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AIがAIを作る速度、まもなく急加速か Anthropicが上場申請書で明かす

AIがAIを作る速度、まもなく急加速か Anthropicが上場申請書で明かす
AIが次世代のAIを開発し、そのAIがさらに高性能なAIを生み出す。こうした「再帰的自己改善(RSI)」が、急速に進み始める境目に近づいている可能性がある。米Anthropicは11月2日、米証券取引委員会(SEC)に提出した新規株式公開(IPO)の申請書の修正版で、AIによる研究開発の加速が、同社の安全基準で定めた重要な水準に「まもなく到達する可能性がある」と明らかにした。

これは外部の専門家による予測ではない。最先端AIを開発している企業自身が、社内の推計と次世代モデルの見通しに基づいて示した判断だ。しかもAnthropicは、AIによる開発の加速が起きても、同社自身がすぐには気づけない可能性があると警告している。

「まもなく到達する可能性」SEC提出文書に明記

Anthropicが今回の修正版で追加したのは、投資家に事業上の危険を説明する「リスク要因」の記述だ。

同社は次のように記している。

Our internal estimates and our expectations regarding future models, rather than our current models, indicate that we may imminently meet our Responsible Scaling Policy’s definition of “dramatically accelerated progress attributable to AI.”

「現在のモデルではなく、社内の推計と将来のモデルに関する見通しによれば、当社は責任あるスケーリング方針で定義する『AIに起因する劇的な進歩の加速』の基準に、まもなく到達する可能性がある」

ここでいう責任あるスケーリング方針(Responsible Scaling Policy、RSP)は、AIの能力が高まるにつれて、どのような安全対策を講じるかを定めたAnthropic独自の方針だ。

同社の2026年7月版RSPでは、AIによる研究開発の自動化が進み、AI全体の能力向上の速度が従来の2倍になることなどを、劇的な加速を判断する基準にしている。単にプログラムを書く速度が2倍になるという話ではない。AIの研究開発そのものが加速し、次世代AIの能力向上がさらに速くなる状態を指す。

ただし、Anthropicは現在のモデルがこの基準を超えたとは認定していない。今回明らかにしたのは、今後のモデルがその水準に近づいているという見通しだ。具体的な到達時期やモデル名も示していない。

この記述は、10月26日に提出した最初の上場申請書にはなかった。11月2日の修正版で新たに加えられたもので、米テクノロジーメディアのTechCrunchも同日、AnthropicがRSIの実現に近づいていると報じた。

Claudeが次のClaudeを開発する

AIがAIを改良する循環は、すでにAnthropicの社内で始まっている。

同社は上場申請書で、各世代のClaudeが次世代Claudeの開発を加速する仕組みを「closing the loop(ループを閉じる)」と呼んでいる。

現在のClaudeは、次世代モデルの研究や学習、評価など、開発工程のさまざまな場面で利用されている。実験の実行、学習データの生成と処理、モデルの性能評価、安全性の検査、プログラムの作成とレビューなどだ。

こうした作業をAIが担えば、研究者はより多くの実験を短期間に実施できる。その結果、より高性能なAIが生まれ、そのAIが次の研究開発をさらに加速する。これがRSIの基本的な仕組みだ。

実際、Anthropicの社内ではAIによる開発作業が急速に増えている。

上場申請書によると、2026年9月には、同社のコードベースに対する貢献の90%以上をClaudeが作成した。また、エンジニア1人当たりの1日の平均コード貢献量は、2024年の平均と比べて2026年7〜9月には45倍以上になった。

もちろん、コードの量が45倍になったからといって、AIの能力向上が45倍速くなったわけではない。それでも、AIが次世代AIの開発を支える重要な役割を担うようになったことは確かだ。

Anthropicは、こうした循環によって、同じ計算資源からより高い性能を引き出す技術的な改善も速く発見できるようになったと説明している。AIが研究開発を加速し、その成果が次世代AIをさらに高性能にする循環を、同社は競争上の強みと位置づけている。

AIの進化が加速しても、すぐには気づけない

今回の上場申請書には、もう一つ重要な警告がある。

Anthropicは、AIを使った研究開発の加速によって、モデルの能力向上が、安全対策やセキュリティ対策の進歩を上回る可能性があると指摘した。

さらに、同社は次のように記している。

We have in the past not identified, and may in the future not identify, a significant acceleration in our rate of development until after it has occurred.

「当社は過去に、開発速度が大幅に加速したことを、その発生後まで把握できなかった。今後も同様のことが起こる可能性がある」

AIが研究開発をどれほど加速したかを測るには、一定期間の成果を振り返る必要がある。新しいAIが登場した直後には、そのAIが開発速度にどれほど貢献したかを正確に判断できない場合がある。

このため、AIの進化が急加速する境目を超えても、開発企業自身がその事実を後から認識する可能性がある。

問題は、その間にもAIの能力が向上し続けることだ。研究開発の速度が安全性の検証や対策の整備を上回れば、企業が新しいAIの危険性を十分に把握できないまま、さらに高性能なモデルを開発する事態も考えられる。

Anthropicはこうしたリスクを認識しており、現在の安全方針の見直しを検討している。

同社は、人間による実質的な監督や理解なしに、Claudeが次々と最先端モデルを完全自律的に設計・開発することを、安全に実施できるとは想定していないと説明する。仮に技術的に可能になっても、人間がAI開発を管理し続けられる仕組みが必要だという立場だ。

AIの自己改善は予測から現実の経営課題へ

RSIはこれまで、AI研究者や専門家の間で、いつ実現するのかが議論されてきた。AIがAIを改良する循環が成立すれば、技術進歩が急速に加速する可能性がある。一方で、研究開発の自動化が進むほど、人間がAIの能力や危険性を把握し、制御することが難しくなるとの懸念もある。

今回のAnthropicの開示が重要なのは、この問題が将来の仮説にとどまらなくなっていることだ。

同社はすでにClaudeを次世代モデルの開発に幅広く利用しており、その成果を競争上の強みとしている。そして、AIによる研究開発の加速が、自社の安全基準で定めた重要な水準に近づいている可能性を、投資家に正式に開示した。

ただ、今回の判断はAnthropic自身の推計に基づくもので、第三者がRSIの到達を確認したわけではない。また、研究開発が劇的に加速することと、人間の関与なしにAIが自律的に次世代AIを作り続けることは同じではない。

それでも、AIがAIを開発する循環は、すでに最先端モデルの開発現場に組み込まれている。これまでの焦点は、AIが自分自身を改良できるようになるのはいつか、ということだった。Anthropicの今回の開示は、その問いを変えつつある。AIの進化が急加速し始めたとき、人間はそれに気づき、進化の速度を制御できるのだろうか。

 

主な資料:Anthropic上場申請書修正版(SEC、2026年11月2日)、Anthropic Responsible Scaling Policy、TechCrunch(2026年11月2日)。

 
著者
湯川鶴章

AI新聞 編集長

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『生成AIで心が折れた』(2025年)、『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。