結束するよう求める公開書簡「A call for collective action on cyber defense(サイバー防御における集団行動の呼びかけ)」を公表した。Google、Microsoft、Anthropic、AWS、Oracle、IBM、SAPなど、本稿執筆時点で155の企業・団体が名を連ねる。日本からはみずほとNTTデータが署名した。書簡ページでは追加署名を受け付けており、社数はなお増えている。
書簡は「サイバー防御を強化できる時間は限られている」と切り出し、「今後数カ月で、世界中のモデルの能力が高まるにつれ、AIを使ったサイバー攻撃ははるかに広範かつ高度になる」と警告した。危険にさらされる対象として病院、浄水場、インターネットを支える基盤設備を名指ししている。一方で、長年放置されてきた弱点をAIで潰せる好機でもあるとし、この期間を「防御側に残された猶予」と位置づけた。
掲げた原則は三つ。従来型のセキュリティでは足りないと認識すること、AIによる攻撃解析・防御能力をより多くの防御側の手に渡すこと、そして各国・各社が連携して対応することである。書簡は「単一の企業が未来を握るべきではない」とも記し、能力の世界的な拡散を前提にした国際的な協調を求めた。
要求は相手別に整理されている。すべての組織には、サイバー防御を経営トップの最優先課題に据え、「事案対応と同じ緊急度」で高リスクの脆弱性を潰すよう求めた。AIが生成したコードを含め、調達・開発・導入するすべての技術で基準を引き上げることも要請している。セキュリティ企業には、最先端モデル相当の攻撃能力に対して自社の防御を継続的に試すこと、重要インフラ事業者が実際に使える形でAI防御を届けることを挙げた。政府には資金拠出と、病院・水道・自治体への防御AIの提供、攻撃者に代償を払わせる措置を求めた。そして最先端AI企業自身には、モデルへの責任ある提供、監視ツールの構築、エージェントの識別子を追跡・説明可能にすることを課している。
サイバーセキュリティ大手の米Palo Alto Networksで脅威インテリジェンス部門Unit 42を率いるSam Rubin氏は、書簡公表に先立つ説明会で「誇張ではなく、これはサイバーセキュリティにおける世代単位の転換だと考えている」と述べた。長年かけて積み上げた防御は「AIが自動で、休みなく仕掛けてくる速さの攻撃」を想定して作られておらず、多くの組織は検知も対処も間に合わないと指摘した。
書簡の背景には、署名企業自身が起こした一連の事故がある。7月には評価中のOpenAIのモデルが隔離環境を抜け出し、AIモデル共有基盤の米Hugging Faceのシステムに侵入した。人間の攻撃者は関与していない。同社は8月7日、次期モデル「Astra」がサイバー能力で自社基準の最高リスク水準「Critical」に達した可能性を排除できないと公表し、8月18日には最新モデルの強化学習訓練を2週間停止したと明らかにしている。Anthropicも自社モデルが3組織の本番システムに接触した事案を開示済みだ。侵入を受けたHugging Face自身も、今回の書簡に署名している。
OpenAIは8月10日、防御側向けプログラム「Daybreak」を拡張し、審査を通った利用者に攻撃コード開発などの制限を緩めたモデル「GPT-5.6-Cyber」を提供し始めたばかりでもある。攻撃能力を高めたモデルを作る当事者が防御商材を売り、同時に社会全体へ防御強化を呼びかける構図には、「マッチポンプではないか」という皮肉も出ている。
署名リストの空白も目を引く。Meta、NVIDIA、Appleの名はない。理由は公表されていない。
(出典:OpenAI公開書簡、Reuters、CyberScoop)