AI設計薬Rentosertib、一部患者の老化指標が若返り方向へ
人工知能(AI)を使って設計した新薬候補「Rentosertib(レントサーティブ)」を投与した患者で、体の老化度を示す指標が若い方向へ動いた。香港に拠点を置く創薬企業Insilico Medicineなどの研究チームが発表した。成果は7日、英科学誌ネイチャー・バイオテクノロジーに掲載された。
研究チームが使ったのは、血液中のタンパク質から「生物学的年齢」を推定する6つの指標。いずれのモデルでも、薬を投与した患者は偽薬を使った患者に比べ、推定年齢が下がる傾向を示した。
ただし、人の老化が実際に遅くなったことや、寿命が延びたことを証明したわけではない。分析対象は42人と少なく、全員が特発性肺線維症の患者だった。観察期間も12週間にとどまる。
Rentosertibは、肺が硬くなり、呼吸機能が徐々に低下する特発性肺線維症の治療薬候補だ。AIで病気に関係するタンパク質「TNIK」を標的に選び、生成AIを使って作用する化合物の構造を設計した。
今回の研究では、中国で実施した第2相前期試験の保存血清を詳しく調べた。元の試験では患者71人を、投与量や回数が異なる3群と偽薬群に無作為に分けた。そのうち、必要な血液試料がそろった平均67歳の42人について、2841種類のタンパク質を測定した。
投与4週後に、最もはっきりした変化がみられた。30ミリグラムを1日2回投与した群では、多くのモデルで生物学的年齢が約3~4歳、一部では最大約6歳若い値になった。
もっとも、「6つすべてで改善」という表現には注意が必要だ。6つの指標が、すべての投与量や時点で統計的に明確な差を示したわけではない。投与法と測定時点を組み合わせた各群54通りの比較のうち、研究側が定めた統計基準を満たしたのは21通りだった。結果は4週後に集中し、12週後には効果が弱まる傾向もみられた。
老化に関する指標は、年齢や死亡リスクに関係する多数のタンパク質をAIで分析し、体の状態を年齢として表す仕組みだ。変化を早い段階で捉えられる一方、数値上の若返りが、健康寿命の延長や病気の減少につながるかは分かっていない。
今回の変化も、老化そのものへの作用ではなく、肺の病気や炎症が改善した結果を映した可能性がある。
一方で、肺活量の改善が最も大きかった投与法と、老化指標の変化が最も大きかった投与法は一致しなかった。英国のバイオバンクに登録された5万5319人のデータと比べても、薬によるタンパク質の変化は、通常の加齢とは逆の方向を示した。研究チームは、肺への作用だけでは説明できない可能性があるとみている。
Rentosertibは現在、特発性肺線維症を対象とする第3相試験に進んでいる。だが、健康な人を対象に老化を抑える効果を調べた試験はない。
AI創薬が臨床の現場で成果を出し始めるなか、今回の研究は、病気の治療効果と老化の指標を一つの試験で追う試みとして注目される。次に問われるのは、数値上の「若返り」が、長期的な健康改善につながるかどうかだ。