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アステラス製薬×エクサウィザーズ
超高齢化社会の課題をデジタルプロダクトで解決へ

2022年8月29日
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アステラス製薬株式会社

従業員数約1万4500人、売上高約1兆3000億円のグローバル製薬企業。医療用医薬品を中核事業としている。2005年4月に、山之内製薬と藤沢薬品工業が合併して2005年4月に誕生した。社名は星を意味するラテン語の「stella」、ギリシャ語の「aster」、英語の「stellar」で大志の星(aspired stars)、先進の星(advanced stars)を表現している。日本語の「明日を照らす」にもつなげている。

概要

overview

アステラス製薬とエクサウィザーズは超高齢化社会がもたらす大きな社会課題に、データやデジタル技術の活用で挑戦している。2019年からAIで歩行状況を解析するスマートフォンアプリを活用し、歩行の能力や質の可視化に取り組んでいる。
エクサウィザーズは2016年創業のAIスタートアップで、「AIで社会課題を解決する」を掲げ様々な産業の顧客にソリューションを提供している。製薬企業とは研究開発からデジタルヘルスまで幅広い領域で協業を推進。AIアプリの設計・開発、データ活用・解析による価値創出、それらの企画構想から実行までワンストップで取り組む。

課題

高齢者が介護状態になることを予防するデジタルヘルスプロダクトを、医療現場の様々なスタッフに利用してもらう。デジタルのプロダクトであるアプリが対象であり、現場の声を聞いたり、結果を分析したりしながら、支援企業も含めてアジャイル型に開発していく必要があった。

解決

エクサウィザーズが保有していたAI歩行分析のプロダクトを横展開。さらにアステラス製薬のプロジェクトに携わる機械学習、ソフトウェア、UI/UXのエンジニアも現場に足を運んで、医療従事者や高齢者の方の声を聞き、プロダクトの仕様や機能、デザインに反映していった。

事例の紹介

解決するのに一刻の猶予も許されない。そんな社会課題は決して少なくない。一方で難しい社会課題の解決を目指し、IoT(Internet of Things)やAI(人工知能)に代表されるデジタルテクノロジーの活用を模索する企業が増えてきた。ところが、PoC(概念実証)や技術の有用性を確認しただけで終わる例も散見される。

肝心なことは、難問に立ち向かう姿勢を示すだけでなく、いかに社会に貢献するかである。デジタルテクノロジーを生かしたシステムやサービスを具現化し、新たなプロセスの普及と定着を図る。すなわち、「社会へ実装」する――。そうすることで、挑戦が生み出す価値は飛躍的に高まる。

そうした信念を持ち、エクサウィザーズと共に超高齢化社会がもたらす大きな社会課題の解決に挑もうとする企業がある。アステラス製薬だ。

挑戦をPoCや技術の確認で終わらせず、スピード感をもって社会実装に導く秘訣は何か。

アステラス製薬 アドバンストインフォマティクス&アナリティクス デジタルリサーチソリューションズ課長の梅田暢大氏、同 與澤智佳氏、2021年12月より、行政機関と兼任となっている新村直哉氏とプロジェクトを振り返った。エクサウィザーズからは、プロジェクトで協働しているCare&Med Tech事業部長で執行役員の羽間康至、同事業部のプロダクトマネージャーである柿沼誠、技術統括部のソフトウェアエンジニアであるコーティ・サックスマンが、今回の取り組みの意義を共有した。

デジタル化の潮流を捉え
新たな道筋を

「デジタル化が社会に広く浸透してきたことで、医療に役立てられる情報の範囲が広がってきています。病院など医療現場の外にも、ヘルスケアやライフサイエンスに有用な情報があふれています。それを製薬の領域にとどまらず、より広い医療の視野でとらえ、新たな製薬会社の姿を形作っていく。その具体的な道筋が、少しずつではありますが、見えてきた実感があります」


アステラス製薬の梅田氏。「研究部門の出身で、リアルワールドデータの取得や活用を担う現部門で、デジタルソリューション開発によるリアルワールドデータの創出と活用を担っている」

こう切り出したのは、アステラス製薬アドバンストインフォマティクス&アナリティクス(AIA) デジタルリサーチソリューションズの課長を務める梅田暢大氏である。AIAは、アステラス製薬が掲げる「変化する医療の最先端に立ち、科学の進歩を患者さんの『価値』に変える」というVISIONに沿ってプロジェクトを推進している。

国内外の市場環境が目まぐるしく変化し、技術の進化が著しいなか、次世代像を描きそれに近づくのは容易くないはずだ。にもかかわらず、梅田氏が「道筋が見えてきた」と言うのは、訳がある。アステラス製薬とエクサウィザーズが常に、新たなサービスやプロセスの社会実装を想定してプロジェクトに臨んできたからである。

AIAで推進するプロジェクトの基本的なスタンスを梅田氏は次のように説明する。

「医療を含む社会課題解決において、単にアプリやシステムを作るだけでは不十分です。いかに社会に実装し、ビジネスとしても成り立つ可能性を示していくか。ここまで行ってはじめて、社会課題の解決に貢献する道筋が見えてくると思います」

動画から骨格の動きを捉え
AIが歩行機能を自動で評価

アステラス製薬とエクサウィザーズは2021年8月から、要介護状態にならないよう支援する「介護予防」の重要性を踏まえたプロジェクトを推進してきた*。具体的には、国立長寿医療センターおよび順天堂大学・スポートロジーセンターと共に、歩行機能を評価するスマートフォン用のアプリを開発して実証試験を行っている。

*アステラス製薬とエクサウィザーズは2019年から、骨粗鬆症の疾患啓発アプリで協業をしている。

新アプリの大きな狙いの一つは、高齢者の介護予防に貢献すると同時に医療現場の支援に役立てること。そのために専門知識を持たなくても、歩行機能を正しく評価する仕組みについて、デジタルテクノロジーを駆使して構築する。歩行機能の状態を知ることは、要介護や健康のリスクを把握するのに有用とされる。しかし、歩行機能を評価するには従来、理学療法士や作業療法士の専門的な知識が必要だった。

新アプリはエクサウィザーズが開発した独自のAIアルゴリズムを用いて、歩行の能力や質を可視化する。高齢者の歩行の様子をスマートフォンで撮影した2Dの動画から骨格情報を抽出し、専門家のノウハウを取り入れた独自のアルゴリズムを用いて歩く速度やリズム、ふらつき、左右差など複数の指標に基づき歩行機能を即座に評価可能。また介助者を伴う歩行においても新アプリが高齢者のみを検出し評価することができる。さらにリハビリやトレーニングの結果に加え、高齢者の身体の痛みなどもアプリに記録しておくことができる。

開発・改良をアジャイルで実践
多様性と現場重視で課題解決


エクサウィザーズの事業責任者である羽間(中央)、ソフトウェアエンジニアのサックスマン(左)、プロダクトマネージャーの柿沼(右)

実証試験では毎月、歩行機能の評価に参加してくれる理学療法士や作業療法士、リハビリやトレーニングに臨む患者の満足度を調べた。その結果は「本当にきれいに右肩上がりで高まり続けました」とエクサウィザーズの羽間康至は話す。

アプリの開発や改良、実証試験など一連のプロジェクトをアステラス製薬とエクサウィザーズの両社がアジャイル方式で推進してきたことが大きい。

使うに足る品質になっているか。機能や使い勝手に影響を及ぼす事情や要因が、利用現場に隠れていないか。実証試験では、プロダクトマネジメントを担当しているエクサウィザーズの柿沼誠が中心となり、理学療法士や患者の合計20人弱にヒアリングを繰り返した。そして歩行機能の評価結果の伝え方など改良を重ねてきた結果、利用者の満足度が高まった。


アステラス製薬の新村氏。開発部門で統計に取り組んでいたが、ヘルスケアへのAI応用に興味を持ち現部署に。現在は行政機関に勤務

アステラス製薬の新村直哉氏は、アジャイル方式で臨んだプロジェクトを次のように評価する。

「いったんデザインを固定するとなかなか動かせない製薬の臨床試験と違い、今回のプロジェクトはデジタルヘルスプロダクトの開発ということで、実証の参加者の声を聞いて課題が見つかるたびに協議し、タイムリーにアプリに反映してきました。そのため迅速に機能や使い勝手の向上が図れました」

そもそもなぜエクサウィザーズがこのプロジェクトに選ばれたのか。アステラス製薬の梅田氏は「他のAIスタートアップと比べると多様な専門性を持ったメンバーがいて、現場を重視している。いろんな観点から成果につながりやすいチームを構成していると思う。現場重視は特に今回のプロジェクトに欠かせない。課題を分解してできるところをまず実現し、そして最後にはやり抜いてくれる」と評価する。

実際、ソフトウェアエンジニアであるコーティ・サックスマンは何度も現場に足を運んだ。「以前の会社ではあまりなかったが、エクサウィザーズでは現場に行くことが多い。ソフトウェア開発の際に、どのデータをどのように、どのタイミングで利用者に見せるのかなど、実装の際に参考になっている」

プロダクトマネージャーの柿沼も「現場に行くと、会議や資料では見えなかったものが浮かび上がる。実際の利用者の心情、困りごとがリアルにわかる。こうして現場に通って把握して、プロダクトにしっかりと反映してきたし、今後もしていきたい」と語る。

患者の「やる気」に好影響
本格運用への手応えもつかむ

利用現場の声を取り込みながら改良を重ねたアプリは、歩行機能の評価という元々の役割にとどまらず、コミュニケーションツールとしての役目も担うようになっていった。例えば、アプリを介することで、理学療法士と患者が同じ情報を基に歩行機能について対話し信頼関係を築きやすくなった。

梅田氏の脳裏には、実証のフィールドで患者へのヒアリングに立ち会ったときの光景が、今も強く残っているという。理学療法士とアプリを見ながら楽しそうに話をする患者の姿があった。

「患者さんが撮影した動画や歩行機能の評価結果を確認しながら、理学療法士のかたと『次はもっとこの部分をよくしていこう』とすごく楽しそうに話していました。その様子を見たとき、デジタルが人と人をうまく結びつけることで、新たな価値を生み出しているのだと実感しました。アプリを作り込むことばかりに意識をとられず、アプリを含むトータルの体験をどうデザインしていくかが極めて大切だと改めて確認できました」

アプリを介して患者のやる気を引き出したり、前向きな気持ちになってもらったりすることの利点は、決して小さくない。歩行機能の評価は、結果の推移を長い目で継続して見守ることが大切だからである。そのため、いかにしてモチベーションを高めつつアプリを使い続けてもらうか、アプリの本格運用に向けてハードルの一つだった。梅田氏の話から、このハードルはクリアできるとみてよさそうだ。


アステラス製薬の與澤氏。MRでの営業や現場の経験を生かすため、外部との連携で課題解決に取り組める現部署への異動を志願した

アステラス製薬の與澤智佳氏も、現場に寄り添いながらアジャイル方式で進めてきた実証試験を経て、本格運用への確かな手ごたえをつかんでいる。

「実証試験の期間中、アプリのユーザインタフェースは日増しに良くなっていきましたし、実証試験を通じて具体的な議論を重ねたことにより、アプリの本格運用に向けた知見が深まった実感があります。エクサウィザーズさんは、柔軟に対応いただけるのもありがたいと思っています。アプリでの情報提供だけでは患者さんに伝わらない面もあるから、紙ベースでの提供も考えようなど、実情に即したご提案をいただいて一緒に議論してきました」

新たなエコシステムの構築へ
膨らむ将来への期待

ここまで、社会実証を視野に入れたプロジェクトの一例として、2021年7月に始めた実証試験を紹介してきた。だが、社会課題の解決に向けたアステラス製薬とエクサウィザーズのプロジェクトは、実は2022年で4年目に突入している。その間、停滞することなく複数のプロジェクトで協働できた要因を梅田氏は、「将来のヘルスケアへ貢献するという上流の目標を見据え、それを実現するための大きなビジョンを互いに共有・共感してこられたことが大きい」と分析し、挑戦する意義を説明する。

「デジタル接点を通してデータが集まる仕組みをいったん構築すると、そのあとは着実にデータが集まり続けます。だからこそ誰かが取り組む前、競争が本格化する前に、デジタル化の潮流を捉えた次世代の製薬会社を目指して挑戦する意義があります」

最後に、新村氏と與澤氏にプロジェクトの将来への期待を聞いた。

「デジタルテクノロジーの進化やデータ活用方法の多様化は、そのままビジネスチャンスだととらえています。今後も大きなプラットフォームを作っていくという気概でプロジェクトを進めるなかで、取り組みが当社以外にも広がり、最終的に医療の新たなエコシステムが機能するようになればと思います」(新村氏)

與澤氏も目線は社会や産業への拡大にある。「今回のプロジェクトをより大きな取り組みへと発展させることができれば、自社はもちろんですが、製薬会社を含む産業全体の価値を高めることにつながるはずです。例えば、医療費や介護費を削減できる可能性をプロジェクトで示し、その成果を国へ、そして世界へ発信できるようにしたいです」


エクサウィザーズの社内で議論する、AIやソフトウェアのエンジニア陣。職種だけでなく国籍や出身業界などバックグラウンドも多種多様だ。

AIスタートアップであるエクサウィザーズだが、AIやDXのプロジェクトの設計から実装、そして運用まで一貫で担当できるのが強みである。そのため機械学習エンジニアだけでなく、コンサルタント、プログラムマネージャー、ソフトウェアエンジニア、UI/UXデザイナーなど、顧客が必要とするあらゆる職種の担当者が連携し、顧客、そして社会の課題解決に取り組んでいる。今回のプロジェクトはまさにそうした「フルスタック」で臨んでおり、顧客と二人三脚で様々なハードルをクリアしてきた。

デジタルやAIを医療や製薬の世界にとどまらせず、社会課題解決に応用した、アステラス製薬とエクサウィザーズ。高齢化社会の進展とともに、デジタルテクノロジーに新たな波が訪れている。実効性に注視し社会課題解決に挑む今回のプロジェクトの重要性は、ますます高まっていくことだろう。

Member

  • 羽間康至
    羽間康至
    株式会社エクサウィザーズ
    Care&Med Tech事業部長
    執行役員
  • 柿沼 誠
    柿沼 誠
    株式会社エクサウィザーズ
    Care&Med Tech事業部
    プロダクトマネージャー
  • コーティ・サックスマン
    コーティ・サックスマン
    株式会社エクサウィザーズ
    技術統括部
    ソフトウェアエンジニア
※記事中の役職名は取材当時のもの
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